SNSから国際恋愛へ発展 40歳独身女性がハマった「あざと過ぎる」手口
Finasee / 2023年12月14日 18時0分
Finasee(フィナシー)
灰色の雲から、冷たい雨が降り注いでいた。日本に帰国してからもう20年もたつというのに、雨の日になると、滝沢涼子は留学先のアイルランドを思い出す。アイルランドは雨の多い国だったが、涼子の中では太陽のように光り輝く思い出となっていた。
「冬の雨って嫌だね」
窓から雨の景色を見ていると、上司から声をかけられた。
以前、自分は雨が好きだと言ったはずなのだが、見た目が貧相なこの上司は本当にいい加減だ。なんだか、自分が適当に扱われているような気がして不愉快だった。しかし、前の派遣先にいたパワハラ上司に比べれば全然ましだ。
商社を退職し派遣社員にそこそこ名の知れた大学で留学経験もあった涼子は、就職活動で準大手の商社から内定を得ることができた。当時、友人はみんな涼子をうらやましがった。しかし、商社の仕事はかなりハードで、涼子は1年で会社を退職してしまった。終電ギリギリまで残業することも珍しくはなく、とても身体がついていかなかった。商社を退職してからは、ずっと派遣の仕事を続けてきた。今は派遣先の中小メーカーで一般事務の仕事をしている。
今の派遣先は決して給料が良いわけではないが、上司や同僚の人柄がそれなりに良く、大きなストレスを感じずに働けている。ケガや病気に備えて、ある程度の貯金もある。しかし、満足しているわけではない。涼子は今年で40歳になったが、独身で彼氏もいない。最後の彼氏と別れてから、もう5年以上たつ。
こんな状況で満足するわけにはいかない。東京の有名私大の出身で、アイルランドに留学し、準大手の商社で働いていた自分のゴールが独身の派遣社員で良いわけがなかった。
涼子がその日の仕事を終える頃には雨もやみ、しっとりとした空気だけが冬の夕闇の中に残っていた。派遣社員である涼子はそれほど重要な仕事を任せてもらえないが、そのかわりに残業なしで帰れる。「お先に失礼します」とオフィスの同僚や上司にあいさつをし、家路についた。
アイルランドから届いたメッセージ帰りのバスの中でスマートフォンを開くと、通知が来ていた。ずっと前に実名で登録していたSNSにDM(ダイレクトメッセージ)が届いていた。送り主は「Ian Levitt(イアン・レビット)」という外国人だった。鼻が高く、美しい金髪が輝いている。年齢は涼子より少し年下だろうか。こんな人は知らないけど、留学時代の知り合いだろうか。気になった涼子は、そのDMを開封した。
開封したところ、流ちょうな日本語のDMだった。
「突然のメッセージ失礼します。私はイアン・レビットと申します。もしかして、アーサー大学にいたタキザワさんではないですか? 私も昔アーサー大学に通っていて、あなたの名前を聞いたことがありました。『日本からきれいなレディが留学に来た』と先輩が言っていたのです。SNSでたまたまあなたの名前を目にして、学歴欄に『アーサー大学』と書いてあったので、もしかしてと思ってメッセージを送りました。もしも人違いだったら申し訳ありません」
外国人とは思えない上手な日本語だった。イアン・レビットのプロフィルを確認してみると、アーサー大学の外国語学部を卒業していて納得した。あの大学の外国語学部には日本語学科がある。そこで日本語を習得したのだろう。
「メッセージありがとうございます。たしかに、私はアーサー大学に留学していました。まさか、すてきなレディだと言われていたなんて、知りませんでした」
涼子は英語でDMに返信した。せっかく留学までして英語を学んだのに、こうして英語を使うのは久しぶりだった。すぐにイアンから返信が返ってきた。
「本当に英語がお上手ですね。でも、私からメッセージを送ったのですから、私があなたの言葉に合わせます。私は近いうちに日本でビジネスをしたいと考えているので、もっと日本語のスキルを高めたいんです。だから、日本語で大丈夫ですよ」
涼子は胸がときめくのを感じた。「日本語で大丈夫ですよ」というイアンの気遣いがうれしかった。
「分かりました。それじゃあ、日本語で送りますね。日本でビジネスをするって、どんなことをしようと思ってるんですか?」
今度は日本語のDMを送った。イアンとやりとりをしているうちに、充実していたアイルランドの日々を思い出していた。そういえば、あの頃はアイルランド人の男の子によくナンパされていたっけ。
そんな思い出に浸っているうちに、バスが最寄りの停留所に止まった。バスを降りると、また小雨が降り始めていた。これぐらいの雨が涼子はいちばん好きだった。
●涼子の日常は以前のように輝くのだろうか? この時の涼子は自身に迫っている危機を知る術もなかった……。 後編【「あなたは誰?」結婚するつもりだった彼が突然アカウントを削除… SNS恋愛の“悔しすぎる”結末】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。
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