「親の意向を無視するのか?」40代兄妹の泥沼相続…“無効の遺言書”が辿る残念な結末
Finasee / 2024年1月25日 11時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
70代の松井さんには40代になる2人の子どもがいた。兄妹の良好な関係を相続の場で壊さないためにも、手書きで作成する遺言書である「自筆証書遺言」を作成することになった。しかし、松井さんの“ある勘違い”が後に兄妹間の相続争いの火種となってしまう。
●前編:【「わが子のために」と起こした行動が裏目に…相続争いの禍根となった70代男性の遺言書】
すべてをパソコンで作成してしまった松井さん繰り返しになるが自筆証書遺言は全体を手書きで作成しなければならない。本文をOAソフトで作成して印刷したものは自筆証書遺言としては無効となる。
しかし、松井さんは自筆証書遺言のすべてをOAソフトで作成してしまったのだ。間の悪いことに当事務所がそれを指摘した後、新たな遺言書を作成される前に松井さんは亡くなられてしまった。
「パソコンで作っていいのは財産目録だけだったのを忘れていました。早めに書き直します!」
確認した際にそう元気よく返事をした松井さんだったが、そこから数週間後に亡くなられてしまった。諸々の事故が重なり、突然の死だった。
そうなると荒れに荒れるのが相続だ。遺言書通りなら6:4の分け方になるため信人さんの方が取り分は多くなる。一方で裕美さんは少なくなる。財産の総額はおよそ3000万円。遺言書通りで相続するなら信人さん1800万円、裕美さん1200万円で相続することになる。
しかし、法定相続分に従えば5:5の割合となるため1500万円ずつになる。この300万円の違いは非常に大きい。
「親の意思を尊重して遺言書の内容通り遺産分割するべきだ」
そう主張するのは兄の信人さん。
「有効な遺言書がない以上平等に分けるべきだ」
そう主張する妹の裕美さん。両者の言い分は平行線だ。
両者一歩も引かず荒れる話し合いそこからの話し合いは荒れに荒れた。
「親の意向を分かってて無視するのか?」
「遺言書の有効性なんて些細な問題だろ!」
と声を荒らげる信人さん。対する裕美さんも一歩も引かない。
「お兄ちゃんはお金に困ってないじゃない!」
「完成してない遺言書なんてないのと一緒じゃん!」
両者とも声を荒らげて意見を押し付け合う。声を抑えて冷静に話し合えている場面もあるがすぐにヒートアップする。もともと私は松井さんにお世話になっていた。2人とは行政書士の資格を取得する前から地域のつながりで親交がある。長年付き合いがあるが、ここまで鬼の形相になる2人は見たことがなく本当に驚いた。
彼らに仲裁役として頼まれて間に入り、プライベートで何度か話し合いに同席したが全くの平行線で話の進まない日々が続いていた。
かつて関係良好だった2人は今や……最終的に信人さんと裕美さんは平等に5:5で遺産を分け合うことでまとまった。裕美さんの家庭が抱える金銭的な事情を加味してとのことだった。
結局、松井さんの作成された自筆証書遺言は無効なもので意味をなさなかった。むしろ争いの火種となっただけの結果になってしまった。
自筆証書遺言は手書きで作らなければならない。例外的に財産の一覧を記載する財産目録のみ、手書きでないことを許されているに過ぎない。
すべてを自署して作成して最後に押印までしてようやく完成である。手書きでない部分があったり、押印もされていなかったりするものは無効な遺言書となってしまう。
遺言書を作成する場合、多くの場合は自筆証書遺言となるだろう。自筆証書遺言は簡単に作成できる。だが、手書きでないという1点のみをもって簡単に無効となり、遺言書として成立しない。
あれ以来、信人さんと裕美さんは疎遠となってしまった。数年たった今でも疎遠のままだという。おそらく関係の修復にはかなりの時間がかかる。
このように、遺言書が存在してもそれが無効とあれば今回の松井さん一家のようにトラブルが起きて悲しい結果に終わることになりかねない。自筆証書遺言を作るのであれば、手書きでなくとも許されるのは財産目録のみ。このことをしっかりと頭に入れておこう。遺言書はときに遺族の関係性を大きく変えてしまうこともあるのだから。
※登場人物の名前はすべて仮名です
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています
柘植 輝/行政書士・FP
行政書士とFPをメインに企業の経営改善など幅広く活動を行う。得意分野は相続や契約といった民亊法務関連。20歳で行政書士に合格し、若干30代の若さながら10年以上のキャリアがあり、若い感性と十分な経験からくるアドバイスは多方面から支持を集めている。
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