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夫の悪口に「いいね!」がつく快感から抜け出せなくなった妻のやめられない“共感依存”

Finasee / 2024年1月9日 18時0分

夫の悪口に「いいね!」がつく快感から抜け出せなくなった妻のやめられない“共感依存”

Finasee(フィナシー)

寝転がった夫の背中越しにテレビの画面が見える。テレビの中では若い女優が看護師を演じている。慣れない仕事に心が折れそうになっている時、入院患者にお礼を言われたことで仕事にたいする意欲を取り戻す看護師。夫はこんなドラマを見て楽しいのだろうか。もしも自分が夫のように失業中の身だったら、あまりにも自分が情けなくて、若い看護師が仕事に奮闘するドラマなんて見ていられない。

「それじゃあ、仕事行ってくるね」

「うん、気をつけて~」

夫は寝転がったまま気の抜けた声で返事をした。旅行会社で働いていた頃は、こんな風じゃなかった。残業のせいで帰宅が夜遅くなることもあったけど、仕事をしていた頃の夫は輝いていた。どんなに仕事が大変でも愚痴を言ったりせず、映見が仕事で悩んでいると、前向きなアドバイスをくれた。「今度、主任になったんだ!」と会社で昇進したことをうれしそうに語ってくれた頃の面影はどこにもない。半年前に会社が倒産して無職になってから、夫は家でゴロゴロしている事が多い。「ちゃんと転職活動はしている」と言っていたが、どこまで信用していいか分からない。

家にいる時間が増えた分だけちゃんと家事もやってくれるし、失業してからも家賃や光熱費は映見と夫でしっかりと折半していた。しかし、毎日働かずに家にいる夫を見るのは映見にとって大きなストレスだった。まるで、人の姿をしたかわいらしくもない大きなペットが家にいるような感覚だった。

投稿でストレス解消

マンションを出ると、映見はスマホを取り出した。そして、匿名型のSNSを開く。数ヶ月前から、映見は「ノージョブ夫の飼育日記」というアカウント名で、夫にたいする不満をぶちまけてストレスを発散していた。

『朝から夫の態度がムカついて仕方ない。まったく、こんな役に立たない家畜を育てた親の責任は重大だな。お母さん、ボケ始めたお父さんのお世話が大変だと思いますが、古くて汚いご実家に息子さんを送り返してもいいですか?」

マンションからバス停に向かうまでの道すがら、本日最初の投稿をした。投稿した数分後には複数の「いいね!」がつく。アカウントを作ってからまだ数カ月だが「ノージョブ夫の飼育日記」には3000人以上のフォロワーがおり、投稿すれば必ずと言っていいほど数十個の「いいね!」がついた。自分の投稿に反応があるのを見るたびに、映見はまるで自分の悩みが多くの人から共感されているような気持ちになるのだった。

『本当に送り返してやりたいですね!』

フォロワーの1人から、映見の投稿にたいする共感のリプライが届いた。このフォロワーも既婚者で、夫が子育てに全く関わろうとしないことに悩んでいた。映見と夫の間に子供はいない。もしも子供がいたら、夫もすぐに再就職しただろうか。そんなことを考えているうちに、バスは職場の最寄りのバス停に到着した。映見は数年前から、おしゃれな雑貨を取り扱うネットショップで正社員として働いていた。残業はほとんどなく、上司や同僚の人柄も申し分ないが、決して給料が良いと言えないのが欠点だった。

SNSが感情のはけ口に

商品の写真を撮り、それを画像ソフトで加工し、キャッチコピーで装飾する。客から問い合わせがあればそれにも対応するし、目玉商品はSNSで告知する。限られた人数で運営しているネットショップでは、社員がマルチタスクでさまざまな業務をこなしていく必要があった。手際良く業務を進めながら、映見は時折スマホを開く。そして「ノージョブ夫の飼育日記」に寄せられたリアクションをチェックする。朝の投稿にたいする「いいね!」はもうすぐ50に達しようとしていた。

昼休み中、夫から連絡があった。

「スーパーで豚肉が安かったら買っておいたよ~」

失業してから、夫は「〇〇が安かったから買っておいた」という連絡を頻繁にくれるようになった。時間のある夫が毎日の買い物を担当してくれるのは助かるのだけれど、まるで「自分は立派な主夫です」と自己主張されているような気がして不愉快だった。今日こそ自分の気持ちをストレートに伝えてやろうかと思ったが、それは止めておいた。

『夫、今日も「安かったから買っておいた」と連絡をよこす。このアピールうざすぎて気絶しそう。頼むから消えてくれ』

夫に自分の気持ちを伝える代わりに「ノージョブ夫の飼育日記」に感情を吐露する。ありがたく思えよ。お前に哀れみをかけて、面と向かってきついことを言わないでやってるんだから。夫に対する呪詛(じゅそ)の言葉を投稿しながら、映見は意地悪な笑顔を浮かべていた。

投稿して気持ちをすっきりさせたおかげで、午後からの仕事ははかどった。上司からも撮影した写真をほめられた。大変なこともあるけれど、やっぱり仕事は楽しい。毎日家でゴロゴロしている誰かさんは仕事をする喜びを忘れてしまったみたいだけれど。

●夫に対するストレスが積もっていく映見、このまま無職の夫に耐え続けていけるのか? 後編【“垢バレ”で結婚生活が破綻… 温厚な夫がブチ切れた「投稿の内容」とは?にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

大嶋 恵那/ライター

2014年立命館大学大学院経営管理研究科修了。大手人材会社などで法人営業に従事したのち、株式会社STSデジタルでライター業に従事。現在は求人系、医療系、アウトドア系、ライフスタイル系の記事を中心に執筆活動を続けている

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