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四半世紀引きこもり続けた50代男性を、“たった1年”で社会復帰させた「プロの手腕」

Finasee / 2023年12月15日 11時0分

四半世紀引きこもり続けた50代男性を、“たった1年”で社会復帰させた「プロの手腕」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

宮下しのぶさん(仮名)は48歳の既婚女性。明るく周囲からも信頼される人柄の宮下さんですが、実はご実家には高齢でひきこもりの兄がいる「8050問題」を抱えていました。母親の認知症発覚をきっかけに兄が電話をかけてきて、本格的にトラブルに巻き込まれてしまいます。

●前編:【引きこもり歴25年・50代男性が「家族の緊急事態」に直面…妹に提案した身勝手な計画】

絶縁状態の兄から提案された耳を疑う計画

新潟県内にある実家とは、もともと疎遠でした。特に4年前に父親が亡くなりその後コロナ禍になって以降は、帰省はおろか、電話1本していません。ひきこもりの兄、そして子供の頃から兄ばかりえこひいきしてきた母との接触を避けたかったからです。

実家の方からも、父の一周忌や三回忌の連絡もありませんでした。その都度私はこっそり帰省して、父のお墓で「お父さん、きちんと供養ができなくてごめんなさい」と手を合わせていました。

兄はというと、引きこもってからもう25年になります。勉強も運動もできて地元の中学で目立つ存在だった兄は推薦で有名私立高校に入学しますが、そこで挫折し非行に走りました。そして4浪の末入ったFランク大学を何とか卒業し、父のコネで地元の建設会社に就職したものの、周囲とうまくいかず大口の取引先とトラブルを起こして退社。以降はずっと自室に引きこもったままです。

ですから1年ほど前、兄からいきなり電話を受けた時は驚きました。母がアルツハイマー型認知症に罹患(りかん)して施設療養が必要になったので、すぐに帰省して施設入居の手続きと家のこと、つまり自分の世話をしてほしいとあまりに自分勝手な計画を語ったのです。

ドキュメンタリー番組で専門家の存在を知る

兄の電話の後、地元の民生委員の方からも連絡があり、施設に入れる母はともかく、「俺は病気じゃない」と精神科の受診を拒否する兄が何の行政サービスも受けられず困っていると聞かされました。

自宅はゴミ屋敷状態で、ご近所にも迷惑をかけているようで心が痛みましたが、だからといって実家に戻って兄や母の面倒を見る気には到底なれませんでした。息子が大学受験を控えているという家庭の事情もありました。

そんな時に偶然、テレビで目にしたのが高齢の親がひきこもりの子供をケアしている「8050問題」のドキュメンタリー番組でした。

その中で、8050問題に取り組むファイナンシャルプランナー(FP)の方が、「自分の家の問題だから自分だけで何とかしようとすると、親子共倒れになります。行政やNPOなど第三者が関与することで思いがけなく出口が見つかることもあるんです」と話していたのが強く心に残りました。

早速、FP田中さんへ相談することに

藁にもすがるような思いで、そのFP、田中さんの事務所に電話を入れました。受話器を取ったのは、テレビで聞いたのと同じ落ち着いた声の女性、田中さんご本人でした。

穏やかな口調で「どんなご相談ですか?」と尋ねられ、私はこれまでの経緯や実家の窮状について洗いざらい打ち明けていました。今思えば、誰かに苦しい胸の内を聞いてほしかったのだと思います。

「ご近所の方の迷惑を考えて」とか「肉親なのに情がない」と言われるかと思いきや、田中さんが開口一番口にしたのは、「それは理不尽な話ですよね」という私への共感の言葉でした。「私のこと、責めないんですか?」と聞くと、「どうして? 宮下さんが何かしたわけではないじゃないですか?」と返され、心の中を覆っていた霧のようなものが晴れていくのを感じました。

田中さんは「お兄さんも50を超えているわけですから、宮下さんに一方的に頼るのではなく、少しずつでも自立していただく方向に持っていかないと」と続け、忙しいスケジュールの合間を縫って、私と新潟の実家まで足を運んでくださることになりました。

家族の課題を次々解決した田中さんの手腕

そこから先の田中さんの仕事ぶりはまさしくプロフェッショナルでした。母のケアマネジャーさんと連携してグループホームへの入居を決めると、私が兄と探し出した母の通帳や保険証券などから金融資産を割り出しました。

母はよほど兄のことが心配だったのでしょう。自分の年金が下りる度に少しずつ兄名義の通帳に移し替えていて、その残額が300万円近くになっていました。兄も母からその話は聞いていましたが、当面の生活には困らないことが分かり、ほっとしたようでした。

そして、田中さんから「親の援助はここまでです。あとは自分の足で立つことを考えてください。あなたにはその能力があるはずですよ」と励まされ、田中さんが紹介してくれたNPO法人の支援を受けて社会復帰を目指すことになったのです。

恐らくは兄自身も「このままではいけない」という危機感を抱いていて、物心ともに支えになっていた母の施設入居が現状を変える大きなきっかけになったのだと思います。とはいえ、25年も引きこもり続けた兄の背中を大きく押してくれたのは間違いなく田中さんでした。

幼少時から“俺様”で世間知らずの兄は、同世代の田中さんの容赦ない物言いに気おされ気味で、「はい」「分かりました」と言いなりになっている姿を見るのは少々小気味よくもありました。

田中さんは他にも、低料金の家の片付け業者を紹介してくれたり、ほとんど料理をしたことのない兄のために配食サービスを探してくれたりしました。その都度口にされたのが、「あなたが手を出さないことが、お兄さんの自立のためになるんですよ」という言葉です。とはいえ、もちろん一番は、兄と母への負の感情を拭いきれない私への配慮だったと思います。


 

あれから1年がたち、兄は田中さんから紹介されたNPOでひきこもりの方々の相談相手になっています。本来は明るく物おじしない性格の兄には向いているのかもしれません。今も兄と直接話すことはありませんが、田中さんからは兄の話をいろいろ聞かされています。

兄は引きこもった要因を、「期待されているのに自分は何もできないんじゃないかと思うと人に会うのが怖かった」と話したそうです。母という強力な庇護者がいたことで、安寧な世界からなかなか抜け出せず、気付いたら25年たってしまったとも。

宮下さんに訪れた心境の変化

田中さんを通して兄の本音や弱さを知り、私自身の兄に対する気持ちも少しずつ変化してきました。まだ兄を受け入れることはできませんが、完全にシャットアウトしたいわけでもないというのが今の正直な気持ちです。

母のグループホームの職員の方とは、少し前からLINEのやり取りを始めました。仲間とダンスや折り紙に興じる母の画像が時々送られてきます。母は既にかつての母ではなく、子供時代に戻ってしまったかのようです。1浪した息子の大学受験が一段落したら、まずは母に会いに行ってみようかと思っています。

田中さんのご尽力がなかったら、私は兄や母との関係をもっとこじらせていただろうと思います。少なくとも、今のような心の安定は得られていなかったはずです。田中さんには本当に感謝しかありません。

田中さんはFP仲間や他業種の方々と連携しながら、社会による8050問題の当事者へのサポート体制の構築を目指していらっしゃいます。私のような思いをされている方には、一刻も早く、田中さんのような専門家に相談することをお勧めしたいと思います。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。

Finasee編集部

「インベストメント・チェーンの高度化を促し、Financial Well-Beingの実現に貢献」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAやiDeCo、企業型DCといった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。

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