柳井社長の売上高10兆円を見据えた「原動力」 分割されても高いユニクロの株に手が届く日は来るのか
Finasee / 2023年11月28日 17時0分
Finasee(フィナシー)
ファーストリテイリング株式に「カップ・ウィズ・ハンドル」(※)出現の兆しが見られます。2022年前半まで続いた下落トレンドが転換し、2023年6月には3万7000円台を回復しました。チャートは大きなボウル状を描いた後にやや下落が見られ、カップの取っ手を形成する展開となっています。
※カップ・ウィズ・ハンドル(cup with handle):取っ手の付いたコーヒーカップのようなチャート形状のこと。著名投資家ウィリアム・オニールが提唱した。株価がカップの高値を上に抜けると一段高となるシグナルとされる。
【ファーストリテイリングの業績】
売上高 純利益 2022年8月期 2兆3011億円 2733億円 2023年8月期 2兆7666億円 2962億円 2024年8月期(予想) 3兆0500億円 3100億円※2024年8月期(予想)は2023年8月期における同社の予想
出所:ファーストリテイリング 決算短信
【ファーストリテイリングの株価(月足、2020年11月~2023年11月)】
出所:Investing.comより著者作成ファーストリテイリングは収益性と市場評価性の高さから「JPXプライム150指数」の構成銘柄に選ばれました。
ファーストリテイリングの強さの理由はなんでしょうか。製造アパレルならではの利益率と世界で浸透する「ライフウェア」戦略を紹介します。また21年ぶりに株式分割を実施した背景にも触れてみましょう。
『ユニクロ』『ジーユー』擁する世界3位の製造アパレルファーストリテイリングはユニクロやジーユーといったブランドを展開するアパレル企業です。1984年にユニクロ1号店を出店し、現在では世界中に3578店舗(2023年8月)を展開しています。
ファーストリテイリングは代表的な製造アパレル企業でもあります。製造アパレルとは商品を自ら生産する業態を指し、顧客のニーズに沿った商品を展開しやすい利点があります。東レと開発した「ヒートテック」や「エアリズム」といったヒット商品も、製造アパレルだからこそ誕生したといえるでしょう。
高機能衣料は世界でも人気が厚く、コロナ禍で落ち込んだ2019年度を除けば売上高は順調に増加してきました。現在ではファーストリテイリングは業界3位のシェアを持ちます。
【ファーストリテイリングの売上高(2014年度~2022年度)】
出所:ファーストリテイリング 連結業績推移より著者作成【世界の主な製造アパレルの売上高】
1位.インディテックス(ZARA):4兆7000兆円(2023年1月期)
2位.H&M:2兆9300億円(2022年11月期)
3位.ファーストリテイリング:2兆3000億円(2022年8月期)
出所:ファーストリテイリング 業界でのポジション
高い利益率もファーストリテイリングの強みです。製造リスクを引き受けて自ら商品を生産する製造アパレルは、一般的な小売業より利益率が高くなる傾向にあります。売上高ではセブン&アイHDやイオンに劣りますが、営業利益は同水準です。
【主な小売業の営業利益率(2022年度)】
売上高 営業利益 営業利益率 セブン&アイHD 11兆8113億円 5065億円 4.3% イオン 9兆1168億円 2098億円 2.3% ファーストリテイリング 2兆7666億円 3811億円 13.8%出所:各社の決算短信
「売上高5兆円が見えてきた」 ファストリはなぜ強い?創業者で代表取締役会長兼社長の柳井正(やない・ただし)氏は2023年10月、2022年度決算説明会で「売上高5兆円への道筋はほぼ見えている」と話し、将来的に10兆円を目指すと明かしました(出典:ファーストリテイリング 2023年8月期決算説明会)。
10兆円を売り上げる日本企業は多くありません。小売業ではセブン&アイHDが到達するのみです。ファーストリテイリングの実績からは3.6倍以上に達する大きな目標ですが、柳井氏は自信をにじませます。
【上場企業 売上高ランキング上位3銘柄(2022年度)】
1位.トヨタ自動車:37兆1543億円
2位.三菱商事:21兆5720億円
3位.本田技研工業:16兆9077億円
(参考)8位.セブン&アイHD:11兆8113億円
(参考)16位.イオン:9兆1168億円
(参考)56位.ファーストリテイリング:2兆7666億円
出典:日本経済新聞 売上高ランキング
柳井氏はファーストリテイリングの原動力は「ライフウェア」にあるといいます。「究極の普段着」をコンセプトに、機能的で丈夫な服を誰でも買いやすい価格で売る戦略です。多くの高級ブランドを展開するLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)とは対照的な戦略といえるでしょう。
誰にとっても価値を感じやすい商品は世界展開しやすく、ファーストリテイリングのグローバル化が成功した理由の一つだと考えられます。ユニクロ事業の海外売上比率は61.7%と、2013年8月期(26.9%)から2.3倍に増加しました。売上高10兆円を目指す同社の目標は、引き続き海外での成否がカギを握りそうです。
分割でもまだ高いファストリ株 今後の引き下げはある?ファーストリテイリングは2023年3月、2002年4月以来となる株式分割を実施しました。分割比率は1:3で、従来800万円以上が必要だった投資単位が3分の1となりました。現在の投資単位はおよそ368万円です(2023年11月20日終値)。
株式分割の背景には東証(東京証券取引所)の要請が働いたとみられます。東証は個人投資家が投資しやすい投資単位として50万円未満という水準を設けています。この実現を目指し、最低投資額が50万円を超える上場企業に対して2022年10月に引き下げを要請しました(出所:東京証券取引所 投資単位の引下げに係るご検討のお願い)。ファーストリテイリングの21年ぶりの株式分割はこれを受けて実施されたと考えられます。
ただし分割後もファーストリテイリング株式の投資単位は東証の水準を大きく上回ります。50万円未満とするには7~8分の1に引き下げる必要がありますが、株式分割が直ちに実施される可能性は低いでしょう。
ファーストリテイリングは株式分割に消極的で、1994年の上場以来で5回しかありません。また増資などで株式市場から資金調達したこともなく、かつすでに市場の評価も高いことから、株式に関する施策には関心が低い可能性があります。2023年11月に公表した投資単位の引き下げ方針でも「多面的に検討した上で対処」という従来の説明を繰り返すのみでした(出典:ファーストリテイリング 投資単位の引下げに対する考え方及び方針について)。
多くの個人投資家にとって、当面はファーストリテイリングへの投資は証券会社が提供する単元未満株取引サービスを利用することになりそうです。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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