“垢バレ”で結婚生活が破綻… 温厚な夫がブチ切れた「投稿の内容」とは?
Finasee / 2024年1月9日 18時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
映見(40歳)は、半年前に会社が倒産して無職となり家でゴロゴロしてばかりいる夫(40歳)にいらだっていた。夫に文句を言う代わりに、「ノージョブ夫の飼育日記」というSNSアカウントを立ち上げ、毎日のようにネット上に感情を吐露していた。
●前編:夫の悪口に「いいね!」がつく快感から抜け出せなくなった妻のやめられない“共感依存”
突然崩れた日常せっかくの休日なのに予定がない。本当は学生時代の友人と映画を見に行く予定だったのだが、友人が体調を崩してしまいキャンセルになった。ということで、大切な休日を家で夫と過ごす羽目になってしまった。夫が無職になってから、一緒に過ごす休日がストレスになった。以前はこうではなかった。休日は共働きの夫婦が一緒の時間をたっぷりと過ごせる貴重な機会だったから、買い物をしたり旅行に出掛けたりと、楽しい時間を過ごしていた。
「1日中こいつと一緒にいるぐらいなら、1人で映画を見に行けば良かった」
映見がリビングでそんなことを考えながらソファに座っていると、部屋にいた夫がやってきた。どうせ時間を持て余して昼寝でもしていたんだろう。仕事もせずにのんびり家にいるんだから、毎日が休日みたいなものだよね。
「今、ちょっといいかな」
いつものような気の抜けた声ではなかった。これは、真面目な話をする時の夫の声だった。そんな声、久しく聞いていなかった。もしかして、ついに再就職先が決まったのだろうか。
「うん、いいよ」
映見がそう言うと、夫はポケットからスマホを取り出し、それを映見に突きつけた。スマホの画面には「ノージョブ夫の飼育日記」の文字が浮かんでいた。
「飼育されてる身でこんなこと言うのは生意気だけど、これあなただよね?」
映見は何も言い返すことができなかった。あのアカウントが夫にバレるということは全く想定していなかった。夫はSNSなどに疎く、映見が仕事でSNSを使うと話した時も「俺には絶対無理だな~」と言っていた。そんな夫がどうして「ノージョブ夫の飼育日記」に気付いてしまったのか。
夫に“垢バレ”していた…「俺、1週間ぐらい前から暇つぶしにSNS始めてみたんだよ。あれ、苦手意識あったけど意外と簡単なんだね」
まさか、夫がSNSを始めていたとは知らなかった。最近はできるだけ夫の姿を見ないようにしていたので、そんな変化に気付くわけもなかった。絶対に夫にバレるわけがないとタカをくくっていた自分が甘かった。
夫は映見が使っているのと同じ匿名SNSで、無職であることの悩みや妻である映見への申し訳なさを投稿していたのだという。あのSNSには、自分と似たような投稿をしているアカウントを「おすすめ」として表示する機能がある。夫はその機能で「ノージョブ夫の飼育日記」の存在を知ってしまった。そして昨日、過去の投稿をたどっているうちに「ノージョブ夫の飼育日記」の中身が自分の妻であることに気付いた。
「見なかったことにするつもりだったよ。あなたがこんなアカウントを作るようになってしまった原因は俺にあるし、黙っているつもりだった。でも、さすがに『消えてくれ』なんて投稿を見たら黙ってられないよ。しかも、俺の親についてもひどいこと言ってるし」
『夫、今朝も背中でお見送り。お前の背中は見飽きたぜ。まったく、こんな役に立たない家畜を育てた親の責任は重大だな。お母さん、古くて汚いご実家に息子さんを送り返してもいいですか?』
『夫、今日も「安かったから買っておいた」と連絡をよこす。このアピールうざすぎて気絶しそう。頼むから消えてくれ』
夫がどの投稿を指してそう言っているのか、すぐに分かった。夫にあの投稿を見られたと知った途端、自分の投稿がとても恥ずかしく感じられた。特に、夫の故郷である長野県で暮らしている両親のことまでののしったのはまずかった。夫が無職であることと全く関係ない。
「あの、本当にごめんなさい…」
「親の悪口とか『消えてくれ』とか投稿されて、さすがに許せないでしょ。離婚しようよ」
映見の謝罪は一瞬で打ち砕かれた。まさか、夫から離婚を切り出されるなんて思ってもいなかった。共通の趣味を通じて知り合い、夫から告白されて付き合うことになった。1年程付き合った後にプロポーズしてくれたのも夫だった。どんなことがあっても、夫は自分を愛し続けてくれると思っていた。そんな夫から離婚を切り出されるなんて……。
実は転職活動を続けていた夫「離婚? あなたみたいな無職が私なしでどうやって生きていくわけ? 働いてないのにこのマンションに住めるのも、私が家賃半分出してるからだよね!」
夫から離婚を切り出されたというショックが映見の感情に火をつけた。カッとなって思わず強い言葉を発してしまった。
「仕事なら、ついさっき決まったよ。最終面接受けてからかなり待たされたけど、前の会社と同じくらいの規模の旅行会社に就職することになった」
映見は夫の言葉が信じられなかった。全く就職活動をしていないように見えたのに、どうやって仕事を決めたというのだろう。
「俺は、あなたが仕事に出掛けた後にちゃんと転職活動してたよ。あんまり心配かけたくなかったから、できるだけ気楽そうに振る舞うようにしてたけど、本当に怠けてると思われたんだな」
映見は思わず言葉を失った。自分が知らないところで、夫は再就職のためにしっかりと行動していたのだった。夫への不満をSNSに投稿することにきゅうきゅうとして、映見はそんな夫のことをちゃんと見ようとはしなかった。夫によると、最近はオンラインで面接をやっている会社も多く、夫も自分の部屋でパソコンを使って面接を受けていたということだった。夫は転職活動を怠けていたわけではなく、自分がそう思い込んでいただけだった。
2カ月後、映見は荷物をまとめてマンションを出た。離婚届にもハンコを押した。離婚の原因が映見にあるので、夫から慰謝料などもらえるわけもなかった。「ノージョブ夫の飼育日記」が夫にバレてからマンションを出るまでの間、夫とはほとんど口を聞かなかった。
「それじゃあ、元気でね」
「うん、あなたも元気で」
最後にそうあいさつを交わし、映見の結婚生活は終わった。
映見は、たしかに後悔していた。SNSでの軽はずみな投稿が原因で結婚生活が破綻するなんて想像もしていなかった。アカウントはすでに削除していた。離婚の原因となった存在をそのまま放置しておくことに耐えられなかった。
マンションを出ると、美しい青空が広がっていた。今日から映見の新生活がスタートするのだった。夫婦生活は終わってしまったが、ネットショップ運営の仕事はちゃんと続けている。先日、上司から「管理職とか興味ない?」と声をかけてもらった。しばらくは仕事に没頭してつらさを忘れることにしよう。そういえば、名字が元に戻るので、会社には離婚したことを報告しなければいけないのだろうか? さすがに本当の理由を伝えるわけにはいかないので、離婚の原因は「価値観の相違」といったところにしておこう。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
大嶋 恵那/ライター
2014年立命館大学大学院経営管理研究科修了。大手人材会社などで法人営業に従事したのち、株式会社STSデジタルでライター業に従事。現在は求人系、医療系、アウトドア系、ライフスタイル系の記事を中心に執筆活動を続けている
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