夢をかなえるために「パパ活」はアリ? 19歳劇団女優が出した答え
Finasee / 2023年12月12日 18時0分
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Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
人気劇団のオーディションに1000倍超の倍率を突破して合格した矢沢美月(19歳)は、憧れの先輩に近づこうと希望を胸に俳優修業に臨み、周囲にも認められた。劇団員へのステップを順調に上りつつあったが、2年目に進む直前に劇団主宰の峯山久美子(48歳)からかけられた言葉に絶句してしまう。役者を続けるのか、諦めるのか? 美月が出した答えは……?
●前編:親には「専門学校へ行く」とうそをつき、女優になるため上京した少女の“夢のため”の選択
「パパ活」のうわさ美月は、同じ研究生仲間から優花のうわさを聞いた。優花は、劇団の研究所とは別にプロダクションに所属しているため、劇団の授業が終わった後でプロダクションが課したダンスと歌唱のレッスンに通っていた。プロダクションからは、雑誌のモデルの仕事などがあり、いくらかの収入があるそうだが、優花の生活を支えているのは「パパ活」らしいという。かなり地位のある裕福な男性が優花をサポートしていて、月に何度かは「パパ」とお泊まりをしているという。その仲間は、優花にうわさは本当なのかを直接確かめたのだそうだ。「風俗で働くのと、パパに生活を支えてもらうのと、あなただったらどっちを選ぶ?」と言い返されて、何も言えなくなったという。
優花が、いつもおしゃれな服を着ていて「女優の雰囲気」を感じさせることに嫉妬を覚えていた美月は、その優花を支えている秘密を知ったように思った。久美子から、「今の生活を何年も続けられる?」と聞かれた時に、即答できた優花は、「俳優になるという自分の夢をかなえるためには、手段を選ばない」という強い覚悟があるのだろう。美月は、「絶対に俳優として成功してみせる」という優花の自信に満ちた強いまなざしを思い返していた。「果たして自分には、優花のような覚悟があるのだろうか……」と考えた時、美月は自分の足元に大きな黒い穴が開いたように感じた。
思い知った自分の限界劇団の研究生の立場で芝居の稽古を行っている限りは、何も心配することはなかったが、俳優としてプロの仕事をし始めたら、ラブシーンだってあるだろうし、ヌードになることもあるかもしれない。私は、それを演技として乗り越えていくことができるのだろうか? 今まで考えたこともなかったような疑問が次から次へと沸き上がってきた。「その時がきたら、その時の自分に聞いて良しあしの判断ができるはずなのだ。今考えることには何の意味もない」と頭の片隅で思いながら、「あなたにその覚悟があるの?」という言葉がリフレインして眠れなくなった。
そもそも美月は、まともな恋愛経験すらないのだった。劇団の研究生として上京し、午前9時から午後5時までひたすら芝居の稽古に明け暮れた。そんな美月にとって優花の今の生活は信じられなかった。年齢的には1つか2つしか変わらないはずなのに、どうして男性を「スポンサー」と割り切って身体の関係まで作れるのだろうか。美月も「パパ活」という言葉は知っていたし、役者として独り立ちするまでを支えてくれるスポンサーがいてくれたら、どれほど楽だろうと考えなくもなかった。もっと見たい舞台はたくさんあったし、ニューヨークのブロードウェイにも行ってみたかった。優花のように好きな服や化粧にお金を使えるようになれば、表現者として一皮むけるのではないかとも思った。
ただ、美月にはスポンサーになってくれそうな人物に心当たりはなく、どこで出会えるのかもわからなかった。優花に聞くわけにはいかなかった。優花に聞けば、優花との関係が大きく変わることは明らかで、演技以外のことで優花との間で貸し借りがあるような関係にはなりたくなかったからだ。
眠れぬ夜を過ごした後で思いあぐねた美月は、眠れぬままに迎えた朝、電車に乗って埼玉の実家に向かった。母親に相談できるような内容ではなかったし、親には劇団の養成所にいることすら話していなかった。親の顔を見たところで、直接的に今の迷いに答えが得られるとは思えなかった。ただ、美月にとって母親は、常に自分の人生の羅針盤のような存在だった。いつもきれいで、笑顔で接してくれる母親のような女性になりたいと小さな頃から思っていた。
毎日の通学で使っていた駅から、通いなれた道を実家に向かって歩いていると、美月の気持ちが少しずつ軽くなってきた。実家までの最後の曲がり角を曲がって実家の庭先が見えると、そこに母の姿があった。最近の趣味にしている盆栽の手入れをしているのだった。母親は美月に気が付くと、驚いた様子だったが、すぐに笑顔になって美月を迎えてくれた。「どうしたの突然。あら、ちょっと痩せたかしら? おなかすいてない?」と美月の手を取ってあれこれと質問攻めをしてくる母親を前にして美月は思った。「お母さんを悲しませないような決断をしよう。お母さんが喜んでくれるような役者になれるように頑張ろう」と。
母親の後について実家の玄関をくぐった時、美月の気持ちはすっかり固まっていた。「私には私のやり方がある。お母さんに恥ずかしいことのない生き方をして誰にも負けない俳優になる」と思い定めた。優花の話を聞いて以来、ここしばらくの間、胸にもやもやしていた黒い塊が、スッと抜け出したような気持ちになった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
文/風間 浩
Finasee編集部
「インベストメント・チェーンの高度化を促し、Financial Well-Beingの実現に貢献」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAやiDeCo、企業型DCといった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。
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