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「手数料ゼロ化」「顧客の世代交代」が打撃か。2024年に証券業界が迫られる“一大変化”

Finasee / 2024年1月15日 17時0分

「手数料ゼロ化」「顧客の世代交代」が打撃か。2024年に証券業界が迫られる“一大変化”

Finasee(フィナシー)

野村総合研究所金融デジタルビジネスリサーチ部が、金融ITフォーカス2024年1月号で「2024年のリテール証券業界の展望」というレポートを出しました。

これは、証券ビジネスに関わっている人たちはもちろん必読ですが、同時に証券会社を通じて資産形成・資産運用をしている人たちにとっても、一読の価値があると思います。自分の資産を預けている証券会社が今後、大きく業態を変えていくかもしれないのですから。

株式市場を取り巻くポジティブな要因

同レポートでも指摘していますが、株式市場を取り巻く環境はポジティブです。

この1月から新NISAがスタートしましたし、昨年、PBR1倍割れ企業に対して、東証が資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を求めたことによって、株価が割安水準にあった企業が増配、自社株買いなどの株主還元策を積極化させたことにより、株価は年初から30%近く上昇しました。

さらに、1990年代から長期にわたって続いてきたデフレ経済が、ようやく終わりを告げたと見られていることも、株式市場にとってはポジティブな材料です。

デフレ経済下では、何も運用せず、現金を握りしめておくだけでお金の価値が増えましたが、これからインフレが緩やかながらも定着することになれば、現金を持っているだけでは資産価値が目減りしてしまいます。

政府・日銀は消費者物価指数で2%の上昇率を目標値にしていますが、仮に年2%ずつ物価が持続的に上昇したら、10年で20%程度、お金の価値が目減りすることになります。たとえば今、1万円のものが、10年後には1万2000円になるのです。

では、このようにお金の価値が目減りするリスクを軽減させるためには、どうすれば良いのでしょうか?

その解決方法の1つが「株式投資」です。企業の売上は名目値なので、インフレが進むと、出荷数量が変わらなくても、価格転嫁がしっかり行えるのであれば、インフレ分だけ売上や利益が増えます。株価はこれを評価するため、物価が上昇すると株価も値上がりする可能性が高まります。そのため、株式を保有することによって、インフレリスクをヘッジできると考えられているのです。

デフレ経済からインフレ経済に転換したなかで、現預金だけで資産を保有すると、資産価値は毀損(きそん)します。こうした認識が広まれば、今は現金・預金に偏っている個人金融資産の一部が、株式市場にシフトする可能性が十分にあります。

こうした点を考えると、確かに証券会社を取り巻くビジネス環境は、好転していると考えられます。

証券業界に打撃を与えた「手数料」問題

しかし、一方で証券業界には大きな問題があります。昨年8月、SBI証券が実施した株式委託手数料のほぼ全面的な無料化によって、証券会社の経営が一段と苦しくなる恐れがあることです。同レポートでも、「2024年を見通す上では、『ゼロ化』の影響をどう捉えるかがポイントになるだろう」と指摘しています。

株式委託手数料は1998年の大幅な金融自由化によって、完全に自由化されました。同時にインターネット環境が広まったことでインターネット証券会社が台頭し、株式委託手数料の引き下げ競争が激化しました。

その手数料がいよいよゼロになるのと同時に、投資信託の購入時手数料、信託報酬率も大幅に低下しています。こうなると、対個人での株式の売買仲介や、投資信託の販売業務では、証券会社に収益が落ちなくなります。

廃業or業態転換を迫られる地場証券会社

こうした動きが証券会社の経営に与える影響は、非常に大きいものになるでしょう。特に地場証券会社と言われる、地元に根を張って営業している証券会社にとっては、死活問題になります。

今は高齢になった昔からのひいき客によって、多少なりとも収益を得られていても、その子供たちの世代は、もはや地元の地場証券会社を通じて株式や投資信託を買うことはないでしょう。大半はインターネット証券のはずです。

つまり地方の地場証券会社にとっては、廃業するか、それとも別の業態に転換させるかの二択になります。

廃業以外の選択肢は、同レポートで指摘されているように、証券会社から金融商品仲介業者への業態転換です。すでに一部の中小証券会社が、金融商品仲介業者への業態転換を図っています。地方の地場証券会社を中心にして、今後、この手の動きが広まってくる可能性はあります。

富裕層特化をねらう大手証券会社

大手証券会社もうかうかしてはいられません。すでに一部の大手証券会社には、リテール取引を富裕層に限定する動きが見られます。恐らく、この傾向は一段と強まっていくでしょう。大手証券会社が持っている顧客層からすると、リテール取引を今後も続けるのだとしたら、富裕層を相手にするしかありません。富裕層を相手に、ラップ口座を契約させ、ファイナンシャルアドバイザーという名の営業担当者をつけて、アドバイスフィーを稼ぐというビジネスモデルです。

このように、証券業界のリテールビジネスを俯瞰(ふかん)すると、大手証券会社は富裕層に特化していくでしょうし、地方の地場証券会社は、金融商品仲介業者に業態転換を図るという流れが見えてきます。

顧客の世代交代で変わるリテールビジネスの構図

とはいえ、大手証券会社にしても地場証券会社にしても、問題は現在、対面での取引を行っている高齢者層が亡くなり、その子供たちに相続が生じた時です。

特に地方の地場証券会社の場合、地元に子供はおらず、都内など大都市圏で生活基盤を持っている可能性がありますから、そうなると口座が解約されて、資金流出につながる恐れがあります。

今後、世代交代が生じた時、一番大変なのは、地方の地場証券会社でしょう。地方の地場証券会社は、たとえ金融商品仲介業者に業態転換したとしても、存続が非常に厳しくなると思われます。

もう1つ、厳しい経営環境にさらされるのがインターネット証券会社です。恐らくリテール取引で生き残れるインターネット証券会社は、2社程度になるのではないでしょうか。圧倒的な個人の取引口座を持ち、かつ金融商品仲介業者にプラットホーム機能を提供しているようなところは、まだ生き残れる可能性があります。

しかし、リテール取引のシェアで劣勢にあるインターネット証券会社は、マネックス証券がNTTドコモに譲渡されたように、独自資本での生き残りが極めて難しくなりそうです。

このように証券業界を取り巻く状況を俯瞰すると、個人が直接証券取引で関わる証券会社の業態は、大きく変わらざるを得ないでしょう。

従来、大手証券会社と言えば全国の主要駅前に大きな支店を構えていたものですが、それを維持すること自体が難しくなるでしょうし、小口のリテール顧客はますます相手にしてもらえなくなるでしょう。

金融商品仲介業者も、収益構造から考えると、小口客ばかりを集めていたのでは商売になりません。地方であれば、地元の名士など富裕層を主要ターゲットにするのは目に見えています。

小口のリテール客は、現時点で「勝ち組」と見られているインターネット証券会社に集約され、富裕層は大手証券会社と金融商品仲介業者の間で顧客獲得競争が激化する、そんなリテールビジネスの構図が見て取れます。2024年は新NISA元年であるのと同時に、証券ビジネスに一大変化が生じる、そんな年になりそうです。

参考ページ
・野村総合研究所「金融ITフォーカス2024年1月号 2024年のリテール証券業界の展望」

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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