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丸紅と米ガビロンの10年を振り返る ガビロン離脱の影響は?

Finasee / 2024年1月10日 18時0分

丸紅と米ガビロンの10年を振り返る ガビロン離脱の影響は?

Finasee(フィナシー)

丸紅はかつて収益の大半を食料ビジネスで得ていました。米ガビロンの買収後は穀物貿易で世界トップクラスのシェアを握り、連結営業利益の半分を稼ぐようになります。。

しかし近年は状況が変わってきました。他部門が成長したほか、丸紅はガビロンを肥料事業を残して売却しています。連結営業利益に占める食料ビジネスの割合は大きく低下しました。

【食料セグメントの営業利益構成比(対連結)の推移】

出所:丸紅 決算短信およびIR補足資料より著者作成

ガビロンは丸紅にとって過去最大の買収でした。丸紅はせっかく取得したガビロンをなぜ放出したのでしょうか。経緯を振り返りましょう。

米穀物大手を2700億円で買収 取扱量は世界トップクラスに

丸紅がガビロンの取得を発表したのは2012年のことです。丸紅には穀物のグローバルプレイヤーとしての地位を確立する狙いがありました。

丸紅の穀物ビジネスは、当初は日本への単純輸入にとどまっていました。2003年以降は方針を転換し、北米や南米で調達した穀物をアジアなどへ輸出する三国間取引へ発展させます。調達地と需要地の双方で提携や出資を積極化させた結果、丸紅の穀物取扱量は2011年度で2200万トンに達しました(2004年度は約500万トン)。

ガビロンの買収は調達サイドの強化が狙いでした。当時のガビロンは米3位の穀物集荷能力を持っていました。丸紅は2013年にガビロンを26億ドル(2700億円)で取得します。

ガビロンの買収で丸紅の穀物取扱量は5500万トンに到達しました。これは世界トップクラスの穀物メジャーに匹敵する水準でした。食料セグメントは大きく増進し、同社の最大の収益源となります。

【食料セグメントの業績(2012年度~2014年度)】

出所:丸紅 決算短信より著者作成市況悪化で苦戦 一部売却で資金は回収

丸紅はガビロン買収で穀物のグローバルリーダーになるはずでした。しかし悪いことに市況の悪化に巻き込まれます。

穀物の国際価格は米国の乾燥を背景に2012年まで値上がり傾向にありました。しかしその後は値を下げ始め、ガビロン取得後もその傾向が続きます。特に2014年以降は順調な生育が在庫を増加させ、穀物全般に強い下落圧力が働きました。

【米国小麦先物の価格推移(月足終値、2013年1月~2015年3月)】

出所:Investing.comより著者作成

市況悪化を受けガビロンは苦戦します。業績が想定を下回ったため丸紅は減損を強いられました。損失の額は2014年度で481億円、2019年度では783億円に上ります。2019年度は他の資産でも減損を認識したことから最終赤字に転落しました。

その後は市況が回復しガビロンは持ち直しますが、丸紅はこれを売却の機会と捉えます。丸紅は2022年1月、ガビロンの肥料事業を丸紅グループに移管し、穀物事業を残したガビロンをグループ外へ譲渡すると発表しました。肥料事業の継続は既存のアグリ事業とシナジーが期待できること、穀物事業の売却は収益性が相対的に低いとの判断からでした(出所:Gavilonの再編及び株式譲渡に関するお知らせ2021年度決算説明会 主な質疑応答(要旨)

ガビロンの売却は同年10月に完了します。丸紅はガビロン向け融資を含め30億ドル(4300億円)の資金を回収し、550億円の売却益を得ました。穀物メジャーへの挑戦は頓挫しますが、投資としては成功ともいえそうです(出所:Gavilon株式譲渡の完了に関するお知らせ

ガビロン離脱の影響は?丸紅のビジネスを確認

ガビロンの売却もあり、丸紅の純利益は2022年度に過去最高を更新しました。ただし翌期は収益の逸失や資源価格の下落などから減益を予想しています。

【丸紅の業績】

  売上高 純利益  2021年度 8兆5086億円 4243億円  2022年度  9兆1905億円  5430億円  2023年度(予想)  非開示 4500億円

※2023年度(予想)は同第2四半期時点における同社の予想

出所:丸紅 決算短信

ガビロン売却の影響を探るため、丸紅の事業を俯瞰(ふかん)してみましょう。

丸紅の多様なビジネスはおおむね4つの事業グループに分かれます。すなわち生活産業、素材産業、エナジー・インフラソリューション、社会産業・金融です。

【事業グループ別の純利益(2022年度)】

出所:丸紅 決算短信より著者作成

ガビロンの離脱で影響を強く受けるのが生活産業グループです。同グループは食料第二セグメントが最大の利益を稼いでいますが、ガビロン離脱で当面はアグリ事業セグメントが主力になると考えられます。

【生活産業グループのセグメント純利益(2022年度)】

  主な製品、サービス 純利益  ライフスタイル  衣料品、フットウェア 45億円  情報・物流  通信サービス、携帯電話販売代理店  95億円  食料第一(国内)   食品、食品原料  116億円  食料第二(海外)  畜産物、穀物 769億円  アグリ事業  肥料、施肥・農薬散布 427億円

出所:丸紅 決算短信

利益が最も大きいのは素材産業グループです。2022年度は2000億円以上の純利益を稼ぎました。そのほとんどは金属セグメントが担っています。

【素材産業グループのセグメント純利益(2022年度)】

  主な製品 純利益  フォレストプロダクツ   紙製品、木材 -94億円  化学品  石油製品、合成樹脂 143億円  金属  鉄鉱石、銅、アルミニウム   1994億円

出所:丸紅 決算短信

ガビロンの売却により、素材産業グループの重要度は増したといえるでしょう。特に金属資源の市況には比較的強い影響を受けそうです。

文/若山卓也(わかやまFPサービス) 

若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。

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