引きこもり歴25年・50代男性が「家族の緊急事態」に直面…妹に提案した身勝手すぎる計画
Finasee / 2023年12月15日 11時0分
Finasee(フィナシー)
宮下しのぶさん(仮名)は自宅近くのスーパーでのパート歴が10年以上になります。明るくて責任感が強く、面倒な業務も率先して引き受ける宮下さんは、パート仲間だけでなく社員からも全幅の信頼を寄せられています。
そんな宮下さんは1年ほど前、あるトラブルに見舞われました。きっかけは、長年絶縁状態だった実家の兄から突然かかってきた1本の電話でした。
「嫌悪する兄からの電話を受けて、とても冷静ではいられませんでした。どうしていいか分からない私が一筋の光明を見いだしたのが、あるテレビ番組に出演されていた専門家の方でした」
実は、宮下さんのご実家は高齢でひきこもりの兄がいて「8050問題」を抱えていたのです。ひきこもり支援を行う専門家との出会いと、支援を受けた兄の変化、さらに宮下さん自身の心の変化など、宮下さん自身に激動の1年を振り返ってもらいました。
〈宮下しのぶさんプロフィール〉
東京都在住
48歳
女性
パート
会社員の夫、浪人生の次男と3人暮らし
金融資産850万円
私は子供の頃から兄のことが大嫌いでした。年が離れていて、勉強も運動も大してできない私のことを完全に見下していたからです。「俺はスターだけど、しのぶは凡人だからな」という言葉を何度聞かされたかしれません。
確かに、兄はスターでした。中学生の頃は野球部のエースで、生徒会長も務めていました。バレンタインデーには、幾つもチョコレートをもらってきて自慢げに見せてくれた記憶があります。しかし、今思えばあの頃が兄の人生の絶頂期だったのでしょう。
名門私立高校に進学した兄が引きこもりになるまで推薦で名門私立高校に進学した兄は授業についていけず、1年もたたないうちに退学。ぐれてしまって転校先を最低出席日数ぎりぎりで卒業した後、4浪して今で言うFランク大学に滑り込み、卒業後は地元の名士だった父のコネで建設会社に就職しました。
ろくに仕事もできないのにプライドだけは異常に高い兄は勤務先でも周囲から浮きまくり、挙げ句の果ては顧客とトラブルを起こして半年後には会社に行かなくなりました。そしてあろうことか心まで病んで、自室に引きこもるようになったのです。
そんな兄を必死に支えてきたのが母でした。母は昔から兄に甘く、兄がやりたいということは何でもやらせ、兄が欲しいと言ったものは全て買い与えてきました。
一方、口下手で不器用な私のことが気に入らないらしく、ささいなことで文句ばかり言います。あまりの兄妹格差に見かねた父が注意をすると、「あなた何言ってるの? 達郎はわが家の希望の星なのよ」と開き直る始末。
兄がひきこもりになった後も、食事や小遣いを与えるなどかいがいしく世話を焼き、高名な精神科医の元に相談に行くなど、兄に尽くしてきたのです。
私が両親の反対を振り切って東京の短大に進学し、就職2年目に職場の先輩だった夫と結婚したのは、そんな実家から距離を置きたい気持ちが強かったからです。
実際、結婚後は年に1度夫や子供たちと帰省する程度で、日常的に実家との交流はほとんどありませんでした。4年前に父が病死した後は、コロナ禍もあり、その帰省すらしなくなっていました。
ですから、半年前、兄から突然電話がかかってきた時は驚きました。
疎遠だった兄のあまりに身勝手な計画その時、兄はとうに五十路(いそじ)を超え、ひきこもり生活も四半世紀近くになっていました。
相変わらず上から目線で高圧的な口調で語ったところによると、母がアルツハイマー型認知症と診断され介護保険のサービスを利用するようになり、コロナ禍で症状が進んだことでケアマネジャーから施設への入居を勧められたのだそうです。だから私が実家に帰って母の施設入居の手続きと、兄のお世話をしろというわけです。
息子が大学受験を控えるわが家の状況も顧みず、自分の家族の緊急事態とも言える状況の中で自分勝手な主張ばかり並べ立てる兄に嫌悪感を覚えると同時に、猛烈な怒りが湧き上がってきました。
「これまでずっとお母さんの世話になってきたんだから、お兄ちゃんがお母さんの面倒を見るのが当たり前でしょう!」と電話をたたき切りました。
するとその数日後、今度は実家の地域を担当する民生委員の方から連絡が入りました。母の認知症が悪化してから実家がゴミ屋敷のような状態になっていること、母は介護保険のグループホームや特別養護老人ホームに引き取ることができるけれど兄に関しては現状の行政サービスではいかんともしがたいことを困惑気味に話してくれました。
障がい者認定を受けて生活支援を得ることを提案されても、「俺は病気じゃない」と精神科の受診をかたくなに拒んでいるようです。
ドキュメンタリー番組で知った「8050問題」母や兄のことで地域の方に迷惑をかけているのは心底申し訳ないと思いました。でも、だからといって私が実家に戻って母や兄の面倒を見ようという気には到底なれませんでした。
そんなもやもやした気持ちを抱えたまま過ごしていた時に、テレビのドキュメンタリー番組で「8050問題」を取り上げているのを見ました。
8050問題とは、高齢のひきこもりにより扶養や介護といった問題が生じていることを指し、「80」代の親、「50」代の子から取ったネーミングだそうです。まさに母と兄のことではないかと思いました。
●ドキュメンタリー番組を見た宮下さんが取った行動とは? 後編【四半世紀引きこもった50代男性を“たった1年”で社会復帰させた「プロの手腕」】で詳説します。
※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。
Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。
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