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“サステナブル”の波に乗り遅れれば、企業はやがて競争力を失うといえる理由

Finasee / 2024年1月5日 17時0分

“サステナブル”の波に乗り遅れれば、企業はやがて競争力を失うといえる理由

Finasee(フィナシー)

今注目の書籍の一部を公開して読みどころを紹介するシリーズ。今回は、これまで別々に語られてきた経営と金融の「サステナブル」をつなげる方法を探った書籍、小野塚惠美著『サステナブル経営とサステナブル金融の接続』の一部を特別に公開します。(全2回/本記事は後編)。

●前編:最近よく見る「サステナブルファイナンス」とは―どのような経緯で生まれ、なぜ今注目されるのか

※本記事は小野塚惠美著『サステナブル経営とサステナブル金融の接続』(金融財政事情研究会)から一部を抜粋・再編集したものです。

「サステナブル」であること

前編で解説したような経緯から、「サステナブル(であること)」がファイナンスと企業の両方に具体的な行動として求められるようになった。資金の出し手(機関投資家)による脱炭素企業の選好、銀行による石炭依存度の高い企業への投融資削減、各国の金融規制による開示の強化によって、金融機関は自身のポートフォリオをサステナブル色の強いものに転換し始めている。それを受けて、経営に環境、社会的責任への対応を盛り込み、サステナビリティ推進委員会を設置し、それを取締役会で監督するというESG対応は、上場企業にとって、もはや当たり前となっている。最近では、未上場会社においても、資金供給側(VCやアセット・オーナー)が投資前のデューデリジェンスにおいてESGに関する(特に脱炭素に向けた取組みや人材活用について)質問項目を設けているところも出てきた。

そしていま、サステナブルの流れは加速している。一例をあげよう。ガバナンスの1つのかたちとして情報開示がある。これまで乱立していた基準を統一し、世界レベルで横比較ができる仕組みが整備された。2021年のCOP26で発表され、2022年8月にISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が設立された。もともと米国発祥のサステナビリティ会計基準を策定するSASB(当時の米国サステナビリティ会計基準審議会)と統合思考を推進するIIRCによってできたVRF(バリュー・レポーティング財団)と、気候変動開示基準委員会(CDSB)がIFRS(国際財務報告基準)財団の傘下で統合され、ISSBとなった。ビルディングブロックアプローチという、企業のサステナビリティに関する開示のベースラインをグローバルで一致させ、地域特有な部分については調整するという発想が提唱されている。特に会計の視点を重視することから、企業における課題は中長期的に財務パフォーマンス(利益、資産や負債、資本コストなど)に影響を与えると考えられるシングルマテリアリティを考え方の基盤としている。一方で、サステナブルファイナンス発祥の欧州(大陸)では、事業環境の変化によって企業が受ける影響を測ると同時に、企業が社会に対して与える影響をも開示することを求めるダブルマテリアリティの発想が主流となっている。

国内では、開示とそれに基づいた投資家との対話がクローズアップされるが、本書では、その手前、より核となる経営と地球、社会の持続可能性と経済の発展を実現するファイナンスの関係について検討する。それぞれを「サステナブル経営」「サステナブルファイナンス」と呼ぶ。これまで多くの本がそれぞれについて語ってきているのを認識しているが、地域の特異性(たとえば日本であれば製造業が27%、そのうち自動車産業が19%を占める〈※7〉)を念頭に、サステナブル経営とサステナブルファイナンスの接続をとらえたものは少ないと考える。

※7 総務省統計局「経済構造実態調査報告2020年」。自動車産業は輸送用機械器具製造業のみで、タイヤ、鉄鋼等素材、関連機械などを含んでいない。

必要とされる「サステナブル」な経営とファイナンス

いま、世界で起こるサステナブル経営とサステナブルファイナンスの波に乗り遅れれば、遠い将来(たとえば2050年の脱炭素社会を目標とする社会)に競争力を失うだけでなく、近い将来、SDGsの目標年である2030年を境にさらに将来に向けて描かれる世界からすら取り残され、市民一人ひとりのウェルビーイングを追求する社会的、経済的基盤を失うことになろう。その過程で大きく影響を受け、また市民社会や地球環境へも正負の影響を及ぼす中核的存在となる経済主体としての企業経営者は、サステナブルファイナンスとの接点を起点に、適切な現状認識、対応と変革の遂行、取締役会におけるその監督において、熟考をしてほしい。思慮と執行のスピードは、企業の存続をも脅かすことを認識すべきである。

世界平和、人類の繁栄、資本主義を前提とすれば、2020年前半のこのタイミングで、経済の中核を担う企業、ファイナンス(直接・間接金融、私的・公的金融)を中心に議論し、最終的には政府・政策のあり方、学術界をはじめとする科学・技術革新の発展についても広く考えていきたい。

本書における章構成は以下のとおりである。まず、Chapter 1で、サステナブル経営、そこへのトランジションの方法としての「DX思考」、中核事例として武蔵精密工業と「層累的発展」について論じる。上場企業のサステナブル経営は慈善事業の正当化ではない。特に製造業では、サステナブル経営という経営者のスタンスが、社会の課題への高いアンテナで発展へのヒントをつかみ、さまざまな落とし穴を飛び越え、新技術導入などを通じて持続的な企業の収益環境をつくりだすだろう。ここでは電気自動車(EV)が産業構造を根底から揺るがす自動車産業での事例研究を示す。

Chapter 2では、サステナブル経営を支えるサステナブルファイナンスのあり方と最近の発展について紹介する。仮に、サステナブル経営が日本企業の稼ぐ力を高めていく規範性をもっているとすれば、その設備投資などへの資金供給が必要である。サステナブルな金融は、サステナブル経営と同じ志をもつことで、適切なコミュニケーションを通じて、適切かつ機動的に資金を供給できるだろう。

Chapter 3は本書の中核であるが、サステナブル経営とサステナブルファイナンスの接続点について、インベストメント・チェーン、ガバナンスの仕組み、スチュワードシップ、その理論などを紹介し論じる。経営は経営学、資金調達はコーポレートファイナンス、証券投資はインベストメント理論、など細分されているようにみえるが、社会のなかで活動するorgan(器官)としての企業は、そのすべてが統合されて生き生きと活動しているはずだ。

Chapter 4では、インパクト・ファイナンスの最近の発展の紹介と今後について論じる。インパクト経営やインパクト金融は、政府など公共団体とのリンクが強まるものであろう。一方で、PRIが国連の枠組みから生まれた民間部門の活動のプラットフォームであるように、環境や社会課題にインパクトをもつ民間部門の役割は大きくなるに違いない。

Chapter 5 では、これからのサステナブル経営とファイナンスの発展のための政府やその他の主体の役割、言い換えると、科学技術の発展とそのためのサステナブルファイナンスの役割を論じ、われわれが起こすべきムーブメントを提案する。

われわれは、日本や世界で起こりつつあることを学ぶこと自体を目的にしたくない。筆者は、日本企業がより活性化し、かかわる人々が世界をよりよくするために行動することを目的とし、そのためのツールとして知識を身につけることを期待する。本書がその一助となることを祈る。

***

小野塚惠美著『サステナブル経営とサステナブル金融の接続』(金融財政事情研究会)

小野塚 恵美/エミネントグループ代表取締役社長CEO/金融庁サステナブルファイナンス有識者会議委員

JPモルガン(1998-2000)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(2000-2020)、カタリスト投資顧問(2020-2022)の後現職。20年以上、多岐に渡る資産運用業務に携わり、2012年より機関投資家としてESGリサーチ、投資先上場企業との対話、議決権行使を中心としたスチュワードシップ活動に従事。直近ではアクティビストファンドの経営者として、また「ESGの女神」の愛称で日本の上場企業のガバナンス向上、資本市場の高度化、最終受益者への啓発に注力。日本を代表する機関投資家団体として世界から認知されるジャパン・スチュワードシップ・イニシアティブ(JSI)で初代運営委員長を務める。金融庁サステナブルファイナンス有識者会議、経産省非財務情報の開示指針研究会に参画。東京理科大学大学院経営学研究科技術経営(MOT)修士。

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