恋愛結婚なのに新婚妻を無視… 無断外泊を重ねた夫の“あきれた理由”
Finasee / 2023年12月8日 17時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
高橋佳奈(28歳)は夫の貴広(31歳)と社内恋愛の末、1年前に結婚した。佳奈は結婚退社をし専業主婦として生活していたが、ある時期から夫に無視されるようになり、夫の無断外泊が続くようになっていた……。
●前編:無断外泊をやめない夫… 20代専業主婦が夫から「悪意」を向けられたワケ
新婚生活に慣れた妻に起こった変化家事を中心にした生活が続いていた高橋佳奈(28歳)は、ある時から夫の貴広から無視されるようになる……。その理由について聞かされた佳奈は怒りに身が震えた。
佳奈はアルバイト探しを半ばあきらめていた。近所の商店街にもパートタイマーを募集しているような店はなかった。ハローワークにも相談にいったが、佳奈が希望するような短時間の就労先はみつからなかった。そもそも、佳奈が務めていた精密機械メーカーをはじめ、株式公開企業が4社も大きな工場を置き、その周辺に地場の中小企業がいくつも工場を構える工業団地が地域の中心的存在だった。パートやアルバイトなどの非正規でも、午前9時~午後5時までのフルタイムの勤務が基本的に求められていたのだ。レストランやスーパーで募集している比較的短時間の仕事は競争率が高く、昨日今日職探しを始めた佳奈に割って入ることはできなかった。
アルバイト探しを半ばあきらめた佳奈の日常は、すっかり弛緩(しかん)した。貴広を送り出し、その日の洗濯物を干してしまうと午前10時頃になったが、それから夕刻までやることがなかった。アルバイトもできないということが負い目に感じられ、外出してお金を使うことは抵抗があった。家にこもっているとテレビを見るくらいしかすることがなく、テレビに飽きると、いつの間にか居間で寝ていることが多くなった。そして、夕食の買い物の時に、数百円で買えるワインを買って昼間から飲むようになった。ワインを飲むと酔うのだが、そのまま眠って夕方に起きる時にはすっかり酔いも覚めていた。テレビを見ながら眠くなるのを待つよりも、ワインを飲んでほろ酔い加減で眠る方が佳奈には心地よかったので、それが習慣になっていった。
少し身体が重いと感じて体重計に乗ってみたら、60㎏を少し超えていて驚いた。佳奈は身長が155㎝で、それまでの生涯で60㎏を超えた経験はなかった。やはり、昼間からワインを飲んで寝てばかりいるのが体重を増やす原因だとわかっていたが、身に付いた習慣を変えることは難しかった。ただ、体重計が65㎏を超えたときには、少し目まいがした。さすがに、これ以上太るのは良くないと思い、買い物の時に少し遠くのスーパーまで歩くようにした。
戸惑うばかりだった夫からの突然の仕打ち佳奈が、自分の体重が増えたことを苦にし始めた頃、貴広との会話が少なくなっていった。貴広は佳奈が用意した食事を黙々と食べ、入浴し、すぐにベッドに入るというルーティンを機械のように繰り返すようになっていった。貴広の無言に戸惑った佳奈は、最初は話しかけたり機嫌を取ったりしていたが、貴広に反応する意思がないことがわかると、やがて働きかけることをやめた。貴広が無言で生活することも、それを当たり前と認めてしまってからは、佳奈も少しは楽になった。その後、食事を一緒に食べることもなくなった。朝は、朝食と弁当を食卓に並べておくと、朝食は食べられ、弁当が持ち去られた。夕食も食卓に並べてラップをかけておけばよかった。毎月の生活費は、夫婦で共有する銀行口座に決まった額が振り込まれていたので、佳奈がお金のことで困ることもなかった。
そんな生活が半年ほど続いた後で、貴広の外泊が始まった。佳奈には理由がわからなかった。自宅に帰っても妻とは会話しない生活が続いていたとはいえ、毎日の食事の用意はしていたし、食事は毎回残すことなく食べてくれた。掃除や洗濯も欠かしたことがなかった。会話こそなかったが、佳奈は穏やかな気持ちで暮らしていたのだった。しかし、貴広にとっては、無言で暮らす毎日は、佳奈に対する明確な意思表示であったらしい。貴広は、2週連続で外泊した後、徐々に外泊することが当たり前になり、やがては、週のうち自宅に戻るのは週末だけというようなことになった。貴広が帰ってくるたびに、なぜ外泊するのか、どこへ泊まっていたのかと問いただしたが、貴広はずっと無言のままだった。
結果として、自宅に生活費を入れなくなってしまった貴広に対し、佳奈は弁護士を立てて離婚の手続きを始めることになった、その過程で知ったことだが、貴広は、佳奈が肥満したことが許せなかったらしい。貴広にとっては、結婚した当初、社内のマドンナを射止めたと同僚からうらやましがられることが何よりうれしかったそうだ。外泊をするようになったのも、会社で勤めていた頃の、若い男性社員のアイドルのような存在だった佳奈でいてほしかったのに、それが面影もないほどに太って身だしなみが緩くなっていったのが見ていられなかったと言っている。このような貴広の言い分を聞いた時、佳奈の中でマグマのような怒りの感情が湧き上がってきた。
「太ったのが嫌なら、そう言えばいいじゃない。私だって好きで太ったわけじゃないし、痩せようと思えば、いつだって痩せることはできた」。佳奈は、こぶしを握り締めて心の中で叫んでいると、弁護士の前で思わず涙がこぼれそうになった。こんなところで泣いている場合じゃないと、佳奈は自分を鼓舞した。弁護士によると、貴広が夫婦として協力して生活を営んでいくことを一方的に放棄した「悪意の遺棄」という行為に当たるということだった。慰謝料を請求することが可能という話だったので、弁護士と相談の結果、200万円の慰謝料を貴広が佳奈に支払うことで離婚が成立した。
新しい人生を始めるにあたって慰謝料を得た佳奈は、すぐさま東京に移住した。それまでの一切を捨てて、1から人生をやり直すつもりだった。東京暮らしにプレッシャーを感じていたのか、引っ越してすぐに体重は元の体重に戻った。
就職活動の面接に向かうため、地下鉄に乗った時、佳奈の目の前にいた外国人カップルが、地下鉄の路線図を見ながら小声で相談し合っていた。「どうかしましたか?」と自然と英語が口に出た。上野の博物館に行きたいという2人に、すらすらと乗換駅を教えてあげることができた。「そうだ、英語を生かした仕事がしたかったんだ」と今更ながら、前職を志望した動機も海外拠点において国際的なビジネスに関係できると聞かされたことが大きかった。そんな意欲を持って仕事を始めた佳奈だったが、入社してみると、国内出張すらすることのない内勤職に留め置かれ、結婚とともに当たり前のように退職させられた。
佳奈は、「この自分の経験は、何だったのだろう?」と自問自答していた。ただ、佳奈が自ら選択した結果であることは、間違いがなかった。「自分が選んだ人生」と改めてかみしめることから、佳奈は新しい人生を始めた。どんな結果が待っていようと、自分の決断の結果なのだから受け止めよう。そんな風に思った時、胸の中に黒くわだかまっていた重しがスッと抜けていったように思えた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
文/風間 浩
Finasee編集部
「インベストメント・チェーンの高度化を促し、Financial Well-Beingの実現に貢献」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAやiDeCo、企業型DCといった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。
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