父逝去後「本当に役に立った」と実感…「財産目録」が相続手続きを一気にスムーズにする理由
Finasee / 2024年2月1日 11時0分
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「老後の暮らし」にとって基盤となるのは公的年金
もし私たちの寿命が一様に100歳なのであれば、50代は人生の折り返し地点です。だとすれば、今まさにこれからの人生を考えるタイミングとも言えるのではないでしょうか?
これからのことをイメージするのは非常に難しいのですが、モデルとするべき対象は自分の親あるいは身近な高齢者だと思います。まずはどういう生活をしているのか、よく見てみるところから始めましょう。
厚生労働省が2021年に発表した「国民生活基礎調査」によると、公的年金だけで暮らす高齢者は24.9%、8割以上は年金でまかなっているという高齢者は33.3%、6割から8割という高齢者は15.9%でした。結果7割強の高齢者は生活費の6割以上を公的年金でまかなっているということが分かります。
同年の総務省の「家計調査」によると、高齢者夫婦の生活費は税金等の支払いを含めると25万円ほどになりますから、仮にこの生活費の8割を年金でまかなっているとしたら、月々5万円不足するので、貯蓄の取り崩しなどを行っていることが想像できます。
年間60万円の貯蓄の取り崩しをするのであれば、60歳から100歳までの40年間で2400万円の貯蓄は必須といえます。
統計からは以上のような想像が可能ですが、実際に回りの高齢者の方を見ると、まずは公的年金の中でやりくりするように務めていらっしゃる方が多いのではと思います。筆者もお客様とお話をしていると、長年の習慣からか毎月入ってくるお金でやりくりをする、逆に資産の取り崩しは精神的な不安がつきまとうので、まとまったお金は「万が一」の時に取っておくとおっしゃる方が多いようです。
ということは、私たちは高齢期に向け、まずは毎月の生活に心配がないようなキャッシュフローを構築する必要があります。公的年金がベースですが、それだけで足りなければ、ある一定の年齢から定額あるいは定率で自動的に資産を取り崩し生活費とできるサービスも今は増えていますから、そういう準備も必要でしょう。
これまで預金や、保険あるいは投資などで資産形成をして来たかたも、そろそろそれらを一覧にまとめ、今後の人生でいついくら分配していくのか考えましょう。
財産目録があれば、逝去後の手続きが一気にスムーズに人生の最期を迎えるまで健やかであれば良いのですが、なかなかそうもいかないようです。筆者は実の父を見送りましたが、がんの再発を繰り返し、苦しい治療に耐え、長時間にわたる手術に耐え、つらい思いをしている様子が今でも目に浮かびます。それでもまだ小さかった孫が遊びにくれば膝に乗せ、子どもの話に耳を傾けニコニコと幸せそうに笑っていた様子も忘れられません。人生には、苦しみもあるけれど、喜びもあるのだ、だからこそ最期まであきらめずに努力をするのだということを父は身をもって教えてくれたように思いました。
亡くなる直前にはホスピスに移りましたが、その移動の際、少しだけ自宅に戻れました。筆者は車で送迎をしつつ付き添っていましたが、その時に父が準備した財産目録や友人の連絡先一覧などを渡されました。母を遺していく父の思いやりを託されたわけです。
その後は父の言いつけで、母と一緒に葬儀屋さんへ見学に行き、「祭壇はこんな感じがいいかなって思うんだけど」といった会話もしました。その後はあまり時間がありませんでしたが、長い闘病生活だったことで、父との時間を改めてとることもでき、気持ちの上では思い残すことなく見送れたのではないかと思っています。
父はがんでしたが、医療費はそれほどかからず、緩和病棟での個室代も知れていました。それまで手術を何度もしましたが、後期高齢者なのでありがいことに医療費で父の家計が逼迫(ひっぱく)することもありませんでした。
父が亡くなった後は、渡された財産目録等が本当に役に立ちました。悲しみの中、葬儀を執り行い、相続の手続きを行うのは想像以上に骨が折れるものです。父の相続人は母と弟しかおりませんので、シンプルな家系といえますがそれでもさまざまな書類を準備したりするのは大変でした。しかし父が分かりやすいようにノートにまとめておいてくれたので、よく聞く「通帳や印鑑を家捜しした」ということは全くありませんでした。
父が亡くなって半年ほど経ち、父の子どもの頃からの友人たちを招いてのお別れ会を田舎で行いました。もちろん連絡先は父の遺したノートにすべてきちんと書いてありました。まめな父は年賀状や季節のあいさつなどずっと継続していたのです。
集まった友人たちもみんなおじいちゃんでしたが、“悪ガキ”だったころの思い出を生き生きと話してくれ、会は大変盛り上がりました。母からすると、若かった時代を共有した友人たちとの会話は懐かしい記憶だったでしょうし、筆者は初めて知る父のエピソードに時に驚き、笑い、そして涙ぐむような素敵な時間でした。
最近はエンディングノートといって、自分の人生を振り返り遺していく家族に想いを伝え、財産についても整理することの大切さが少しずつ普及してきました。父の行動は先駆けであったと思いますが、いずれくる死に向かってどういう行動をとるべきかという点で、父から学んだことは大きかったと思います。
任意後見、家族信託、遺言…認知症への備えが資産寿命を延ばす父は幸い認知症にはなりませんでしたが、母についてはそろそろ認知症の備えが必要ではないかと考えています。離れて暮らしているので、できるだけ連絡は取り合うようにし、様子を確認しています。介護認定は要支援ですが、それでも地元の地域包括支援センターにつながっていることは安心につながります。父から受け継いだ財産目録は、あらためて筆者が書き出し、母にも分かりやすいように作り替えました。
母の収入は遺族年金と老齢年金が中心です。高齢者施設に入居しているので、月々の支払いは年金でまかないます。お小遣いとして、月に使える予算を母に伝えており、毎月その金額を預金から引き出して使っているようです。それでも贅沢をしたらいけないのではないかと心配になるようで、「手芸教室に行きたいのだけれど、材料費を払ったらお金が足りなくなるのではないか」と電話をかけてくることがあります。筆者はそのつど「大丈夫、毛糸を思いっきり買っても150歳まで生きられるよ」ということにしています。
母の預金は、近くに住む弟が代理人カードを申請して、日々のお金は母が出歩けなくなったとしても引き出しができるようにしています。認知能力の衰えが心配になったら早々に任意後見人の契約を結ぶ予定です。任意後見人を立てていれば、認知症になっても母のために財産をスムーズに使ってあげることができます。
実際周りが気がつかないうちに認知症になってしまっていては、本当に大変です。まず財産が凍結されてしまいます。保険に入っていても解約できませんし、預金からお金をおろすことすらできません。家を売却して施設に入ろうとしても、契約ごとは一切認められなくなります。
よく話題になる法定後見は、認知能力がすでになくなってしまった方に対して、その後の権利擁護をする仕組みですが、残念ながらこれでは十分なことができません。なぜならば認知能力がもうないのですから、その人の想いを何一つ伝えられないからです。後見をされている方は、一生懸命その方の利益のために動いてくれる訳ですが、それでも限界はあるはずなので、やはり元気なうちにお願いするべきことはお願いしておくべきです。任意後見人は家族もなれるので、早めに専門家に相談して正式な手続きをしておくと良いでしょう。
例えば財産として不動産があるなどという方は、それに加え家族信託を利用することも可能です。いずれにしても、認知症になる前に対策をとっておく必要があるので、まだ大丈夫と思わずに行動を起こしましょう。
また全ての方に遺言の作成も有効です。特に、お子さんがいない方、事実婚の方、身寄りのない方など、今すぐにでもこれからのことを考えておく必要があるでしょう。相続税の支払いが発生する方はもちろんですが、せっかく親御さんが作った財産を次の世代にスムーズに引き継ぐためにも遺言はもっとも有効な手段です。
50代にとって自分の老後を考えるのは、「まだ少し早い」と感じられる方も多いでしょう。だからこそ、まずは親とか身近な高齢者の暮らしを気にして見てあげてください。その上で、いろいろな課題が見えるはずです。そこで、介護の申請はどうなのか、施設とはどういうものがあるのか、お金の管理は、相続は……などと考えることが良いシミュレーションになるのではないかと思います。そしてそのような時間を持つことが、自分にゆかりのある高齢者からの最期の学びの場になるのではと思います。
資産寿命を延ばす方法は、なにも運用だけではありません。周りの方との関係性を良くする、そのためには自分からの働きかけも重要でしょう。これからの生き方、幸せに過ごしたいですね。
山中 伸枝/ファイナンシャルプランナー
FP相談ねっと代表。1993年米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後、メーカーに勤務。これからはひとりひとりが自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、お金のアドバイザーであるファイナンシャルプランナー(FP)として2002年に独立。年金と資産運用、特に確定拠出年金やNISAの講演、ライフプラン相談を多数手掛ける。『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社)ほか著書多数、金融庁サイト 有識者コラム連載。心とお財布を幸せにする専門家、ファイナンシャルプランナー(CFP®)、株式会社アセット・アドバンテージ代表取締役、一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。
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