日本郵政のJPタワーを皮切りとした不動産開発は豪トール買収の苦い歴史を塗りかえられるか
Finasee / 2023年12月27日 18時0分
![日本郵政のJPタワーを皮切りとした不動産開発は豪トール買収の苦い歴史を塗りかえられるか](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/finasee/finasee_13006_0-small.jpg)
Finasee(フィナシー)
投資の失敗は個人にとどまりません。大企業でも投資に失敗し大きな損失を計上することがあります。
日本郵政による豪トール・ホールディングスの買収はその最たるものでしょう。6200億円で買収し多額の損失を計上することになりました。
日本郵政のトール買収を振り返りましょう。
6200億円で豪物流大手を買収日本郵政は2015年2月、オーストラリアのトール全株式を6200億円で取得しました。トールを選んだ理由はグローバル展開を強化するためです。
当時の日本郵政は上場を控えていました(上場:2015年11月)。上場すれば投資家から継続的な成長と利益を求められます。しかし国内の郵便事業は停滞しており、明確な成長ストーリーは描きにくい状況にありました。
そこで日本郵政は新事業として国際物流への本格的な進出を決めます。同時に自社にノウハウが乏しかった3PL(※)領域の強化も視野に入れ買収先を選定したところ、同領域で強みのあったトールに白羽の矢が当たりました。
※3PL(サード・パーティー・ロジスティクス):物流にかかる一連の業務を荷主に代わって第三者の事業者が包括的に請け負うサービス。配送だけでなく検品や入庫、また保管や出荷などを一元的に担う。
トールはオーストラリアの総合物流企業で、グローバルで3PL事業に豊富な経験がありました。特にアジア・太平洋地域で強みがあり、同地域の物流の高まりを見込んだこともトールを選んだ理由の一つです。買収手続きは2015年5月に完了し、完全子会社として日本郵政グループへ迎えます。
日本郵政は直後に買収額が高すぎたことを痛感します。
買収直後に経営悪化 4000億円の巨額損失を計上トール買収で日本郵政は大きく成長するはずでした。しかし目算は早くも崩れます。
買収後で最初の決算である2015年6月期において、トールのEBIT(利払い前・税引き前利益)は前期比15%減少し、翌期はさらに30%悪化しました。資源価格の下落と中国経済および豪州経済の停滞が主な原因です。苦戦は止まらず、EBITは2017年6月期に2014年6月期の6分の1にまで減少しています。
【豪トールのEBIT(2014年6月期~2017年6月期)】
・2014年6月期:4億4400万豪ドル
・2015年6月期:3億7900万豪ドル
・2016年6月期:2億6600万豪ドル
・2017年6月期:6900万豪ドル
出所:日本郵政 トール社のエクスプレス事業の譲渡について
日本郵政は業績の悪化を受けトールの価値を再評価した結果、2017年3月期に大幅な減損を強いられました。買収に伴って計上していたのれんは、ほぼ全額が減損の対象となります。この処理で4000億円以上の特別損失が発生し、日本郵政は最終赤字に転落しました。
【日本郵政ののれん(2015年3月期~2017年3月期)】
![](https://finasee.ismcdn.jp/mwimgs/1/6/800m/img_16323acc94ffa35cce494f89fc9d2d8a36096.jpg)
日本郵政はトールを立て直すため、赤字が続いていたエクスプレス事業(※)を売却し、事業ポートフォリオを3PL事業とフォワーディング事業(※)に絞りました。この売却でさらに674億円の特別損失を計上しています(2021年3月期)。
※エクスプレス事業:先に物流網を構築して行うネットワーク型の物流。
※フォワーディング事業:船や飛行機など複数の輸送手段を手配して輸送する事業。輸送手段は自社で保有せず外部に委託する。
不採算事業から撤退したこともあり、トールが占める国際物流事業は2022年3月期に2期ぶりの黒字を確保しました。ただし利益額は212億円にとどまっており、6200億円もの買収額に見合うとはいえません。また翌期は再び赤字に陥っています。2016年3月期~2023年3月期の利益の累計は170億円と厳しい状況です。
【国際物流事業の経常利益(2016年3月期~2023年3月期)】
![](https://finasee.ismcdn.jp/mwimgs/3/3/800m/img_3327e8c2b20b3b3281a172a2b06d352245822.jpg)
トールでは手痛い経験をした日本郵政ですが、投資の手は緩めないようです。2021年5月に発表した中期経営計画(2021年度~2025年度)において不動産に5000億円を投じると発表しました(出所:日本郵政 JPビジョン2025)。
日本郵政は2012年5月竣工のJPタワー(千代田区丸の内)を皮切りに、都心部や地方都市駅前に収益物件を開発しています。2018年には不動産専業の子会社(日本郵政不動産)も設立しました。
不動産事業の売上高に相当する営業収益は2023年3月期で392億円、営業利益は17億円です(試算値。不動産事業は報告セグメントに含まれない)。計画では2025年度までに営業収益を900億円、営業利益を150億円にまで引き上げます。
物件の開発では既存の郵便局も利用します。日本郵政は立地条件のよい郵便局を多数保有しています。郵便局の移転も視野に、グループが保有する資産の開発に3000億円を投じる予定です。残り2000億円はグループ外の不動産に投資するとしています。
6000億円以上の経常利益を稼ぐ日本郵政にとって、150億円の利益に大きなインパクトはありません。しかし既存事業では金融への依存度が高く、また郵便事業に成長は期待しづらい状況です。新しく不動産を事業ポートフォリオに加え、収益の多角化を目指す考えがあるとみられます。
【日本郵政のセグメント経常利益(2023年3月期)】
![](https://finasee.ismcdn.jp/mwimgs/c/c/800m/img_ccf2c2591ac6a63ced85a3dc9ed40a5738463.jpg)
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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