好調デンソーに冷や水 売りを呼んだトヨタの持ち合い解消とは
Finasee / 2024年1月16日 17時0分
Finasee(フィナシー)
デンソー株式にとって2023年は回復の年となりました。大きく売られた前年から立ち直り、9月には上場来高値を更新します。年末にかけトヨタグループの売り出しによる思惑から下落しますが、年間騰落率は30%に達しました。
【デンソーの業績】
売上高 純利益 2022年3月期 5兆5515億円 2639億円 2023年3月期 6兆4013億円 3146億円 2024年3月期(予想) 7兆0000億円 4700億円※2024年3月期(予想)は同第2四半期時点における同社の予想
出所:デンソー 決算短信
【デンソーの株価(月足、2018年12月~2023年12月)】
出所:Investing.comより著者作成デンソーは市場評価性の高さから「JPXプライム150指数」に採用されています。また同指数の輸送用機器では最大の時価総額を持つ企業です。
今回はデンソーに焦点を当ててみましょう。同社の概要とトヨタグループとの株式持ち合い解消に向けた動き、また「空飛ぶクルマ」への取り組みについて紹介します。
自動車部品の国内最大手 QRコードも開発デンソーは自動車部品メーカーの大手です。自動車には数万個の部品が用いられ、その市場規模は自動車そのものを上回っています。デンソーはその中でも主要なプレイヤーに位置しています。
【輸送用機器の市場規模(製造品出荷額、2020年)】
・自動車部品:30兆6694億円
・自動車:21兆9528億円
・自動車車体:7955億円
・輸送用機器
・その他:6兆7603億円
出所:日本自動車部品工業会 日本の自動車部品産業(2023年)
またデンソーは子会社にQRコードを開発したデンソーウェーブを持っており、スキャナやFA(※)機器といった自動車以外の製品も生産しています。
※FA(ファクトリー・オートメーション):工場で製造の自動化を助ける製品。ロボットやコントローラなど。
【製品別の売上高(2022年度)】
主な製品 売上高 モビリティエレクトロニクス エンジンコントロールユニット 1兆6156億円 サーマルシステム 空調ユニット、コンプレッサ 1兆5850億円 パワトレインシステム 噴射機器、エンジン機器 1兆4893億円 エレクトリフィケーションシステム インバータ、コンバータ 1兆0421億円 先進デバイス CASE(※)領域製品、センサ 3617億円 その他自動車 ― 1305億円 非車載事業 スキャナ、FA関連製品 1771億円※CASE(ケース):Connected(通信)、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の略。
出所:デンソー 決算説明会資料、有価証券報告書
デンソーのシェアは世界的に見てもトップクラスです。ドイツのボッシュに次いで2番目に大きな売り上げを持ちます。製品を直接見る機会はあまりありませんが、社会にとってなくてはならない企業といえるでしょう。
【自動車部品メーカー売上高上位5社(2022年度)】
・ボッシュ(独):553億ドル
・デンソー:474億ドル
・ZF(独):412億ドル
・現代モービス(韓):365億ドル
・マグナ(加):362億ドル
※自動車事業の売上高
出所:マークラインズ 2022年度サプライヤー自動車事業売上高ランキング
トヨタとの持ち合い見直し 株価への影響は?デンソーはトヨタ自動車(当時はトヨタ自工)から分離して誕生した企業です。現在もトヨタ自動車はデンソーの筆頭株主で、トヨタグループは売上高の半分を占める主要顧客でもあります。
【顧客別の売り上げ(2022年度)】
出所:デンソー 決算説明会資料より著者作成こういった経緯から、デンソーもまたトヨタ自動車などトヨタグループの株式を大きく保有しています。トヨタグループとデンソーが相互に株式を持ち合う関係は長く続いてきました。
しかし2023年11月、この持ち合いに変化が生じます。トヨタグループ3社(トヨタ自動車、豊田自動織機、アイシン)によるデンソー株式の売却が報道され、デンソーも売り出しを認めました。
市場では需給の悪化が懸念されデンソー株式は軟化します。デンソーは最大2000億円の自社株買いを発表したものの、総じて売りが優勢となりました(出所:デンソー 株式の売出し及び主要株主の異動に関するお知らせ、自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ)。
【デンソーの株価(日足終値、2023年11月~12月)】
出所:Investing.comより著者作成さらにデンソー側も保有するトヨタグループ株式の売却を進める方針を示しました。ただしトヨタ自動車は含めず、当面はアイシンや豊田自動織機などを対象に売却を進めていくとしています。売却の候補となる保有株式の時価は2023年9月で5200億円に上ります(出所:デンソー 政策保有株式の縮減方針に関するお知らせ)。
この方針の通りなら、売られる側だったデンソーは売り手に回り、売却で大きな資金を手にすることになります。持ち合いに向けていた資金が解放されるため資本効率の向上に期待できるでしょう。具体的なスケジュールが発表されれば株価にはプラスに働くかもしれません。
実現近づく「空飛ぶクルマ」 商用化に大きく前進デンソーは電動航空機、いわゆる「空飛ぶクルマ」への実績が話題を集めています。同社の製品を搭載した電動航空機が、米国と欧州で商用化に向けた重要なプロセスの推進に成功しているのです。
デンソーは2019年から米ハネウェル社と電動航空機向け推進システムの共同開発を開始しました。共同製品は2022年5月に初めて電動航空機に採用されます。
採用したのはeVTOL(電動垂直離着陸機)を手掛けるドイツのリリウム社です。リリウムは2023年6月にアメリカ連邦航空局からG-1認証を取得し、同年11月には欧州航空安全庁から設計機関承認(Design Organization Approval)を取得しました。リリウムによると、同社は欧州と米国で認証基盤を持つ唯一のeVTOLメーカーとなっています(出所:リリウム EASA設計機関承認の取得リリース(英文))。
【デンソーの「空飛ぶクルマ」部品に関する主な経緯】
・2019年6月:ハネウェルと共同開発を開始
・2021年5月:ハネウェルとの提携を強化し共同事業を開始
・2022年5月:電動モーターがリリウムに採用
・2023年6月:リリウムがアメリカ連邦航空局からG-1認証を取得
・2023年11月:リリウムが欧州航空安全庁から設計機関承認を取得
出所:デンソーおよびリリウムのリリース
デンソーはさらに電動エンジンの大規模生産を支援する契約を締結しました(出所:リリウム デンソーとの提携リリース(英文))。リリウムは型式証明の取得に向けテストを進めています。
「空飛ぶクルマ」は次世代の移動手段として期待されています。商用化に成功すればデンソーの次の成長エンジンになるかもしれません。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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