「大丈夫に決まっている」楽観的に保護猫2匹を引き取った30代女性の大誤算
Finasee / 2024年1月19日 11時0分
![「大丈夫に決まっている」楽観的に保護猫2匹を引き取った30代女性の大誤算](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/finasee/finasee_13078_0-small.jpg)
Finasee(フィナシー)
安永ありささん(仮名)はアラサーのホームヘルパー。体の不自由なお年寄りや障害のある人のお宅に伺い、介護のサポートをしています。同じ事業所のヘルパー仲間は誰も知りませんが、実は安永さんは少し前までウェブやパンフレットなどを制作するデザイナーでした。チーフに抜てきされたほどの実力者でしたが、あることをきっかけに失業し、ついには自己破産するまでに追いつめられてしまったのです。
転落の原因はなんと猫でした。子供の頃から猫好きだった安永さんは、譲渡会に出された姉妹猫と“運命の出会い”をしました。しかし、姉妹猫は猫白血病のキャリアでやがて発症し……。そして安永さんは最愛の猫だけでなく、お金や仕事まで失うことになるのです。人ごととは思えない安永さんの経験を、安永さん自身に話してもらいました。
〈安永ありささんプロフィール〉
東京都在住
33歳
女性
ホームヘルパー
シングルで1人暮らし
金融資産8万円
私がくるみとみかんに出会ったのは、5年前、何気なく立ち寄った猫の譲渡会でのことでした。ちょうど冬のボーナスが出た直後の週末で、近くのショッピングセンターに狙っていたコートや靴を買いに行った帰り、ショッピングセンターの前の広い公園でボランティア団体が引き取り手のない猫の譲渡会を開催しているのを見かけたのです。
譲渡会で“運命の出会い”母方の祖父母が猫好きで、祖父母の家には常に何匹かの猫がいました。気まぐれではありますが、機嫌がいいとゴロゴロと喉を鳴らして甘えたり、体をこすりつけたりしてくる猫たちがかわいくて仕方なく、祖父母の家を訪れた際は多くの時間を猫と過ごしていました。
祖父母が亡くなって10年近くなります。譲渡会の案内板を見て懐かしい猫たちを思い出し、ちょっとのぞいてみようかくらいの軽い気持ちで会場に足を運びました。しかし、そこで“運命の出会い”が待ち受けていたのです。
茶トラ猫のくるみとみかんは同じ日に生まれた姉妹で、当時、生後半年を迎えたばかりでした。既に成猫に近い印象でしたが、ふわふわの毛並みと、何より、どんぐりのような大きな瞳が本当に愛らしく、私は2匹の入ったケージにくぎ付けになりました。
そんな私の姿を見て、同年代くらいのボランティアの女性が話しかけてきました。
「かわいい猫ちゃんでしょう? 両方とも女の子なんですよ。右側のちょっと大きめの方がくるみ、左側の愛嬌(あいきょう)のあるのがみかんです」
しばらく2匹のプロフィールや性格、普段の様子の話などで盛り上がった後、私が「こんなかわいい猫を手放すなんて信じられない。この子たち、どういう経緯で引き取られたんですか?」と尋ねると、ボランティアの女性の表情がさっと曇りました。それを見て、何か訳ありなのかなと思いました。
ボランティアの女性が打ち明けた事実「子供の頃に祖父母の家で飼っていた猫が大好きだったんです。この子たちを見て、また猫と暮らしたくなりました。飼ってもいいと思ってます。この子たちに何かあるなら、教えてもらえませんか?」
その言葉を聞いてボランティアの女性がつらそうに打ち明けてくれたのは、2匹がともに猫白血病ウイルスのキャリアだということでした。
「この子たちのお母さんもキャリアで、出産後に発症してしまったんです。体力が落ちていたんでしょうね。飼い主さんはお母さん猫の看病で手一杯で、とてもこの子たちのことまで面倒を見られないと、うちで引き取ることになったんです」
キャリア猫を引き取った理由普通なら、キャリアの猫なんてと引いてしまうのかもしれません。しかし、私は逆に、キャリアの猫だからこそ自分が何とかしなければと思いました。
私が2匹を引き取る意思を示すと、後日、ボランティア団体をサポートする獣医師から猫白血病ウイルスに関する説明がありました。猫全体の3~5%程度がウイルスのキャリアですが、猫白血病を発症するのはそのうちの20~30%に過ぎず、長生きしている猫が少なくないということでした。
「なぁんだ」と思いました。キャリアの猫でも4匹に1匹しか発症しないのであれば、くるみとみかんは大丈夫に決まっている。私自身もともとお気楽なタイプではありますが、今思えばそんな“根拠なき楽観”に突き動かされて2匹を引き取ることにしたのです。
幸い私のアパートはペット可で、猫なら2匹まで飼うことができました。すぐにショッピングセンターの中のペットショップに出掛けて、ベッドやトイレにトイレ砂、餌、猫のおもちゃなど大量の猫グッズを買い込みました。
くるみとみかんとの生活は、アラサー、シングル、彼氏なし歴5年の私の日常を大きく変えました。疲れて家に帰っても、かわいい猫たちが待っていてくれる。そう思うと、ハードな仕事もやる気が出ます。
猫はスピリチュアルな動物と言われることもありますが、くるみやみかんといると不思議とイマジネーションが湧いてきて、自分でも「これ、いいじゃん!」と思うデザインを次々と発表することができ、勤務先で大きなプロジェクトを任されるようになりました。
くるみとみかんがやって来て1年後には、晴れてチームリーダーに抜てきされました。しかし、幸せは長くは続きませんでした。2匹がやって来て1年半後、満2歳の誕生日を祝った直後に、みかんが白血病を発症したのです。
●なりふり構わず看病を続けた安永さんを待ち受けていた“地獄”とは? 後編【猫の治療で貯金が底をつき「借金300万円」…“何もかも”失ったアラサー女性の後悔】で詳説します。
※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。
森田 聡子/金融ライター/編集者
日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。
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