「お金を持ち出したのでは?」事実婚の夫の死後、因縁をつけられた女性…苦境を救った正義の味方の活躍
Finasee / 2024年1月12日 11時0分
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Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
高柳亜衣さん(仮名)がワーキングウーマンとして尊敬する伯母さんは、今年75歳になります。実は伯母さんが70歳を過ぎた頃、あるトラブルに巻き込まれていました。事実婚の相手の男性を亡くした時、その息子さんからひどい仕打ちを受けたのです。それだけでなく、なんと男性のお金を持ち出したのではないかと因縁までつけられます。
ショックのあまり寝込んでしまった伯母さんに代わり、高柳さんが立ち上がり、弁護士の岩田さんに相談することにしました。
●前編:【「事実婚」の選択が裏目に…70代女性が“人生最後の恋”を終えて迎えた辛すぎる結末】
事実婚であるがゆえの苦労75歳の伯母はずっと独身を通してきましたが、10年ほど前に配偶者を亡くしたばかりのひと回り年上の男性と出会い、交際するようになりました。
男性は現役時代商社で部長まで務めたそうで、経済力があり知的で活動的、性格は温和で“ナイスミドル”ならぬ“ナイスシニア”という感じの方です。高卒で食品メーカーに入社し、シングルのまま定年まで勤め上げた伯母にとっては、穏やかな余生を共に歩む理想のパートナーに見えました。
しかし、男性がアルツハイマー型認知症になり亡くなると、状況は一変します。男性の息子さんへの配慮や相続でのトラブルを避けるために入籍しなかったことが裏目に出て、死に目に会えないどころか葬儀にも呼んでもらえず、挙げ句の果てには弁護士を通して「男性のお金を持ち出していたのではないか」「男性からもらったプレゼントの高級ジュエリーを全部返せ」と圧力をかけられたのです。
弁護士・岩田さんのエネルギッシュな活躍伯母の憔悴し切った姿を見て怒りにかられた私は、弁護士の岩田さんに泣きつきました。
岩田さんは忙しい中わざわざ時間を割いて、私の言葉に耳を傾けてくれました。
一気に話し終えた後、「それは大変な目に遭いましたね。伯母様の体調は大丈夫ですか?」と気遣われ、不覚にも涙がこぼれました。
「恐らく伯母様は税法のことをよくご存じなかったのでしょうが、確かに、生命保険の満期金から500万円受け取っていた件は突っ込まれても仕方ない。しかし、お話を聞いている限り、理不尽な要求をされる筋合いはありません。私がどれくらいお役に立てるか分かりませんが、できる限りのことはさせてもらいます」
その言葉通り、岩田さんはエネルギッシュに動いてくれました。その週のうちに私と伯母の家を訪れると、伯母から男性との生活や伯母の経済状況をヒアリングし、必要な書類を一時的に預かって、その日のうちに全てに目を通してくれたようです。
幸い、几帳面な伯母は入出金を預金通帳にしっかり記帳していただけでなく、詳細な紙の家計簿もつけていました。これが、伯母が独立した家計を営んでいた証明になりました。もちろん、伯母が男性から定期的にお金を融通してもらっていたような事実はありませんでした。
それどころか、男性が高齢者施設に入居してからは、男性のための下着や衣料品、常備薬、食品などを自腹で購入して渡していたのです。
男性からの誕生日プレゼントに関しても、男性の手書きのメッセージカードが全て保存してあったので、プレゼントが男性の意思で伯母に贈られたものであることが裏付けられました。
生命保険金については、男性から伯母の口座に振り込まれたことが確認できたため、贈与税の修正申告を行いました。未入籍だったため親族以外への贈与の扱いになり、延滞税も含めてかなりの支払い額になりましたが、伯母はそれでも「納めるべき税金はちゃんと納めないと」と前向きでした。
いざ、男性の息子と直接対決へそれからおよそ1カ月後に行われた岩田さんと男性の息子さんの弁護士との面談には、私も立ち会いました。
理不尽な言いがかりに対し、岩田さんが1つひとつ証拠の書類を示しながら反論していく姿は、勧善懲悪の法廷ドラマを見ているようで痛快でした。相手の弁護士は息子さんの一方的な思い込みを聞かされているだけなので、何一つ言い返すことができません。
結果的に、伯母が男性のために購入した日用品や食品などの代金、施設に通った際の交通費に、長年の貢献への謝礼を加味した300万円の支払いを息子さんに求めることで合意しました。
その足で伯母のマンションに向かい、面談の結果を報告すると、伯母はほっとした表情を浮かべました。
「一生独り身だと覚悟していたので、藤原さん(男性)と過ごした10年間は人生の終盤に神様がくれたご褒美のようだった。こんなお別れになってしまったのは悲しいけれど、身の潔白を証明できたし、藤原さんからいただいた大切なプレゼントもお返しせずに済んで本当に良かった」
伯母はそして、岩田さんに何度も何度も「ありがとう」と繰り返しました。私も久しぶりに伯母の笑顔を見て、幸せな気持ちになりました。
事実婚だからこそ遺言が重要伯母のマンションからの帰途、岩田さんからこんな話を聞かされました。相続法には「特別寄与」という概念があり、亡くなった人の生前、その財産の維持や増加に貢献した親族は、貢献度に応じた財産の支払いを相続人に請求する権利があるのだそうです。
しかし、事実婚だった伯母は親族と見なしてもらえません。
「藤原様が伯母様にある程度のお金を残したいのなら、“遺言”を残しておくべきでした。しかし、認知症になってしまって、それが叶わなかったのでしょうね」
岩田さんは伯母のように事実婚を選択する熟年カップルが増えていると指摘し、「そうした実情に合わせ、内縁関係のパートナーが亡くなった時には一定の財産が受け取れるような法律に変えていく必要があります。現場の自分たちも声を上げていかないといけないんです」と熱く語ってくれました。
後日岩田さんから請求された相談費用は、伯母が「これじゃあ、ボランティアじゃないの」とあきれるほどリーズナブルでした。
弁護士さんとは日常的にあまり接する機会がなかったのですが、伯母の件を通して身近にこんな“正義の味方”がいることを改めて認識した次第です。岩田さんには子供たちも含めて親族一同、末永くお世話になっていけたらと思っています。
※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。
森田 聡子/金融ライター/編集者
日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。
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