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「休みたいなら愛人になれ」年収の壁に悩むパート主婦を襲った“あり得ない”言動

Finasee / 2023年12月19日 18時0分

「休みたいなら愛人になれ」年収の壁に悩むパート主婦を襲った“あり得ない”言動

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

主婦の恵(38歳)は、近所のスーパーのパートタイマーで得た収入で子供たちに習い事をさせてやりたいと考えていた。しかし夫からは、働いても扶養の範囲内の収入にしてほしいと強く望まれていた。年末になるたびに就業時間の調整を迫られる恵は、その調整の煩わしさにうんざりしていた。

●前編:「働けるのに働けない…」年収の壁に悩むパート主婦の“生きづらさ”に忍びよる影

副店長の悪いうわさ

副店長の猪山については、恵も悪いうわさを聞いていた。そのスーパーで女性のパートがよく辞めているのは、猪山に不倫関係を強要されるためだというのだった。そんなうわさがあるものの、実際に猪山に会って話をすると、とても穏やかで、嫌がる女性を無理やり自分の思い通りにするような男性には見えなかった。ただ、恵は面倒なことに巻き込まれるのは嫌だったので、猪山とは極力接触する機会を避けていた。そのようなパート従業員は恵だけではなかった。しかし、明日から12月が始まろうとしている時、一刻も早く律子に連絡を取ってシフトの調整をお願いしないと、恵の年収は106万円を超えてしまうことは明らかだった。

本当は、直接律子に会ってお願いしたかったのだが、副班長的な立場にある恵と班長の律子がシフトでそろうことは少なかった。先週、たまたま一緒の時があったが、その日は、夕方に保育園から楓が熱を出したと連絡があり、あわててスーパーを出なければならなかったため、律子と話す機会がなかった。いよいよ電話で伝えておかなければと思った時には月末になっていた。月末になってみると途端に、律子と話をするのがおっくうになった。

12月の最初のパートの日、昼の休憩時間に、恵は猪山にパートが終わった後で相談があると話した。その日も、律子とシフトが異なっていたため、恵としては猪山に話すしかないと思った。ところが、その日、またもや保育園から連絡があり、楓の体調が思わしくないので早めに迎えに来てほしいということだった。そのことを猪山に話すと、猪山は恵を保育園に送ると言い出した。相談があるのであれば、車で移動中に聞くというのだ。恵は、楓のことが心配で一刻も早く保育園に行きたかったので、猪山の申し出をありがたく受けた。ただ、保育園までの道のりは車だと10分間程度で、シフトのことを話すまでの時間はなかった。結果的に、猪山は恵の家まで楓を迎えに行った流れでついてきた。

正体をあらわした猪山

その日、楓を寝かしつけた後で、恵は猪山に年収を106万円以内に抑えたいため、12月の出勤日数を減らしたいと相談した。猪山はその願い出を了承し、猪山から律子にシフト調整してもらうように働きかけるという言質を得ることができてホッとした。恵は猪山を玄関まで送りに出た時に、何の拍子だったか猪山の肘が胸に押し付けられたような気がしてハッとした。しかし、猪山が何事もなかったように靴を履いて出ていったので、そのままにした。

翌日になって恵は律子から呼び出された。その日は、出勤の予定ではなかったが、シフト調整の件で話があるから13時ごろに店まで来るようにとのことだった。恵としては、何日も悩んでいたことなので、律子との間で勤務シフトについての話し合いができることは望ましいと思った。そこで着替えて玄関を出てみると、そこに猪山の車が止まっていた。恵は驚いたが、猪山が降りてきて律子から話を聞いて迎えに来たというものだから、いわれるままに車に乗った。

車を走らせながら猪山が言うには、猪山が律子にシフト調整の話を持ち掛けたところ、律子がことのほか怒ってしまって話が前に進まないというのだ。そのため、律子を納得させるには、それ相応の見返りを約束しなければならないという。そして、律子に見返りを与える代わりに、猪山にも何らかの見返りが欲しいというのだった。そんな話をしている間に、車はあるラブホテルの駐車場に滑り込んでいった。車を止めると、猪山はおおいかぶさるようにしてキスしてきた。恵は、猪山のタバコ臭い口臭が耐えられず、吐き気を催しながら満身の力で猪山を跳ねのけた。そうして身体が離れると、恵は手あたり次第にモノを投げつけて猪山を近寄せまいと抵抗した。猪山は恵の余りの抵抗の激しさに度肝を抜かれ、すっかり気持ちが白けてしまったようだった。しきりに、「清水さんは何か勘違いしている」と言い出し、とにかく改めて律子には話をつけるからと言って車を駐車場から出した。

家族の危機を救った夫の出世

翌日になって律子から電話があり、新しいシフト表も張り出されて、恵はその年を年収105万円程度に収めることができた。しかし、後になって、猪山と恵がラブホテルの駐車場から車で出て来るところを撮られた写真を使って猪山は恵を恐喝するようになる。恐喝と言っても、金銭を要求するようなことではなかった。猪山と定期的に会って、ホテルに行こうということだった。この要求には、恵はあぜんとしてしまった。自分は、年間の収入を扶養の範囲内に収めたいと希望しているだけなのだ。それを実現するために、なぜ、副店長の愛人まがいのまね事をしなければならないというのだろう。恵は、「写真を何に使おうがご自由にどうぞ。どうやら山田さんもグルのようですね。2人でどれほどの悪さをしてきたの? そちらが何かやろうというのであれば、私も出るところへ出て徹底的に戦いますから」と思い切って言い返した。

ちょうど、夫が隣の県の営業所長に栄転することが決まっていたので、もはや、そのスーパーでのパート職は、恵にとって不要なものになっていた。何の証拠もないといわれればそれまでだが、ラブホテルに連れ込まれそうになって、無理やりキスされたことが悔しくてしょうがなかった。スーパーで以前働いていた女性に会って、一緒になって何とか猪山たちを懲らしめてやろうかと考えたものの、以前働いていた女性というのが誰なのかわからなかった。良いアイデアも浮かばないまま、恵は引っ越すことになった。ただ、誠が昇進したことで、楓のバレエ教室の月謝も払えそうだった。湊は、引っ越し先にあるサッカーチームとはよく対戦していて、そのチームにとても仲の良い友達がいるということで、引っ越しを歓迎していた。

そして、誠は恵の働き方についても、「106万円とか130万円の壁なんて気にしなくてもいい」と言い出した。むしろ、恵が望むのなら130万円でも150万円でも働いて社会保険料を負担しておいた方が、将来もらえる年金の額も大きくなる。長寿社会だから、年金はお互い多くもらえた方がいい」というのだった。恵は、猪山たちの仕打ちのことが頭を過って、誠に何か言ってやりたくなったが、家族のためと頑張って出世した誠であって、誠が何か悪さをしたわけではないと思い直した。それより、その日は、楓にバレエシューズを買いに行く日だった。朝から大喜びの楓を見ていると、パート先でのうっぷんは、どうでもいいことに思えてきた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

風間 浩/ライター/記者

かつて、兜倶楽部等の金融記者クラブに所属し、日本のバブルとバブルの崩壊、銀行窓販の開始(日本版金融ビッグバン)など金融市場と金融機関を取材してきた一介の記者。1980年代から現在に至るまで約40年にわたって金融市場の変化とともに国内金融機関や金融サービスの変化を取材し続けている。

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