日本の個人金融資産総額「2121兆円」―実は“自由に使えないお金”が含まれている事実
Finasee / 2024年1月5日 15時0分
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Finasee(フィナシー)
先般、2023年第3四半期の資金循環統計(速報)が発表されました。それによると、2023年9月末の個人金融資産の総額は2121兆円。このうち現金・預金の総額は1113兆円で、全体に占める比率は52.5%と、相変わらず過半数を占めていることが分かりました。2024年1月からスタートする新NISAによって、この比率に変動が生じるのかどうなのか、気になるところです。
家計金融資産総額「2000兆円」というデータへの疑問ところで、この2121兆円に関して興味深いレポートがありました。12月21日にリリースされたもので、「家計金融資産の日米比較」というものです。内容としては、日米の家計金融資産を比較しながら、なぜ日本の家計金融資産は現金・預金に偏在しているのかを検証したものとなっています。
しかし、それ以上に興味深かったのは、このレポートの最終ページにあった「補足」の記事でした。それによると、日本の家計金融資産の総額は2000兆円と言われているものの、それは本当なのか、という疑問を呈しているのです。
このレポートでは「世帯主の年齢階級別家計金融資産」の額がグラフで表示されています。35歳未満の774万世帯、35歳以上44歳までの734万世帯、45歳以上54歳までの939万世帯、55歳以上64歳までの840万世帯、65歳以上74歳までの999万世帯、そして75歳以上の1028万世帯において、それぞれの保有する平均的な金融資産の額をベースにして、全体の家計金融資産を合計すると、700兆円程度にしかならないということです。
そうであるにも関わらず、なぜ資金循環統計をベースにした家計金融資産の総額では、2121兆円という数字が出ているのか、この両者の乖離(かいり)はどういうことなのか、ということです。
あまりにも大きい乖離……なぜ起きた?誤差と言うにはあまりにも大きすぎる乖離です。
もちろん、これだけの乖離が生じている理由はあります。同レポートでも記述されていますが、「世帯主の年齢階級別家計金融資産」の額は、「全国家計構造調査」という標本調査をベースにしているため、サンプリングの関係から一定の誤差が生じるのは避けられないことに加え、「アンケート調査であることから、通常家計が金融資産として認識しているような資産が計上されることも想定される」ということです。
対して日銀の資金循環統計には、「①通常個人が必ずしも金融資産とは認識していない金融商品、②個人事業主(個人企業)の事業性資金、なども家計金融資産に含まれており、割り引いて考えた方が良い点があるのも事実」とも指摘されています。
ここで言う「通常個人が必ずしも金融資産とは認識していない金融商品」とは、企業年金・国民年金基金等に関する年金受益権、預け金(ゴルフ場預託金等)、未収・未払い金(預貯金の経過利子等)などとなっています。
確かに、年金受益権のように遠い未来に受け取れる年金の権利などは、現時点の個人が自由に使えるものではありませんし、ゴルフ場の預託金を、預貯金などの金融資産として認識している個人は少数でしょう。
また、「個人事業主(個人企業)の事業性資金」も、実際に個人事業主として仕事をしている人なら実感できると思いますが、この手の資金は個人金融資産にカウントされているとはいえ、あくまでも個人が事業を行うのに使われる資金です。生活費やレジャー資金などのために自由に下ろして使える性質のものではありません。
しかし、それも個人金融資産に含まれているのです。
恐らく、大半の人は「個人金融資産」の概念を、まさに今、お金を預けている預貯金のように、必要に応じて自由に下ろして使える金融商品のイメージで捉えているでしょう。そこに「自由に下ろして使うことのできない資金」が含まれているとしたら、本当に2121兆円の個人金融資産の総額が、どこまで自由に使えるお金なのか、いささか疑わしくなってきます。
つまり、2121兆円という数字をうのみにすることなく、ある程度、割り引いて考えた方が良い、ということになるのです。
米国では高齢者もリスク選好型同レポートでもう1つ注目したい点は、日米の家計金融資産の比較において、米国も日本と同様、家計金融資産が高齢者世帯に集中しているということです。
ただ、大きく異なるのがリスク選好の度合いです。端的に言えば、米国の場合、高齢者になってもリスク選好的であり、日本の高齢者はリスク回避的であると、同レポートも指摘しています。
そして、その理由を、「米国では個人退職勘定(IRA)や企業型確定拠出年金の存在であり、かつ米国の確定拠出年金では、加入者の運用指図がなかった場合のデフォルト・オプションから元本確保型商品が除外されている」としています。
では、この手の仕組み・制度を整備すれば、日本の家計金融資産を、リスク回避型からリスク選好型に変えることができるのでしょうか。
同レポートでは、「日米の家計金融資産構成の違いは、米国における確定拠出年金のような政策の違いのみで説明できるものではない」と指摘しています。その要因の1つとして、米国は日本に比べて富が極端に偏在していることを挙げています。
なぜなら、資産を多く保有している人ほど、リスク資産の多いポートフォリオを持ち、資産が少ないほど安定資産を保有する傾向があるから、ということですが、加えてもう1つ、日本は戦後、高度経済成長期やバブル経済、デフレ経済という歴史の中で、長いことリスク資産で運用しなくても、物価高騰によって資産価値が極端に目減りするという状況に直面して来なかったからです。
高度経済成長期からバブル経済にかけては、賃金が右肩上がりで、地価の値上がりで持ち家の資産価値が増え、金利も物価水準を上回る程度にはありました。
バブルが崩壊してからは、確かに賃金が増えなくなり、金利も大きく下がりましたが、長期間にわたって物価が下がり続けたので、わざわざリスクを冒してまで株式や投資信託などのリスク性金融商品を買わなくても済んだ、とも考えられます。
2024年の資産運用戦略のポイントそうなると、これからはどうでしょうか。2023年は消費者物価指数が前年比で4%まで上昇した月もある一方、預貯金金利は限りなく0%に近い状態が続きました。
2023年ほどではないとしても、これから緩やかなインフレが定着するとしたら、ある程度、リスク性金融商品にも資金を配分しないと、長期的に見て資産価値が目減りすることになります。
いよいよ個人にとって、本格的に資産運用が必要になる時代が来たと考えられます。
もちろん、だからといって一所懸命に研究して値上がりする可能性の高い銘柄を選び出せという話ではありません。そこまでしなくても、世界の経済成長を保有資産に取り込むことのできる便利なインデックスファンドはたくさんあります。
この手の投資信託を、自分が許容できるリスクの範囲内で保有することを、2024年の資産運用戦略として考えてみてはいかがでしょうか。
参考
・日本銀行「参考図表 2023年第3四半期の資金循環(速報)」
・ニッセイ基礎研究所「家計金融資産の日米比較~なぜ日本は現金・預金が多いのか~」
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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