ジャスティン・ビーバーが投資した約1.5億円の「サルの絵」がまさかの大暴落…一体なぜ?
Finasee / 2024年1月11日 17時0分
![ジャスティン・ビーバーが投資した約1.5億円の「サルの絵」がまさかの大暴落…一体なぜ?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/finasee/finasee_13044_0-small.jpg)
Finasee(フィナシー)
2年ほど前、ブロックチェーン上で取引されるNFTアートが話題になりました。
NFTアートとは、コンピューターを用いて制作されたイラスト、絵画、音楽、などのことで、いずれもデジタル空間に存在しています。つまりデジタルアートの一種と考えてもらって良いでしょう。
NFTアートの特徴は「希少性」、130万ドルで購入された作品もかつてのデジタルアートは、簡単に複製や改ざんができることから、希少性に根差した価値の上昇が期待できませんでした。
しかしNFTアートは、複製や改ざんができないブロックチェーンの技術を用いてつくられるため、複製や改ざんが不可能であり、唯一性を証明でき、作成者や所有者を記録できます。
もちろん「Aさんが所有しているNFTアートを、Bさんに譲渡する」ということも可能です。そして、その取引にかかる決済は、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産が用いられます。
なおNFTとは「Non-Fungible Token」の略称で、日本では「非代替性トークン」などと翻訳されます。非代替性、つまり「代替が効かないもの」という意味です。
この希少性という点に反応した人々が大勢いました。2021年の大手オークションハウスのクリスティーズで競売にかけられたデジタル画像には、当時の円レートで約75億円もの高値が付けられたのです。
また、米国の人気歌手、ジャスティン・ビーバーが2022年1月に購入した「サルの絵」には当時、130万ドルの値が付いていました。当時のドル/円は1ドル=113円前後だったので、邦貨換算すると1億4690万円になります。
サルの絵は「マイナス95%」の大暴落…NFTアートの現在こうしたNFTアートは今、どうなっているのでしょうか。プレジデントオンラインに衝撃的な記事が掲載されていました。それによると、ジャスティン・ビーバーが購入した「サルの絵」は、マイナス95%もの大幅な下落になっているというのです。130万ドルが5万8000ドルまで下げた計算です。
その他にも、サッカー選手のネイマールJrや、歌手のマドンナが購入したNFTアートも、それぞれ85%以上のマイナスになっているということです。
もっとひどいものになると、世界初のツイッター(X)の投稿に対して付いた価格と、その後の暴落があります。
世界で初めてのツイッター投稿は、当時、ツイッター社の最高経営責任者(CEO)だったジャック・ドーシー氏のもので、「just setting up my twttr」と書かれた一文に、230万ポンド(約3億円)もの高値が付いたそうですが、現在の評価額は1200ポンド(約21万円)です。約3億円が約21万円ですから、これはもう無価値になったのも同然でしょう。
なぜこのようなことになったのかというと、これは「米国の金融引き締め政策」が背景にあったからと考えられます。
最大の要因は「米国の金融緩和」の影響か米国が政策金利であるFFレートの引き上げを始めたのが、2022年3月からのことです。それまでは、FFレートの下限と上限を0.00~0.25%にしていましたが、2022年3月に0.25~0.50%に引き上げ、2023年7月には5.25~5.50%にしました。この金融引き締めとほぼ軌を一にして、NFTアートの価格暴落が生じています。
これはいつの時代も同じですが、大幅に金融が緩和されると、バブル的な状況が生じます。1989年にかけての日本の不動産バブルがそうでしたし、2007~2008年にかけての米国における不動産価格の高騰も同じです。
なぜ不動産価格が高騰したのかというと、金融緩和によって金余りの状態になるからです。
金融緩和とは、世の中全体に流通しているお金の総量を増やすことです。そのうえ、世の中にあるお金は、常に運用先を求めて動いています。株式市場や債券市場、短期金融市場、などの金融市場で運用し切れなくなったお金は、不動産市場のような非金融の資産クラスへと流れていきます。
そして、それでもまだお金が余っていると、骨董品や時計、美術品などに流れていき、これらの価格が高騰します。NFTアートは、まさにその典型例と言っても良いでしょう。
さらに言うと、時計も金融緩和の影響を受けてバブル的な値動きをしました。ここ数年、「ロレックスのスポーツウォッチを見つけたら、とにかく買った方がいい。どれだけ高くても、それ以上の値段で売れるから」と、よく言われたものです。
高級時計の二次価格動向を示す指標に、Watch Charts Overall Market Indexがあります。これは、上位10の高級時計ブランドから60点の時計を分類し、作成されているインデックスです。
その値動きを見ると、2021年1月には2万6975ドル程度だった価格が、2022年3月には4万6967ドル程度にまで上昇しました。まさに米国が金融緩和をしている最中、余ったお金が時計市場に流れ込み、価格が高騰したのです。
しかし、そこから米国の金融引き締めが本格化するなかで、同インデックスは急落していきました。2023年12月時点のそれは、2万9598ドルまで値下がりしています。
NFTアートの価格高騰については、希少性が評価されたからなどとも言われていましたが、最大の要因は、米国の大幅な金融緩和によって、行き場を失った大量のお金が投機的に、NFTアートに流れ込んだからと見るのが妥当でしょう。
“投機的”な値動きになりやすい対象物の特性NFTアートが投機的な値動きになった原因は、米国の金融緩和以外にもう1つあります。それは、対象物そのものの特性です。
たとえば株式は、企業活動によって生み出される経済的な付加価値を、配当金として得ることができます。債券もしかりです。しかし、NFTアートは、それそのものから新しい経済的な付加価値が生み出されることはありません。単なるイラストや絵画、音楽に過ぎません。
さらに言えば、時計も同じです。金やプラチナなどの貴金属、原油、暗号資産、外国為替もそうで、いずれもそれそのものから配当金や分配金、利息が発生されることはありません。デジタル、リアルの違いはありますが、いずれも「モノ」なのです。石ころから利息が生まれないのと同様、モノは何の経済的付加価値も生み出しません。
この手の資産は、往々にして投機的な値動きになりがちなのです。株価や債券価格は、価格の妥当性を合理的に説明できますが、こうしたモノの値段を、少なくとも投資の観点から合理的に説明することはできません。
価格の妥当性を合理的に説明できないと、今の価格が割高なのか、それとも割安なのかということも分からなくなります。結果、買うから上がる、上がるから買う、という投機的な動きになってしまうのです。
NFTアートや時計のバブルが崩壊して価格が急落しても、経済活動には何ら支障をきたさないでしょう。とはいえ、この手のバブルが崩壊し、再び高値を抜くところまで回復するには、ものすごく長い時間が必要となります。個人の資産形成に、この手の投機は全く持って不向きであるという点は、理解しておいた方が良いでしょう。
参考
・外為どっとコム「米国政策金利の推移」
・プレジデントオンライン「3億円超だった『世界初のつぶやき』は21万円に大暴落…『NFTバブル』を煽りまくったエセ富裕層の末路」
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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