「人をサポートしたい」闘病生活を経験した60代男性が、定年後に選んだ“念願の仕事”
Finasee / 2023年12月22日 11時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
大手百貨店に新卒で入社した林さん。毎日忙しく働いている時期に身体に違和感を覚えて病院で検査した結果、「スキルス胃がん」が発覚します。その後は手術と苛酷な闘病生活を経て、仕事に復帰できるまでに回復しました。闘病中、死に向き合う中で芽生えた「人をサポートしていきたい」という目標を実現すべく、セカンドキャリアに向けて行動を起こします。
●前編:【仕事一筋・40代男性に突然の「がん発覚」闘病中に気付いた“本当にやりたいこと”】
資格勉強にボランティア活動、グリーフケアの勉強を開始林さんは「人をサポートしていきたい」という思いを実現させるために、まずキャリアコンサルタントの資格を取得しました。そして、会社の業務として就職活動に関するセミナーや相談、カウンセリングを行いながら、社員の悩みや課題に寄り添って実務で知識を活かしました。
その一方で、病気の方は再発・転移こそ起こっていませんでしたが、まったく心配がなくなったわけではありません。ただし、無理をしなければ普通に生活ができるレベルにまで回復していました。その自身の経験もあって、当時林さんは“病気と仕事の両立支援”のボランティア活動を行っていました。
ある日、ボランティア仲間の方から、上智大学に「グリーフケア研究所」という組織があることを知ります。
※「グリーフ」とは様々な悲嘆のこと
昨今、高齢化に伴う多死社会や、災害・事故・病気などで大切な人を失い、悲しみに打ちひしがれている人が増大しています。同時に、そのような方々に寄り添い、悲しみを癒すことへの社会的ニーズも高まっており、先に挙げた研究所では、グリーフに耳を傾け寄り添っていく人材を養成しているそうです。
活動に共感した林さんは、その研究所に2年間通い、2021年3月にグリーフケア人材養成課程を卒業されました。
セカンドキャリアに選んだのはグリーフケアの活動そして、着々とセカンドキャリアへの道を切り拓きながら、ついに60歳の定年を迎えました。がんになりながらもなんとか定年まで勤務できたことに感謝しつつ、定年をきっかけに会社を退職し、自分のセカンドキャリアは「グリーフケアの活動」を中心に進むことを決意します。
ところがこの時、コロナの影響で会社の業績が悪化し、赤字に陥ることが予想されていました。林さんは会社に退職の意向を伝えたものの、何とか黒字になるまでは協力してほしいと懇願されてしまいます。なんとか2023年には黒字に転換したため、来年度からは新たなセカンドキャリアをスタートされる予定です。
林さんの過去と現在をつないだ「金の糸」筆者は、林さんにインタビューするうちに、林さんが最終的にご自身のセカンドキャリアとして選択された「グリーフケア支援」の中核である「人に寄り添い、人を癒していく」ということが、過去の林さんのキャリアともつながっているように思えたのです。そこで林さんにいくつかの質問をしました。
*――ご両親はどのようなお仕事をされていましたか?
「はい、自宅で商売をしていて、身近にお客さんが来られるのを見て育ちました」
――学生時代はどのような学生でしたか?
「勉強は二の次で、手品を研究するクラブ活動ばかりしていました」
*どちらも納得の回答です。林さんは新卒で百貨店業界への職業選択をされました。話していると、丁寧で優しい話しぶりに感心します。それもお客さんを身近に感じる環境で育ったからかもしれません。学生時代に手品に熱中していたのも、人が驚き、楽しんでくれる姿が純粋に好きだからでしょう。百貨店の業務、新規事業での高級コンビニエンスストアにかかわる業務、人材ビジネス事業、これらもすべて人に関する仕事です。
こうして見ると、「人に関わり、喜ばせ、楽しい気持ちになってもらう」という要素が共通しています。
キャリアコンサルタントで学ぶ理論には、「金の糸」という、過去の自分と今の自分、そして未来の自分は1つの糸でつながっている、その糸を見つけることで、自分の目指すことが分かってくる、という考え方があります。
林さんは昔から大切にしてきた「人を喜ばせ、寄り添っていく」という糸があり、今後もその糸でつながる道を歩もうしているので、まさに金の糸でつながったセカンドキャリアを選ばれたということになります。
*林さんからもう1つ素敵なお話をお聞きしました。
人を癒すということは、一般的にケアする側の能動的な行為で、ケアされる側は受動的な態度である、というイメージがあります。
しかし、実は両者には「相互の関係性から起こるダイナミズム」により、「癒える」という自発的に湧きおこってくる「中動態」の状態が存在するというのです。難しく聞こえますが、要するに「互いに癒される」「互いに気付く」という相互作用があるということです。
「人の役立つことをすれば、自分も何か得るものがある。だからお互いに幸せなのだ」という大切なことを教えていただきました。
林さんの体験談から学ぶこと①つらい出来事からもヒントは得られる
人生に起こるつらい出来事や不遇に対し、ネガティブにとらえるだけでなく、その現実を受け止める中で自分が感じたこと・考えたことに注目してみる。実はそのことが自分らしいキャリアを見つけるきっかけになるかもしれません。
②シニアは人の役に立つことが心の安定につながるシニア期の仕事は人をサポートし、人のためになることを行うと、心の安定につながりやすい傾向がある、という報告があります。林さんはまさに「人をサポートし、人のためになることを行う」を実践し、やりがいを見つけられていると思います。
③熱中できる何かを見つけることが大切自分の心のバランスを保つために、何か楽しいことを見つけましょう。セカンドキャリアの幅を広げるには、勉強でも何かしらのクラブ活動でも、自ら楽しんで実践できることが必要です。
***シニアのセカンドキャリアには、若い時には決して気付けない年齢に伴う特殊性があると思います。それは、自分が築いてきたものを次の世代に継承し、人のためになることに取り組みたいという気持ちがあることです。今回の林さんの事例は、シニアならではのキャリアを考えるきっかけの1つになるのではないでしょうか。
・参考
上智大学グリーフケア研究所「グリーフケア研究所について」
髙橋 伸典/セカンドキャリアコンサルタント・モチベーション総合研究所代表・東京定年男女の会主宰
1957年生まれ。57歳で早期退職するも、多くのつまずき、苦労を経験する。しかし試行錯誤を重ねることで乗り越え、リスクなく独立する道をつかみ取る。東京都主催の東京セカンドキャリア塾、各自治体などでセミナーを行う。雑誌やウェブメディアでは、セカンドキャリアに関する寄稿の実績多数。著書に「定年1年目の教科書」(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
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