増税要因が多い一方、新NISAの非課税枠は1800万円―財務省が認めた理由とは?
Finasee / 2023年12月6日 11時0分
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Finasee(フィナシー)
増税要因が多くある中、新NISAがいよいよスタート
間もなく始まる新しいNISAでは、最高1800万円という非課税保有限度額が設定されました。これまで一般NISAで600万円、つみたてNISAで800万円だったことを考えると、物凄い優遇ぶりです。
正直、この金額を初めて知った時、「よく財務省が飲んだものだ」と思いました。言うまでも無く、財務省は税金を徴収し、それを最適に配分する役目を担っています。そのため財務省からすれば、減税よりも増税に強いインセンティブが働きがちです。
たとえば私たちが納めている所得税は、得た収入に対してまるまる所得税率を掛けて計算されているわけではありません。社会保険料控除、医療費控除、扶養控除、配偶者控除、配偶者特別控除、といった各種所得控除が行なわれ、残った金額を所得として、所得税額が計算されます。
つまり、これらの所得控除が認められている段階で、私たちは税金の軽減措置を受けていることになるのですが、その廃止および見直しが行われれば、実質的には増税になります。
現在、各種所得控除の廃止および見直しが議論されているのは、物価対策費や防衛費の増額、ならびに社会保障制度を維持するうえでの財源確保などで、多額のお金を必要としているからです。
また、つい2、3年ほど前は新型コロナウイルスの感染拡大で経済活動に制限が加えられた反面、国はさまざまな補助金、助成金の類を大盤振る舞いしましたが、あの時の補助金、助成金なども元を正せば、個々人が支払っている税金が財源であり、国家財政を担う重要な資金源です。それをばら撒きっぱなしにすることなどありえません。いずれは増税などの形で回収されることになるでしょう。
このように、さまざまなところに増税要因があるのにも関わらず、なぜ1800万円もの非課税枠が認められたのでしょうか。新NISAがスタートする前に、この点については理解しておく必要がありそうです。
なぜ、“1800万円の非課税枠”は認められたのか?直近、発表された日本証券経済研究所の「証券レビュー」で、「超高齢化社会における資産と税」と題したエッセイが掲載されています。そのなかで興味を持ったのが、「超高齢社会における資産課税」という項目です。
一部を引用してみます。
「高齢化の進展によって、資産の重要性が増大する。すなわち、高齢期には、所得水準が低下する場合が多いが、他方で、勤労世代をはるかに上回る資産を蓄積している高齢者も数多く存在する。実際、金融資産の4割近くは70歳以上の高齢者世帯が保有しているとする統計もある。(中略)したがって、高齢者の比率が著しく高くなる超高齢化社会においては、資産課税により注目するべきなのではないだろうか。(中略)資産保有者からの反発が予想され、政治的にはなかなか実現困難であろうが、消費税の引上げや中堅所得層を対象とした所得税増税に比べれば、該当者が少ない分、抵抗が弱いかもしれない」。
そして実は、新NISAがスタートするというニュースが流れた2022年の初冬あたりから、この手の話がまことしやかに流れてきました。
恐らく、大部分の個人にとって、保有している金融資産に対する課税強化は、なかなか容認し難いものがあると思いますが、金融資産に対する課税強化は、今に始まった話ではありません。2006年までは、個人の預金などを対象にして、マル優、特別マル優、郵貯マル優という預貯金ならびに日本国債や地方債を対象にして、それぞれ元本350万円までの利子に対して課せられる税金を非課税にする制度がありました。
これを利用すれば、350万円×3で、合計1050万円までの元本に発生する利子を非課税にできましたが、2006年以降、マル優制度は一部の例外を除いて廃止になりました。ここ20年以上は超低金利が重なったこともあり、マル優制度を利用するメリットは皆無に近いのですが、基本的にこの手のマル優廃止も、実質的な増税といっても、良いでしょう。
そして今、再び持ち上がってきた金融資産課税の強化ですが、基本的にはこれとの引き換えに、新NISAに対して1800万円もの非課税保有限度額を認めたのではないか、と考えることが出来ます。
同エッセイによると、金融資産に対する課税が強化されるのは、たとえば保有する金融資産総額が1億円以上というように、一定の所得水準を設け、それに達している人を対象にすることもできる、という見方を示していますが、恐らくこの手の水準を設けなくても、金融資産課税の強化に対する反対意見は、案外、少ないのではないかと考えられます。それは、新NISAに1800万円もの非課税保有限度額が認められたからです。
新NISAの浸透で金融資産課税の強化はあるのか……なぜ反対意見が少ないと考えられるのかというと、1800万円の非課税保有限度額を満たせるだけの金融資産を保有している世帯が少ないと考えられるからです。
金融広報中央委員会が毎年行っている「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)」によると、世帯主の年齢別で見た金融資産保有額の平均値は、以下のようになります。ちなみにカッコ内の数字は中央値です。
20歳代……339万円(200万円)
30歳代……697万円(390万円)
40歳代……1132万円(500万円)
50歳代……1684万円(810万円)
60歳代……2317万円(1270万円)
70歳代……2360万円(1200万円)
平均値で見ると、60歳代や70歳代では1800万円を大きく超えていますが、平均値はどうしても金額の大きいところに引っ張られる傾向があります。たとえば貯蓄額が、
Aさん……1億円
Bさん……5000万円
Cさん……200万円
という3人がいた場合、平均貯蓄額を計算すると5066万円になりますが、Cさんからすれば「それってどの世界の話?」ということになるでしょう。平均値は、それほど数字に大きな格差がない集団における平均的な実態を把握するには良いのですが、貯蓄額のように、格差の大きな集団の平均的実態を把握するには、いささか無理があるのです。
そこで用いられるのが中央値です。中央値はすべての値を順番に並べて、その中央に位置する数値を用います。そのため、平均値を用いる場合に比べると、より実態を反映しやすいとも言えるのです。
その中央値で見ると、どの年齢層においても、1800万円という新NISAの非課税保有限度額に達していません。このことから、1800万円の非課税枠があれば、そして多くの人が新NISAを活用して資産運用をすれば、金融資産課税を強化したとしても、世論からの風当たりは、さほど強くならないのではないか、と考えられます。
それだけに案外、新NISAが浸透していけば、早晩にも政府は金融資産課税の強化に乗り出してくる可能性がありますし、そういう状況からすると、個人の新NISA口座の開設は、必須と言っても良いのです。
●参考
・「超高齢化社会における資産と税」
・マル優制度等(少額貯蓄非課税制度等)の変還
・「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)」
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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