「長期投資でリスク軽減」は本当? 新NISAで増える「自称」専門家の解説にご注意を!
Finasee / 2024年1月29日 17時0分
Finasee(フィナシー)
今年になって新NISAがスタートしたからか、SNSなどに「マネー講座」の広告がやたらと掲載されるようになってきました。主催者は日本証券業協会といった公的機関や、大手新聞社のカルチャーセンター、投資スクール、保険代理店などですが、中には明らかに顧客化が目的のところもありそうです。
「無料セミナー」を前面に打ち出しているところもありますが、これは決して親切心から無料にしているのではありません。多くの場合、会場に来てくれた人、あるいはオンラインで申し込んだ人の個人情報を取るのが狙いです。変なところに申し込むと、後々、勧誘がうるさくなりそうなので、慎重に選ぶようにしましょう。
「自称」専門家のセミナーより役に立つもの実際、SNSに掲載されている広告の中身を見ると、かなりいい加減な内容が目立ちます。
たとえば、「1000万円を年5%の想定利回りで運用した場合、単利だと10年で1500万円ですが、複利で投資すれば1629万円になります」、といったことを表記して、投資に対する興味をあおっているわけです。
しかし、前々からこのコラムでも書いているように、価格変動リスクのある投資信託の再投資運用で、預貯金の複利的な効果は期待できません。こうした基本中の基本も理解できていない人間が、資産運用の専門家を名乗ってセミナー講師をしたりしているので、本当に注意が必要です。
そのような、本当かうそか分からないようなセミナーに参加するくらいなら、全く資産運用や金融に関する知識のない人にとっては、読みこなすのが大変かもしれませんが、しっかりした専門家の書いたレポートを読む方が、数字の根拠がしっかりしているので、はるかに役立ちます。
もちろん、それでも書かれている内容をうのみにしないこと。いかなる専門家が書いたレポートも、1つの視点を提供してくれているだけに過ぎません。大事なことは、しっかりした裏付けに基づいて書かれた複数の考え方に目を通したうえで、自分に適した運用法を考えることです。
50代以降の新NISAの始め方今回、紹介するレポートは、ニッセイ基礎研究所の基礎研レポートです。タイトルは「新NISA、50代などからの資産形成はどうするのか」です。
制度の恒久化、非課税期間の無期限化、生涯非課税枠1800万円ということで魅力が大いに高まった新NISAですが、50代、60代の人たちからすると、「今更始めても手遅れじゃないか」という思いから、何もせずにいるというケースもあるのではないでしょうか。
そういう方はぜひ、このレポートに目を通していただきたいと思います。1000万円を一括投資し、運用期間を5年、10年、15年にした場合、どのくらいのリターンになったのかが、過去のデータを用いてシミュレーションされています。過去のものとはいえ、実際の数字を用いているので、投資戦略を考えるうえで、エビデンスに基づいた検証ができます。
前提条件としては1000万円の一括投資です。言うまでもなく、50代、60代になると運用できる期間が短くなるので、毎月1万円、2万円という少額資金の積み立てで資産を増やすというのは、いささか現実的ではありません。そのため1000万円の一括投資で、運用期間を5年、10年、15年に設定したと考えられます。
仮に70歳まで運用するとして、今の年齢が65歳なら、運用期間は5年間です。過去のマーケットに照らして、5年間の運用期間でどの程度のリターンが実現したのかを、資産クラス別に見ると、おのずとどういう投資対象をポートフォリオに組み入れれば良いのかが分かります。
ちなみに資産クラスは国内債券型、外国債券型、国内株式型、全世界株式型、先進国株式型、米国株式型のそれぞれについて、インデックスを用いて計算されています。
またシミュレーションに際しては、1989年10月末から5年間、1989年11月末から5年間、1989年12月末から5年間というように、1カ月ずつずらして5年間運用した場合のリターンの最大値、平均値、最小値、さらに元本割れした割合を算出しています。サンプル数は351ケースで、直近5年間は2018年12月末から2023年12月末までのものになります。
元本割れの確率が最も高いのは?過去5年間について見ると、元本割れの確率が最も高かったのが国内株式型の47%。最もリターンの悪い5年間で、1000万円の投資元本が472万円まで目減りしました。これは言うまでもなく、日本のバブルピークから、バブル崩壊の過程における5年間のリターンと考えられます。
恐らく、気になるのはリターンもさることながら、元本割れする確率でしょう。特に初めてNISAで運用する人にとっては、何よりも元本割れが怖いはずです。
運用期間別に見ていくと、5年間の元本割れ確率は高く、15年のそれは低いという傾向が明らかです。5年間の場合、元本割れ確率は国内債券型が7%、外国債券型が10%、国内株式型が47%、全世界株式型が25%、先進国株式型が23%、米国株式型が26%でしたが、運用期間を15年にすると、元本割れ確率は国内株式型が40%で、それ以外の資産クラスは0%になります。
国内株式型に関して言えば、バブル経済崩壊とその後の株価低迷期におけるリターンの低下が大きく影響しており、それが他の資産クラスに比べて元本割れ確率が高い理由と考えられます。
長期投資をしても避けられないリスクがあるただ、この結果を見て、運用期間を長くすればするほどリスクが軽減される、などとは考えない方が良いでしょう。
たとえば全世界株式型の元本割れ確率は、運用期間5年間で25%だったのが、15年間で0%になっています。だからといって、全世界株式型という資産クラスが持つリスクが下がったことにはなりません。
保有期間が5年間、15年間、あるいは50年間だとしても、全世界株式に投資した時のリスクは不変です。運用期間を長期にすると元本割れ確率が下がるのは、基本的にこれまでの株式市場が右肩上がりだったからというだけに過ぎません。
その証拠に、国内株式型の元本割れ確率は、運用期間が5年間で47%だったのが、15年間でも40%までしか下がっていません。日本株が上昇に転じたのは、アベノミクスがスタートした2013年からの10年間であり、それ以前はどん底の状態が続いていたからです。
ちなみに、リーマンショックの前後における資産クラス別の最大下落率を見ると、
・米国株式(2007年10月9日~2009年3月9日)=▲56.0%(▲63.0%)
・新興国株式(2007年10月29日~2008年10月27日)=▲66.0%(▲72.0%)
・日本株式(2007年2月26日~2009年3月12日)=▲61.0%
となっています。ちなみにカッコの中の数字は、円建ての下落率になりますが、たとえば20年くらい運用した先で、この手の大暴落に直面するリスクも当然のことながらあります。
もし、そのような状況に直面した時に、「長期投資はリスクが軽減される」などと言い続けられるでしょうか。そのあたりの想像力を少しだけ巡らせれば、「長期保有すれば投資のリスクは軽減されます」などとは言えないはずです。
話を冒頭に戻しますが、新NISA関連のセミナーで、「長期投資をすればリスクが軽減され、かつ複利効果で大きく資産を増やせる可能性が高まります」などと、臆面もなく説明する「自称」専門家がいたら、その人こそ投資の素人だと認識するべきでしょう。
参考
・ニッセイ基礎研究所「新NISA、50代などからの資産形成はどうするのか」
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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