「エンディングノート」と「遺言書」の違いとは? 知らないと損する“終活”の常識
Finasee / 2024年1月29日 11時0分
Finasee(フィナシー)
少子高齢化が大きく進んだ現代の日本では、ひとりきりで最期を迎える事態は決して珍しくありません。そのため自分で意思決定できなくなったとき誰に委ねるか、どのように判断してもらうかをきちんと考えておく必要があるでしょう。
話題の書籍『あなたが独りで倒れて困ること30』では、お金や健康など独身者を襲うリスクや「おひとりさま時代」を生き抜く具体的なヒントについて、司法書士の太田垣章子氏がやさしく解説。今回は本書の『はじめに』、第1章『おひとりさまリスク――「お金の問題」』の一部を特別に公開します。(全3回)
●第2回:「亡くなった時がいちばんお金持ち」になってしまう!? “不安でお金を貯めこむ”人の盲点とは
※本稿は、太田垣章子著『あなたが独りで倒れて困ること30』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。
自分の死後のためにエンディングノートは書いた方がいいでしょうか?「終活」という言葉ほど、分かりにくいものはないと思います。
たとえば就活は、就職活動。婚活は、結婚するための活動。妊活は、妊娠するため。朝活は、朝の時間を自身のスキルアップや生活の充実のために使う活動のこと。では終活は? となると、どうもはっきりした定義はなく、人それぞれ回答もバラバラです。
一般的に「終活」とは、エンディングノートを書く、断捨離をする、お墓を準備する(埋葬のことを考える)という意見が圧倒的に多い気がします。
それも間違いではないのでしょうが、私の考える「終活」は、自分が自分の意思で決定できなくなった時に、誰にその意思決定をしてもらうか、それを決めてその人に託すことだと思っています。
一般の方々が考える「終活」のイメージとは、ずいぶん違うかもしれませんね。
話を戻して、エンディングノートを書くということですが、これは頭の整理をするもの、と考えてもらうのがいいと思います。残念ながら、エンディングノートには法的拘束力はありません。
そのためエンディングノートを書いたから遺言書を作らなくてもいい、公的な書面を準備しなくてもいいという考えは間違いです。エンディングノートに、延命治療等に関する意思表示を記載したとしても、正式なものではないとして、医療の現場で尊重してもらえないことも多いと思います。
「エンディングノートさえ書けば、その内容を尊重してくれると思っていました」
そう驚かれる人もいるかもしれません。確かに、エンディングノートに書かれていることは、書いた本人側から見れば、尊重されるべき内容のものです。エンディングノートを書くことで気付きがもらえたり、判断するべきことは明確になります。
ただエンディングノートは日記帳のようなものなので、それから気が変わることもあるでしょう。もっと言えば、第三者からするとそれが本人の書いたものかどうかすら疑問なのです。だから私たちのような立場の人間からすれば、そこに書かれた内容について、慎重にならざるを得ません。
一方で公的な書面であれば、作成時に公証人等が意思を確認しているので、こちらも安心できます。
エンディングノートは「頭の整理用」と考えるではなぜエンディングノートは、ここまで普及したのでしょうか?
今や書店には、数多くのタイプが並んでいますし、100円ショップにも売っています。いつでもどこでも目にすることができます。
これは多くの方が、自分が高齢に差し掛かった時、何を決めて、何を書き出しておけば遺された人が困らないのか分からなかったところに、エンディングノートが登場したからだと思います。エンディングノートなら書き込みさえすれば、そういった疑問を解消してくれます。
さらには自分の人生を思い出すのにも、一役買っているに違いありません。万が一の時に知らせて欲しい人のリストなどは遺された人にとっても重宝なものです。
そして実際に、エンディングノートを書く時のポイントですが、そもそも法的拘束力がないため、完璧を目指さなくてもいいということです。
たとえば今持っている金融機関の口座。当然、金額などを書く必要はありません。ここでの利点は、普段使わない口座の洗い出しです。高齢になってくると、複数の口座管理は難しくなってきます。書き出すことで解約すべき口座が明確になってくるので、若くて元気なうちに口座を整理して、メイン口座に集約していくようにしましょう。
また仮想通貨やネット証券などは、本当に大変。本人しか分からない資産となる可能性があります。使っている口座に入出金があれば、そこから辿っていくことができるのですが、全てがネット上で、スマホの中だけで完結しているような場合には、正直本人にしか分からず、手がかりがなければ闇の中です。
以前、ご主人が倒れて意識不明になってしまった奥様が、相談に来られました。ご主人が資産の大半を仮想通貨等にしていて、そのことをご主人の友人から教えてもらったとのこと。てっきり資産は普通の金融機関にあると思っていたので、奥様は半ばパニック状態でした。
突然の病気で困惑している上に、家族を支えるお金が自分の理解できない仮想通貨になっている。しかもいくらあるのか、どこにあるのか、どうやったら使えるのかすら分かりません。それはパニックになっても仕方がありませんよね。なんとかスマホのロック解除はできたけれど、画面にあるアプリに入るためのIDとパスワードで躓いてしまったようです。
こうなってしまうと、法定後見制度を利用するしかなくなります。後見人になった弁護士がその後どのように解決されたのかは分かりませんが、どこかに記録を残していたり、その存在を家族に伝えていれば、違った結果になったかもしれません。
今は通帳の要らない金融口座などは、全てWEB上、スマホひとつで完結できることが多くなりました。そしてその大半には、IDやパスワードが必要です。
これもまたどこかに書き留めておかないと、若いうちは記憶できていても、高齢になるといずれ分からなくなってしまいます。セキュリティのこともあるでしょうが、エンディングノートを含めてぜひどこかに記録しておきましょう。
そしてここまで書いたエンディングノートを、いったん貸金庫に入れてしまう人がいます。万が一の時、貸金庫を開けるのは人が亡くなり一息ついた後です。だからそこに治療や葬儀に関することを書いていたとしても、エンディングノートが日の目を見る時には全て終わっていて書いてあった意向を汲み取ることはできません。
エンディングノートは頭の整理用なので、書いた後、大切なことは家族に思いを伝えたり、頼れる家族がいない場合には公的に備えることを考えましょう。
遺言書って自分には関係なさそうですが、書く必要があるもの?「遺言書」と言うと、うちには財産はないからとか、お金持ちの人たちに必要なものでしょう? とよく言われます。でも司法書士の立場からすると、全国民の義務くらいに感じています。特に子どもがいない夫婦や、離婚再婚で子どもがいる場合や未婚の人……いやいやいや、やっぱり全ての人に必要です。
遺言書といえばある程度高齢になって、そろそろ人生の終わりを感じ始めた頃に書く(作る)もの、と思うかもしれません。でも若い世代でも、書くメリットはたくさんあります。
たとえば夫婦と、未成年の子どもがいる世帯。まだまだ現役世代でしょうから、遺言書が必要になる可能性はそう高くはありません。ただ万が一の時には、遺言書がないと面倒なのです。子どもがいると、相続人は配偶者とその子どもたち。親や兄弟姉妹は関係ないので遺言書がなくても楽勝だと思いがちですが、実は違います。
子どもが未成年でどちらかの親が亡くなった場合、遺された方の親が子どもを育てていくことになるので、相続もその親が受けるのが大半です。ただそうするためには法定相続分(配偶者が半分、半分を子どもたちが均等で)と異なることになるので、財産の分け方を決めるために「遺産分割協議」が必要になります。
ところが未成年者は、遺産分割協議ができません。そのため、子どもたちそれぞれのために、裁判所に特別代理人の選任申し立てをして、その子どもの代わりとなった特別代理人と遺産分割協議をすることになります。
この特別代理人は裁判所が選任すると、当然、費用がかかってしまうので、身内に依頼するのが一般的です。兄弟や従妹で頼みやすい人に、お願いすることになるのです。
ところがこれって、その方々に亡くなった人の財産が全部知られてしまうのですよね。それって抵抗ありませんか?
一方で「自分の財産は、全て配偶者に」という遺言書を作成し、遺言執行者を配偶者にしておけば、万が一の時の手続きは配偶者だけで簡易にできてしまいます。これは遺された者からすると、愛を感じます、感じるはずです。
ただでさえ若くして配偶者に亡くなられたら、それはショックだし、世話しないといけない子どももいるし、いろいろ大変なことでしょう。
さらに裁判所への特別代理人選任申し立てを自分でやろうと前を向ける人って、そういないのでは? と思います。そうすると司法書士や弁護士に依頼するしかなくなりますが、これも敷居が高いし面倒だし、費用もかかります。
そんな中で遺言書があれば、「自分が困らないようにしてくれたんだな」と亡くなってからも惚れ直すこと間違いありません!
遺言執行者が明記されていれば、金融機関の解約等も執行者が単独ですることができます。この遺言執行者は、別に専門家でなくても構いません。主に手続きをしてくれる(であろう)人を、夫婦で話し合って記しておきましょう。
「公正証書遺言」には大きなメリットがあります次に「遺言書」でよく聞かれるのが、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」のどちらがいいか問題です。個人的には、絶対に公正証書での遺言書をおすすめします。
その理由は2点。まず大半を自書しなければない自筆証書だと、遺言書としての不備が見つけられないということ。
遺言書は様式が決められていて、そこを外してしまうと無効になってしまいます。自身で書いているだけだと、自分で様式間違いに気付くことができません。その点、公正証書の場合、公証人が書面を作成するので、そのような間違いが起こることはありません。
ネットや書籍で「遺言書の書き方」についての情報は出回っていますが、それとてあくまで例文です。本人も相続人も財産も違うわけですから、なかなかピタッとした例には当てはまりません。
「自筆証書遺言の書き方を教えてください」
そう聞かれることも多いのですが、一言で伝えられるものでもなく、こちらも回答に困ってしまうのです。
2点目は、遺言者が亡くなった時、自筆証書だと裁判所の検認手続きが必要になるということです。この手続きをしないと、遺言書そのものを有効として手続きすることはできません。
ところがこの検認手続き、裁判所が全相続人に対して「〇月〇日何時から検認手続きをするので」とアナウンスして呼び出します。仮に行かなかったとしても手続きは行われるのですが、立ち会った場合には、出席者に遺言書の内容はだだ漏れてしまいます。
たとえばお子さんがいない夫婦の場合には、配偶者と亡くなった者の親、もしくは兄弟姉妹が相続人になります。配偶者の立場からすると財産の詳細が亡くなった側の家族に知られてしまうのはストレス以外の何ものでもない気がしてなりません。
取り越し苦労かもしれませんが、特に亡くなった方が若かった場合などは、遺された配偶者の方が、ほかの相続人に「自分たちが家族であった歴史の方が長いのに、これだけの財産を配偶者が持っていくのか」と思われていないか、要らぬ心配を抱いてしまいます。
さらに検認手続きに先立って、自筆証書遺言を見つけた時は、開封してはいけません! 裁判所の検認手続きの中で開封する、そう決められています。これに違反したからといって、即、遺言書が無効にはなりませんが、5万円以下の過料の対象となっています。
でもこのようなこと、一般的には知られていないと思います。誰だって、遺言書を見つけたら「何が書いてあるのか」興味津々で、すぐに開封してしまいますよね?だからやっぱり「自筆証書遺言」は、お勧めできないんです。
一方の公正証書での遺言書の場合には、検認手続きは不要です。開封云々の話もありません。全国の公証役場で、遺言書が作成されたかどうかの検索サービスもあります。公証人が本人の意思を確認して作成するので、安心です。
「お金がかかるから」と言って、セコイことを考えるのは止めましょう。自分に万が一のことがあった時、遺された方が安心してストレスなく手続きできるのですから、必要な費用と割り切りましょう。
「全国民の義務!」くらいに考えてぜひ作成を未成年者のいる世代だけでなく、再婚して前妻との間に子どもがいる場合にも、遺言書は必須です。遺言書がなければ、いろんな感情を持った前妻の子どもと後妻が、遺産分けの話をしなければなりません。ちょっと想像しただけでも、怖いですよね……。
こんな例もあります。前妻に子どもが2人、後妻にも子どもが2人いるご主人が亡くなられました。後妻の陽子さん(仮名・65歳)が相談に来られたのですが、憔悴しきっていました。
何度となくご主人に「遺言書を書いて」とお願いしたけれど、そのたびに「困らないようにしている!」と声を荒らげられ、それ以上言えなかったとのこと。子どもたち2人には、父親が再婚で、異母兄弟がいることも伝えていなかった中でのことです。
「困らないようにしている」という根拠を探そうと、部屋中探したところ、前妻との覚書が出てきました。そこには「離婚につき財産分与をしたので、自分の相続の際には2人の子どもたちに一切の請求をさせない」と書かれており、前妻の署名押印がされています。
当時のことはもはや誰にも分かりませんが、亡くなったご主人はこれで全てが解決できると思っていたのでしょう。でもこんな私文書、何の役にも立ちません。当然に前妻のお子さん2人にも、相続の権利はあるのです。結局のところ、よく言われるところの“争族”となってしまいました。
「困らないようにしているって言ったのに」
奥さんの落胆ぶりは、大変なものでした。2人の子どもたちも、自分たちが異母兄弟の存在を知っていたら、何が何でも父親に遺言書を書いてもらうようにしたのに……と悔しがっていました。
このようにきちんと遺言書を残していないと、さまざまな問題が生じるのです。亡くなってから、家族に恨まれるのは、きっとあの世でも心苦しいでしょう。だからこそ、遺言書を残しておくのは、やっぱり全国民の義務なのです。
因みに公正証書の遺言書は、全国の公証役場で作ることができます。自身の住民登録地とか何か制限がある訳ではありません。長期バカンス中に、「作ろう!」と思ったら、わざわざ戻ってこなくてもその地でできます。
しかも公証役場に行けない場合には、公証人は出張して来てくれます。ただしこの場合には、住民登録地管轄の公証役場になるのでご容赦ください。
面倒だとか、まだ早いとか、自分には必要ないとか、いろいろ言い訳せずに、遺された方への愛情として、遺言書はぜひ作成して欲しいのです。
そして長生きすれば、財産や状況も変わるでしょうから、めでたくまた作成し直せばいいのです。そうしておけば、亡くなった後「ちゃんと考えてくれた」と遺された家族から、感謝されること間違いなしです!
『あなたが独りで倒れて困ること30』太田垣章子 著
発行所 ポプラ社
定価 1,760円(税込)
太田垣 章子/OAG司法書士法人 代表司法書士
これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。常に現場へ足を運び、滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士。住まいという観点から、「人生100年時代における家族に頼らないおひとりさまの終活」支援にも活動の場を広げている。家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」や、おひとりさま・高齢者に向けて「終活」に関する講演も行う。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』『不動産大異変』(すべてポプラ新書)、共著に『家族に頼らない おひとりさまの終活』(ビジネス教育出版社)がある。
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