「わが子のために」と起こした行動が裏目に…相続争いの火種になった70代男性の遺言書
Finasee / 2024年1月25日 11時0分
Finasee(フィナシー)
デジタル化が進む昨今、手書きでものを書くことが減ってきた。それにより遺言書もパソコンやスマホで作成して印刷できないかと考える方が増えてきている。今回は自筆証書遺言を手書きで作成しなかった松井さんの末路を紹介しよう。
松井さんが遺言書作成を決めた理由今回の依頼主は当時70代であった松井さんだ。彼には2人の子がいる。ともに40代にある信人さんと裕美さんだ。信人さんと裕美さんの兄妹仲は非常に良好な関係にある。
だが「仲がいいだけに、将来起こるであろう相続の場で2人の仲が悪くなることはどうしても避けたいのです」と松井さんは語り、当事務所に来所された。
松井さんからは主には遺言書の作成について相談された。「信人と裕子の関係が良好であり続けられるように、遺言書を作成したい」と語った後に「とはいえ、信人には世話になっているので多めに財産を渡してあげたい」と続けた。
私は松井さんの状況であれば法律上定められた遺産分割の割合である法定相続分(各子どもが2分の1ずつの割合で相続)に準じながら、微調整をする内容にした方が無難であることなどを伝えた。
最終的には信人さん6、裕美さん4の割合での相続となる内容での素案が完成した。今回作成する遺言書は自筆証書遺言である。そのため、先の素案を基に松井さん自身が遺言書を“手書き”していくことになる。
「手書きは面倒ですが、手軽ならばそちらでお願いします! 費用もかからないのであればなおさらです」と、松井さんが自筆証書遺言を即断されたからだ。このように手軽さと価格面を重視して自筆証書遺言を選ぶ方は多い。
本来であれば一度完成した遺言書を当事務所にお持ちいただき確認をするところではあったが、当時はコロナ禍真っ最中。未曽有の事態に社会は大混乱。当事務所も松井さんも例外ではなかった。松井さんの希望から遺言書を手書きし、押印する行為は自宅で行っていただき、後日完成したものを見せていただく運びとなった。
自筆証書遺言で守るべき2つのことここで自筆証書遺言について重要な事実を2点伝えておこう。
①自筆証書遺言は必ず手書きするまず1点目として、自筆証書遺言は必ず日付や氏名、本文を手書きしなければならない。これらは形式的要件とされており、手書きせず印刷などで作成された自筆証書遺言は無効となってしまう。
②手書き以外で作成できるのは“財産目録”のみ2点目に、実は自筆証書遺言は例外的に一部分だけ手書きでなくてもよい部分がある。それは財産目録だ。財産目録とはいわば相続財産の一覧のこと。「何の財産が何円あり……」といった内訳を記載していくものである。
ここはかねてから間違いなどが多い部分だ。それが相続争いの原因となることも珍しくなかった。それゆえ、この部分のみ手書きではなくパソコンなど手書き以外での作成方法が認められるようになった。
***今回松井さんにおいて問題となったのはこの2点だ。財産目録という自筆証書遺言の一部が手書きでない方法での作成も認められたことで、文書全体も手書きでなくともよいと勘違いする人が出てきたのだ。
松井さんもその1人だ。財産目録は手書きでなくともよいという部分を「遺言書全体について」だと勘違いしてしまい、OAソフトで作成してしまったのだ。
近年ではOAソフトを使いこなせる高齢者も多い。松井さんも定年前はバリバリの管理職でよくOAソフトを使いこなしていたという。ただ、「わが子のために」と決意した遺言書作成で、このOAソフトを使いこなせるという強みが裏目に出てしまう。
●後に兄妹間の壮絶な相続争いに発展してしまった原因とは? 後編【「親の意向を無視するのか?」40代兄妹の泥沼相続…“無効の遺言書”が辿る残念な結末】で詳説します。
※登場人物の名前はすべて仮名です
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています
柘植 輝/行政書士・FP
行政書士とFPをメインに企業の経営改善など幅広く活動を行う。得意分野は相続や契約といった民亊法務関連。20歳で行政書士に合格し、若干30代の若さながら10年以上のキャリアがあり、若い感性と十分な経験からくるアドバイスは多方面から支持を集めている。
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