「持ち家or賃貸」は損得だけで語れない…今後は“持ち家に価値を感じない人”が増えると言えるワケ
Finasee / 2024年1月22日 17時0分
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皆さんは持ち家派でしょうか、それとも賃貸派でしょうか。
これは、多くの人にとって身近な神学論争というか、水掛け論のようなもので、最終的には個々人のライフスタイルや、家というものに対する考え方次第なので、どちらが正しいかを結論付けることはできませんし、今後もこの問い掛けは、事あるごとに繰り返されていくのでしょう。
賃料上昇傾向が顕著な“あるタイプ”の居室三井住友トラスト基礎研究所が発表した「賃貸マンション市場レポート」によると、賃貸マンションの賃料が上昇傾向にあるということです。
同レポートでは、三井住友トラスト基礎研究所がアットホーム株式会社と共同で開発・提供している「マンション賃料インデックス」をベースにして、賃貸マンションの動向を分析しています。
それによると、2023年第3四半期の賃料指数は、東京23区で前年同期比+3.54%、2019年同期比で+4.67%となりました。2020年から2023年5月までのコロナ禍における行動制限の中で、特に東京23区の賃料インデックスは調整しましたが、その調整分を回復したうえに、さらに上昇する見込みです。
他の大都市圏では、大阪市の2023年第3四半期が前年同月比+2.62%で、2019年同期比が+9.09%と、大きく伸びています。
このように賃貸マンションの賃料が上昇傾向をたどる中、もう1つの特徴として同レポートが指摘しているのは、従来の賃貸マンション市場ではウエイトが比較的小さかった、ファミリータイプ(住戸面積60~100㎡)やコンパクトタイプ(住戸面積30~60㎡)といった、住戸面積の大きな居室の賃料上昇が顕著に見られるということです。
賃貸マンションへのニーズが高まっている理由本来、賃貸マンションといえばワンルームマンションを中心にして、単身世帯が住むものというイメージがあります。
とはいえ、ファミリータイプやコンパクトタイプの賃料上昇が顕著ということは、単純に需給関係で考えると、ファミリータイプやコンパクトタイプの賃貸マンションに対するニーズが高まっている根拠になります。
同レポートでは、なぜファミリータイプやコンパクトタイプの賃貸マンションに対するニーズが高まっているのかを、いくつかのデータを用いて検証しています。
賃貸マンションの市場を支えているのは単身世帯まず、賃貸マンション居住世帯数について、家族類型を「単身世帯」、「夫婦のみ世帯」、「ファミリー世帯(20歳以下の子とその親)」、「その他の世帯」に分けたうえで、その変化を見ています。
それによると、この5年間における家族類型の賃貸マンション居住世帯数の変化率は、横浜市の+19.9%、大阪市の+19.6%を筆頭にして、仙台を除く札幌市、東京23区、名古屋市、大阪市、福岡市のいずれもが、この5年間で+10%超という高い伸び率を見せています。
そして、4つある家族類型の中で最も高い伸び率を見せたのが、単身世帯でした。つまり、賃貸マンションの1番のお得意さまは単身世帯だということです。
これは国勢調査の結果ともリンクしています。国勢調査における単独世帯の世帯数を見ると、2015年は1841万7922世帯でしたが、2020年では2115万1042世帯まで増えています。増加率は+14.84%です。
全国的に単身世帯が+14.84%の伸びを見せているのですから、その多くが住まいとして選ぶ賃貸マンションの居住世帯数が、それに準じる伸びを見せるのは、当然といえば当然のことでしょう。単身世帯、夫婦のみ世帯、ファミリー世帯の3世帯で寄与度を見ると、単身世帯の寄与度が最も高かったのは、横浜市と大阪市でした。この点からも、賃貸マンションの市場を支えているのは、単身世帯であることが分かります。
若い単身世帯の人口が大都市へ移動している同レポートでは、賃貸マンションの居住世帯数が増えた理由を、都市部への人口流入や家族構成の変化による「世帯数要因」と、さまざまな居住形態の中から賃貸マンションを選好する「選好率要因」という2つの要因に分けて、寄与度が算出されています。
同レポートでは実数ではなくグラフで表示されているだけなので、正確な数字までは分かりませんが、グラフを見たところ、単独世帯はどの大都市圏でも、世帯数要因が多くを占めています。総じて年齢層が若い単身世帯を中心に、就学や就職によって地方から大都市に人口が移動したことが、賃貸マンション居住世帯数を押し上げたと見られています。
また夫婦のみ世帯とファミリー世帯は、単身世帯とは逆に「選好率要因」が多くを占めています。都市別の数字で例外的とも言えるのが、ファミリー世帯の仙台市で、世帯数要因はプラスだけれども、選好率要因はマイナスです。
注釈によると、仙台市の場合、東日本大震災以降の経済低迷による影響で、他都市とは異なる傾向を示すとされています。全般的に大都市圏に住むファミリー層が、転勤によってやむなく賃貸マンションを選ぶのではなく、さまざまな居住形態の中から、あえて賃貸マンションを選んでいる層が増えているのは事実のようです。
では、なぜ大都市圏において、単身世帯だけでなく夫婦のみ世帯、ファミリー世帯でも賃貸マンションを選好する傾向があるのでしょうか。
同レポートによると「大都市における分譲マンションの価格等の上昇ペースは所得のそれを上回り、従来ならば分譲マンションに住み替えていた30~40代の夫婦のみ世帯やファミリー世帯が、利便性を優先した結果、大都市の賃貸マンション居住を選択したものと解釈できる」と分析しています。
確かに、東京23区内の新築マンション価格は、すでに普通の会社員の収入では手が出せないほどに値上がりしています。とはいえ、都心に住んで会社に通える利便性を考慮すれば、賃貸マンションという選択肢もあり、というところなのかもしれません。
過去30年で家族形態が大きく変化もう1つ、賃貸マンション需要が高まると思われる理由があります。家族形態の変化です。
国勢調査の世帯類型の構成割合を見ると、1990年の構成比は以下のようになります。
単独世帯・・・・・・23.1%
夫婦のみの世帯・・・・・・15.5%
夫婦と子供からなる世帯・・・・・・37.3%
ひとり親と子供からなる世帯・・・・・・6.8%
その他の世帯・・・・・・17.4%
直近の国勢調査は2020年の数字ですが、果たしてどのような変化が見られるでしょうか。
単独世帯・・・・・・38.1%
夫婦のみの世帯・・・・・・20.1%
夫婦と子供からなる世帯・・・・・・25.1%
ひとり親と子供からなる世帯・・・・・・9.0%
その他の世帯・・・・・・7.7%
この30年間で単独世帯が大幅に増える一方、核家族の象徴的な形態である「夫婦と子供からなる世帯」が大幅減となり、かつ大家族を含める「その他の世帯」も、大幅に減っています。
今後は持ち家に価値を見いだせない人が増える単独世帯は身軽さを求めるでしょうし、子供を持たない世帯にとっても、分譲マンションや戸建てはいささか重荷になります。そもそも家という資産を相続する相手がいなければ、わざわざ住宅ローンの重荷を背負う必要はないと考える人が増えても、何もおかしくありません。
そうなると、「持ち家と賃貸のどちらがおトクか?」という議論の前に、世帯類型の変化によって、持ち家に価値を見いだせない人が増えていく可能性は高いと思われます。
若年層の単独世帯はワンルームマンション、もう少し年齢層の高い単独世帯はコンパクトタイプ、夫婦で子供がいない世帯はファミリータイプで、それぞれに賃貸を選択する傾向が今後、強まるのではないでしょうか。
参考
・三井住友トラスト基礎研究所「賃貸マンション市場レポート ファミリー世帯等の賃貸マンション需要の動向」
・総務省統計局「令和2年国勢調査」
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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