まだ販売される「仕組債」 金融庁が問題視する“販売姿勢”とは
Finasee / 2023年12月4日 18時0分
Finasee(フィナシー)
トラブルが多いとして販売停止が相次ぐ「仕組債」。販売額は2020年度下半期(1兆円)をピークに減少が続いており、2022年度上半期は4,000億円にまで減少しました。
【仕組債の販売額の推移】
多くの金融機関が販売を自粛する一方で、まだ仕組債の販売を継続する金融機関もあります。仕組債は複雑な仕組みを持つ商品で、説明責任をめぐって金融機関とのトラブルに発展するケースが少なくありません。
仕組債とはどのような商品なのでしょうか。概要を押さえておきましょう。
苦情殺到の仕組債 「債券」の名前でリスクを誤認仕組債とはデリバティブ(※)を組み込んだ債券を指します。通常の債券は発行体の財務から元利金が支払われますが、仕組債はデリバティブによる収益が実質的な原資です。
※デリバティブ:複雑な仕組みを持つ金融商品のこと。先物やオプションなどが代表的。
デリバティブによる収益を元利金として支払う仕組債は高い利回り設定が可能です。一方で購入者は実質的にデリバティブの行為者としてリスクを背負います。「債券」と名のつく商品でありながら、通常の債券にないリスクが存在する点に注意が必要です。
例えば日経平均株価を参照する「日経平均リンク債」は、日経平均が一定以上の価格で取引されているうちは、元利金が当初の定め通り支払われます。しかし基準値を下回ると満期金の額は日経平均の時価相当に下落します。これを「ノックイン」といいます。ノックイン後は満期までに日経平均が当初の価格を上回らない限り損失が確定することになります。
この複雑な仕組みから、仕組債はトラブルの多い商品です。金融機関との紛争を解決するフィンマック(証券・金融商品あっせん相談センター)によると、仕組債に関する苦情は2022年度に364件寄せられました。前年度(152件)から2.4倍に増加し、商品別では最多となっています。
【苦情件数上位5商品(2022年度)】
・仕組債:364件(28.8%)
・株式:326件(25.8%)
・投資信託:188件(14.8%)
・仕組債以外の債券:124件(9.8%)
・デリバティブ:119件(9.4%)
※()は構成比
出所:フィンマック 2022年度 紛争解決等業務の実施状況について
仕組債はS&P500や日経平均株価といった株価指数や個別の株式を参照するものが主流です。2022年は株式市場が軟調で、多くの株式が下落しました。ノックインする仕組債も多かったと考えられ、苦情が急増した理由の一つだと考えられます。
【S&P500と日経平均株価の推移(2022年)】
2022年度にフィンマックに寄せられた苦情の内容で、最多だったものが説明義務に関するものでした(仕組債以外の商品も含む)。金融商品の販売者にはリスクやコストといった重要情報を説明する義務が課されています。これを怠ったとして多くの苦情が寄せられているようです。
【苦情内容の主な内訳(2022年度)】
・説明義務:388件(30.6%)
・会社不満:133件(10.5%)
・取引制度:112件(8.8%)
・売買一般:93件(7.3%)
・適合性の原則:83件(6.6%)
・強引な勧誘:80件(6.3%)
出所:フィンマック 2022年度 紛争解決等業務の実施状況について
金融庁が仕組債の販売実態を調査したところ、金融機関が収益の獲得を目指すあまりリスク許容度の低い顧客にも販売していたことが判明しました。購入者は高いリスクを認識しないまま仕組債を買っていた可能性があります。
収益確保に焦点を置き、想定顧客層や商品性を十分検証しないまま、リスク許容度の低い資産形成層にまで販売対象を拡大し、真の顧客ニーズを把握せずに仕組債を販売していた
引用:金融庁 リスク性金融商品の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果(2023年6月)
多くの金融機関は営利企業で、営業員や営業店には基本的に達成すべき収益目標が課せられています。本来は顧客の利益を最大化させるアドバイスが求められるところ、ノルマ達成に重点を置いた提案がなされる可能性に注意が必要です。
金融機関の担当者から得た助言はうのみにせず、必ず自身でも情報を収集して判断しましょう。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
NISA制度"改悪"で譲渡益に課税の悪夢…エコノミストが「老後はNISAを使ってはいけない」と断言するワケ
プレジデントオンライン / 2024年7月15日 9時15分
-
50代長男夫婦、年金月18万円の74歳昭和気質の父を疎み“サ高住”へ押し込めるも…3ヵ月後「貯金2,400万円」を失い帰ってきちゃったワケ【CFPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月14日 11時45分
-
〈初心者向け〉資産運用を開始する前に知っておきたい「金融商品」の最低限の基礎知識【公認会計士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月2日 11時15分
-
アセット・アロケーションの決め方、GPIFの資産構成をタタキ台に
トウシル / 2024年6月29日 8時0分
-
特別インタビュー 中島淳一・前金融庁長官【後編】
販社は顧客本位を徹底し、アセマネは世界に挑めFinasee / 2024年6月26日 16時0分
ランキング
-
1電話番号案内「104」終了へ…NTT東・西、スマホ普及で需要落ち込む
読売新聞 / 2024年7月18日 22時18分
-
2TBS退職→Netflixと5年契約「50代P」選んだ道 「不適切にもほどがある」「俺の家の話」手掛けた
東洋経済オンライン / 2024年7月18日 12時30分
-
3半世紀も"主役"フロッピーディスクの栄枯盛衰 「なにそれ?」と知らない世代も増えてきた
東洋経済オンライン / 2024年7月19日 8時0分
-
4三菱UFJが首脳3人処分へ 報酬減額、情報無断共有で
共同通信 / 2024年7月18日 18時25分
-
5セルフレジで客が減る? 欧米で「セルフレジ撤去」の動き、日本はどう捉えるべきか
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年7月18日 8時10分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください