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市場下落のショックに耐えるには長期で積立できる環境が大事

Finasee / 2023年12月28日 11時0分

市場下落のショックに耐えるには長期で積立できる環境が大事

Finasee(フィナシー)

確定拠出年金を通して、いろいろな方とお金に関する話をする機会があります。年代が上の方であれば、定期預金の金利が5%を超えていた時代もあった、といった話題になります。若い世代の方には、ピンとこないかもしれませんが、金利が5%だったのは1990年なので、30年少々前のこと。50年、100年前というわけではありません。

為替も1ドル75円32銭まで円高になったのは、2011年10月31日なので、13年前です。ドル円レートが140〜150円近辺で定着している昨今からすると、隔世の感があります。

日経平均株価が大きく変動した平成の市場環境

平成が始まった1989年はバブル経済のピークといわれています。1989年12月29日の日経平均残高の終値は3万8915円87銭と最高値を付けました。

1985年以降、上昇を続けていた株価や地価は、1990年代になると下落し始めました。また、名目GDPの上昇率も1992年をピークに下がっています。

1994年ごろから、不動産業や建設業などからの銀行への返済が滞るようになり、金融機関の「不良債権」が取りざたされるようになりました。

1997年には三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券が経営破綻しました。アジア通貨危機による影響もありました。さらに1998年には日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が国有化で消滅し、その後も不動産融資への対応が遅れた不動産や建設、金融関連企業の破綻が続きました。2003年にりそな銀行に公的資金が注入され、その後、2005年4月のペイオフ(※1)解禁で、金融機関の不良債権処理が終わったことが印象付けられました。

一方で1999年から2000年にかけて、米国ではインターネット関連企業の株価が急騰し、ITバブルが発生しますが崩壊。2008年には米国のサブプライムローンをはじめとする証券化商品が暴落して、米国の大手金融機関が破綻しました。リーマンショックの余波は日本にも及び、失業者が増加しました。また、円高が進み、輸出企業の業績悪化もあって、2009年3月には日経平均がバブル後最安値の7054円まで下落しました。

2012年12月に第二次安倍政権が誕生し、「3本の矢」政策が打ち出されました。いわゆる「アベノミクス」です。日経平均株価は2012年11月の8000円代から上昇し、12月には1万1000円台に、その後、2013年4月には日銀の総裁が変わり「黒田バズーカ」で日経平均は1万6000円台に上昇しました。
※1 ペイオフは銀行の破綻に際し、1000万円までの元本と利息を保証する仕組み。

DC制度開始から22年が経過

2002年の確定拠出年金(DC)制度開始から20年超が経過しました。

スタート当初からしばらくは、運用環境も悪くなかったため、投資を前向きにとらえる加入者も存在していました。ところが2008年のリーマンショックをきっかけに株式市場は大暴落し、日経平均で約40%、米国のダウ平均株価で54%も下落しました。企業型DCの事業主のなかには、その当時の元本割れの記憶が鮮明で、いまでも話題に上ることが多い内容です。「なぜDCを始めたんだ、と社員から文句を言われたこともありますよ」と。

しかし、その当時に投資信託の購入を停止せずに継続してきた方は、現時点でかなりの運用実績になっています。時間分散の「値段が安い時にたくさん買える効果」を実践してきた、と言えます。

投信割合は増加傾向だが、一歩を踏み出せない層も

いまから振り返ってみれば、デフレ下ではリスクを取らずに元本を確保する姿勢は、理にかなった行動だったともいえます。

しかし、DC加入者のうち、その後の環境変化にあわせて投資行動を変えることができたのは、ごく少数です。加入者の多くは、掛金の資産配分割合を変更したことがありません。加入者になった時(DCがスタートした時、もしくはDCのある企業に入社した時)の資産配分のまま、運用商品の変更をできるという認識もない方も多いようです。

また、運用商品を変更できる、という認識はあっても、一歩を踏み出せない人もいるようです。なかには「いまさら投資信託でリスクを取っても、タイミングとして遅いのではないか」と考える既存の加入者も存在しています。これまでに、リスクを取ってきた人と比較して、資産残高が増えていないことは意識しつつも、「いまさら」と考えてしまうようです。

一方で、DCの投信割合は年々増加しています。2020年3月時点ではDC資産に占める投信の割合は48.1%でしたが、徐々に増加して2023年3月末では59.8%となっています。逆に、元本確保型のみへの配分者は減少し、2020年3月末の34.1%から2023年3月末の26.9%へと減りました(※2)

投信割合の増加理由は二つ想定できます。一つは、株価の上昇によって相対的に割合が増えたというものと、もう一つが最近、加入者になった人の投信配分の増加です。そのため、企業型DCの担当者の中には、「若年層はリーマンショックを知らないから、大きな下落に直面した時に慌ててしまうのではないか」「元本割れした時のスイッチングは、運用損が確定してしまうということを伝えたほうがいいのではないか」と考えている人もいるようです。
※2 「確定拠出年金統計資料(2023年3月末)」運営管理機関連絡協議会

冒頭に過去の市場環境を振り返ったように、株価や為替は大きく変化します。将来のことは誰にも予測できません。

下がることもあれば上がることもある。ただ、だからこそ積立投資を続けられる環境を整えることで、いつの間にか資産形成ができる仕組みを整えることが重要といえます。
 

津田 弘美/野村證券株式会社 確定拠出年金部

社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。

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