キヤノン株式が反転 過去最高売り上げを目指す「戦略的大転換」とは
Finasee / 2023年12月12日 17時0分
Finasee(フィナシー)
キヤノンの株価に回復が見られます。安値の原因だった業績が改善し、売上高は5期ぶりに4兆円を回復しました(2022年12月期)。翌期も増収増益を予想しており、投資家の期待が集まっているようです。
【キヤノンの業績】
売上高 純利益 2021年12月期 3兆5134億円 2147億円 2022年12月期 4兆0314億円 2440億円 2023年12月期(予想) 4兆2200億円 2920億円※2024年3月期(予想)は同第3四半期時点における同社の予想
出所:キヤノン 決算短信
【キヤノンの株価(月足、2018年11月~2023年11月)】
出所:Investing.comより著者作成キヤノンは市場評価性(PBR基準)の高さから「JPXプライム150指数」に選ばれています。
キヤノンとはどのような企業なのでしょうか。事業内容と直近の業績推移を紹介します。また同社が進める「戦略的大転換」についても概要を押さえましょう。
カメラだけじゃない!意外な世界トップシェア製品
キヤノンの事業は「プリンティング」「イメージング」「メディカル」「インダストリアル」の4セグメントで構成されています。カメラの印象が強いキヤノンですが、オフィス向け複合機やプリンターなどが売り上げの過半を占めています。東芝メディカルシステムズ(現・キヤノンメディカルシステムズ)を買収してからは医療機器も重要な収益源となりました。
【セグメント情報】
主な製品 売上高(2022年度) プリンティング 複合機、プリンター 2兆2619億円 イメージング カメラ、ネットワークカメラ 8035億円 メディカル 診断装置(CTやMRIなど) 5133億円 インダストリアル 露光装置、ディスプレイ製造装置 3292億円
出所:キヤノン 業績推移データ
売り上げのほとんどは海外で発生しています。米州や欧州で人気が高く、海外売上高比率は8割に迫っています。
【地域別売上高(2022年度)】
・国内:8648億円(21%)
・海外:3兆1666億円(79%)
※()は構成比
出所:キヤノン 業績推移データ
キヤノンは特にカメラで高いシェアを持つ企業です。レンズ交換式では2003年から20年連続で世界シェア首位を獲得しました(出所:キヤノン ニュースリリース)。
光で回路を形成する露光装置も高シェアです。ディスプレイ向けでは世界トップクラスの販売台数を持ちます。半導体向けはオランダのASML社が有名ですが、波長の長い光源ではキヤノンも高いシェアを維持しています。
【キヤノン主要製品の世界台数シェア(2022年度)】
・レンズ交換式カメラ:49%(世界1位)
・オフィス複合機:20%(世界1位)
・レーザープリンター:37%(世界1位)
・インクジェットプリンター:27%(世界3位)
・半導体露光装置:34%(世界2位)
・FPD露光装置:65%(世界1位)
出所:キヤノン キヤノン製品の世界シェアは?
減益から回復続く キヤノンの「戦略的大転換」とは直近のキヤノンは業績の変動が大きく、2016年度と2019年度~2020年度に大きな減益を経験しました。いずれも世界景気の減速による販売不振が主因で、個別要因として2016年度は円高(米ドルで121.1円→108.5円)が、2019年度~2020年度はコロナショックがありました。
足元では回復傾向が続いています。2022年度の純利益は2440億円と2020年度(833億円)比で約3倍に増加しました。2023年度は2920億円を予想しており、実現すれば直近10期で最高(2014年度:2546億円)を上回ります。
【純利益の推移(2015年度~2022年度)】
出所:キヤノン 業績推移データより著者作成業績の回復に貢献するのが「戦略的大転換」です。キヤノンが進める成長戦略のことで、事業ポートフォリオをB to Bビジネス中心へ入れ替えることで成長を目指します。第一段階として2020年に事業セグメントを上述した4つ(プリンティング、イメージング、メディカル、インダストリアル)に再編しました。
第二段階と位置付けた中期経営計画(2021年度~2025年度)では各セグメントの競争力強化に取り組み、4兆5000億円以上の売り上げを目指します。これは過去最高(2007年度:4兆4813億円)を上回る数値です。
【中期経営計画の数値目標】
実績(2022年度) 目標値
(2025年度) 売上高 4兆0314億円 4兆5000億円以上 営業利益率 8.8% 12%以上 純利益率 6.1% 8%以上 株主資本比率 61.4% 65%以上
出所:キヤノン 中期経営計画、業績推移データ
金庫株1兆3500億円 キヤノンが自社株を消却しない理由キヤノンは金庫株を多く抱えることでも知られます。金庫株とは取得した自己株式のうち、消却せずに保有するものです。
キヤノンは2023年の5月と6月にも自社株買いを実施しました。取得総額は1000億円、総発行株式の2%に相当する277万株を取得しています。キヤノンが保有する自己株式は2023年9月末で1兆3583億円にも上りました。
自己株式の消却では一般に利益剰余金などが取り崩されますが、キヤノンの利益剰余金は3兆7823億円(2023年9月末)まで積み上がっています。なぜキヤノンは自己株式を消却せず金庫株として保有するのでしょうか。
【自己株式と利益剰余金の推移(2017年度~2023年度)】
出所:キヤノン 業績推移データおよび決算短信より著者作成キヤノンの金庫株の保有はM&Aを想定しているためだと考えられます。
2023年5月と6月の自社株買いでは実施理由に株式交換を挙げました。株式交換とは完全子会社化を行う方法の一つです。取得する会社の株主に、対価として親会社の株式を割り当てて実施します。例えばキヤノンがA社を買収する場合、A社株主にキヤノン株式を割り当てます。
キヤノンはM&Aで成長してきた企業でもあります。重点領域と考えるネットワークカメラやメディカル事業はいずれも買収で取得したものでした。今後も機動的なM&Aを実施するとしており、金庫株はその原資と考えているとみられます。
もっとも株式交換は対価に現金を用いることもできます。これを踏まえれば、キヤノンは単に現金より自己株式で運用した方が効率的と考えている可能性もあるでしょう。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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