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息子の留学費用まで使い込み… ホストにハマった主婦の“懲りない”末路

Finasee / 2023年11月29日 17時0分

息子の留学費用まで使い込み… ホストにハマった主婦の“懲りない”末路

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

富裕層とまではいかないが、裕福な家庭で専業主婦をしている冬美は退屈で単調な日々を送っていた。ある日、学生時代の友人・亜紀子に誘われて人生初のホストクラブへ行くことに。そこで出会ったホスト・瑠衣といると、冬美は忘れていた幸せを感じるようになっていた。

●前編:営業とわかっていても… 疲れ果てた40代専業主婦を癒した「運命のホスト」との出会い

瑠衣との至福の時間

積み上げられたグラスに琥珀(こはく)色のシャンパンが注がれる。歓声とコールが響く。瑠衣は掲げたグラスの中身を一気に飲み干し、冬美にとびきりの笑顔を向ける。たったそれだけで、冬美の胸には心地よい熱が広がる。

盛り上がる店内の合間を縫って、瑠衣が隣に戻ってくる。

「ありがとう、冬美さん」

冬美の肩に瑠衣の腕が回された。思いのほか筋肉質で引き締まっている瑠衣の身体に、冬美は寄りかかる。店内はシャンパンタワーに湧いている。その中心にいるのは、他でもない冬美だ。

「ね、瑠衣。今日はね、プレゼントがあるの。先月、すごく頑張ってお店のランキングもよかったでしょ? だからそのお祝い」

「え、うれしい。開けてもいい?」

冬美は瑠衣に上品にラッピングされた手のひら大の箱を渡す。瑠衣が箱を開けると、中にはオメガの腕時計が入っている。

「うわぁ」

クールな瑠衣がクリスマスの朝を迎えた少年みたいに笑顔になる。いや、ぴかぴかと銀色に光る腕時計をつけながらはしゃいでいる瑠衣は少年そのものだ。

「いいの? でもこれ高かったんじゃない? 今日だってシャンパンタワー入れてもらってるし」

「いいの。いつもこうやって一緒に過ごせることのお礼でもあるんだから」

「ありがとう。でもさ、俺だって冬美さんがこうやってお店に来てくれるだけでうれしいんだ。だから無理はしないで」

瑠衣が冬美の頭をなでてくれる。

幻想とわかっていても

亜紀子たちとホストクラブに来たあの日に知ってしまった熱を、冬美は忘れることができなかった。

ちょっとした同窓会があると夫にうそをつき、冬美は次の週もホストクラブに向かっていた。罪悪感はあった。しかし瑠衣にまた会えることを思えば、そんなささいなものはあっという間に塗りつぶされていった。

「あれ、今日この前と違う香水だ。ディオールのブルーミングブーケでしょ? 俺、この匂い好きなんだよね」

席について早々、瑠衣の顔が首元に迫る。もっと念入りに歯を磨いてくればよかったと、冬美は息を止める。

瑠衣はいつも冬美が会うためにした努力やささいな変化に気づいてくれた。化粧やネイルを変えれば褒めてくれたし、夫に小言を言われて落ち込んでいたときは「今日いつもより元気ないね」と手を握ってくれた。

もちろん、それが瑠衣の仕事であることは分かっていた。すべては幻想だ。けれどいくら家事をしたところで褒められることも認められることもなかった冬美にとって、瑠衣の存在もくれる言葉もかけがえのないものだった。

だから瑠衣から売り上げに困っていると言われれば、多少無理をしてでも高いお酒を入れ、天井に届きそうなシャンパンタワーを建ててもらった。瑠衣の誕生日には彼が欲しがっていたクロムハーツのアクセサリーを贈り、1本数十万円するようなシャンパンを何本も頼んだ。

もちろん一介の主婦が自由にできるお金がそう多いわけはない。家計をやりくりするなかでためていたへそくりはあっという間に底を尽き、冬美は息子の進学や留学のためにと地道にためていた貯金を使うようになった。最初は数百万あるうちの数万円だけ。しかし一度抜き始めれば、2度目以降のハードルは低かった。1回2~3万円でも、積み重なればあっというまに100万円を越えた。

化粧や洋服、ネイルにも気を使う必要があった。みすぼらしいまま瑠衣の隣にいることは、そのまま瑠衣の格を落としてしまうことになると思った。

貯金はあっという間に底が見え始めた。金策に考えを巡らせるのは面倒だったが、瑠衣のためだと思えば苦労はなかった。やがて冬美は少しだけならと消費者金融でお金を借りるようになる。夫の仕事のおかげか、あっさりと30万円も手に入った。冬美はそれを一晩で使い切った。

冬美には、もう瑠衣に出会うまでの日々をどうやって生きていたのか分からなくなっていた。

夫の反撃

「なあ、最近ちょっとおかしくないか?」

夫が読んでいた夕刊から顔を上げる。ちょうど通販で頼んでいたブランドもののスカートが届いたところだった。

「おかしいって何が?」

「いや、だってさ、ちょっとした同窓会ってそんなに頻繁にあるものなのか? 何か今の生活に不満でもあるのか?」

「不満? あるわけないじゃない。どうしたの? あなたのほうがおかしいわよ?」

冬美は笑う。決してうそはついていない。瑠衣のいる生活に、不満なんてあるわけがない。冬美はこの色鮮やかな日々に満足している。

けれど夫は冬美から視線をそらさない。久しぶりに見た気がする夫の顔は、何かを暴こうと、あるいは何かを伝えようと、まっすぐに冬美へと向けられている。

「本当は何をしてるんだ?」

「何のこと?」

言うつもりはなかった。ただお酒を飲みに行っているだけだ。なかには瑠衣と肉体関係を持つような客もいるらしかったが、冬美は結婚もしているからその一線だけは守っている。何も後ろめたいことはない。

「分かった」

夫は席を立ち寝室へと戻っていった。やがて戻ってきた夫は封筒を取り出して机に並べた。それは借金の督促状とほとんど空になっている貯金の通帳だった。

「正直に話してくれるかと待ってたんだ。……何に使ってるんだよ、こんな額」

夫は悲痛な表情で冬美を見下ろした。冬美はうつむいた。借金の金額は、冬美が借りた額の倍以上に膨れ上がっていた。

「だからちょっとした同窓会で……」

「そんなわけないだろう! なんで1000万近くあった貯金がこんなに減ってるんだ! 正直に話せよ!」

「怒鳴らないでよっ!」

冬美は声を張り上げた。狂ったように押し寄せた津波が必ず引いていくように、リビングは冷たく鋭い静寂に満ちていく。

「……出てってくれ。俺の家だ。しばらく実家で頭でも冷やせよ」

瑠衣からのメッセージ

けっきょく冬美は離婚を突きつけられた。話し合いの余地はなく、一方的な結末だった。きっと元から家に居場所なんてなかった。これから夫と息子は、冬美がいなくとも2人でそれなりにうまくやっていくのだろう。

借金については夫が全額肩代わりをしてくれた。寂しい思いをさせた自分にも落ち度があると夫は言っていたが、それが罪悪感ではなく彼のプライドからの行いであることはなんとなく冬美にも分かった。

実家にい続けるのもばつが悪く、冬美は別の街で暮らし始めた。景色は田園都市線沿いの一軒家から郊外にある築25年のアパートへと変わった。スーパーの精肉売り場で試食コーナーのソーセージを焼く日々は、ホストクラブほどの刺激はなくとも悪くない。

あれから瑠衣には会えていなかった。自分の意志で行っていないわけではなく、会いに行くためのお金がなかったのが理由だ。

小さな休憩室の隅に座りながら、コンビニで買った菓子パンを食べる。スマホにメッセージが届いていた。亜紀子だろうか。離婚して以来、ランチの誘いは断り続けている。彼女たちの満ち足りた日々を見せつけられて、平気な顔で笑っていることはできそうにない。

亜紀子からだと思ったメッセージは瑠衣からだった。

『冬美さん、最近会えなくて寂しいよ。またお店で待ってるから』

胸のうちに幾夜の熱がよみがえる気がした。

瑠衣が褒めてくれた指で、冬美はスマホをタップした。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

Finasee編集部

「インベストメント・チェーンの高度化を促し、Financial Well-Beingの実現に貢献」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAやiDeCo、企業型DCといった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。

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