「自分はバカ」と思い込まされてきた女性…毒母が作り上げた娘の「異常なまでの我慢体質」
Finasee / 2024年2月8日 11時0分
Finasee(フィナシー)
母親にコントロールされる娘
中国地方在住の山口紗理さん(50代・既婚)は、父親が29歳、母親が24歳のときに、母親の両親が経営していた工場に、父親が出稼ぎに来たことで出会った。母方の祖父は、従業員との交際に大反対。思い詰めた2人は約1年後に大阪へ駆け落ちし、やがて山口さんの兄を妊娠。臨月を迎える頃には母方の祖父と和解し、2人は母方の実家へ戻り、結婚した。
結婚後、父親は建設会社と化粧品の代理店を母親とともに始め、2年後に山口さんが誕生した。
山口さんにとって、母親との忘れられない記憶がいくつかある。
1つは、母親と2人で歩いていたときの記憶。近所の人に「お嬢さん?」と声をかけられると、母親は必ずこう言って笑った。
「はい、下の娘です。お兄ちゃんは頭がいいんですけどねー、この子はバカなんですよー!オーッホッホ!」
山口さんの兄は、幼い頃から冷静沈着で頭の回転が速かった。しかし特別山口さんが劣っていたわけではない。
2つ目は、山口さんが小児ぜんそくを発症し、苦しかった頃の記憶。夜中に咳(せき)をしてつらそうにしていると、父親は山口さんをとても心配してくれた。
「ちゃんと咳止めは飲ませたのか?」「寒いんじゃないのか?」と何度も母親に声をかけるため、母親は山口さんに言った。
「あんたが咳をすると、私がお父さんに怒られるんだよ!」
「“兄は頭が良くて妹はバカ”って、聞かれてもいないのに言う必要ありますか? おかげで私は小学1年生くらいの頃から自分はバカなんだと思い込まされていました。また、私が咳をすると母が父に怒られると言われ、幼い私は、『かわいそうなお母さん。私のせいでごめんね……』と思い、その日から枕で口を押さえ、父に聞こえないように咳をするようになりました」
当時の山口さんの実家は、自宅兼化粧品店だった。小学校に上がった山口さんは、母親がいる化粧品店側から帰宅するようになる。そのため山口さんは、母親とお客さんの会話をよく聞いていた。
ある日山口さんが帰宅すると、「私、子どもが嫌いなんですよねー」と母親が笑いながら話している。
お客さんは、「お子さんの前でそんなこと言わなくても……」と気を使ってくれたが、母親は平然と、「あー、大丈夫。この子には父親がいるから」と言って高らかに笑った。
「当時はショックでしたね。『お母さん、私のこと嫌いなんだ……。これ以上お母さんに嫌われないように、もっと良い子にならなきゃ!』と思った私は、母の機嫌をとる術ばかりを身につけていきました」
父親の死母親は山口さんが中学生になった頃から、父親に対する不満をぶつけてくるようになった。
「母は私に、『あなたが成人したら離婚するつもりでいる。今はあなたのために我慢している』などということを、毎日口癖のように吹き込んできました。そしていつしか、『私が母を守らなければ』と思うようになっていたのです」
やがて山口さんが高校生2年になった頃、父親に微熱が続く。長い間風邪薬を飲んでいたが、肺炎を起こしたため病院を受診すると、肺がんのステージⅡだった。父親はすぐに手術を受け、3カ月で退院。しかし1年後に再発してしまう。
再発後は入退院を繰り返しながら再手術や放射線治療を受けたが、最初の発覚から約4年で亡くなってしまった。
父親52歳、山口さん20歳の頃だった。
母親の変貌一方母親は、父親のがんが発覚した途端、一夜にして病気の夫に寄り添う献身的な妻へ変貌を遂げた。
母親は父親の看病のために父親の病室に泊まり込み、病院から仕事に通った。
兄は大学入学を機に一人暮らしをしていたが、高校生だった山口さんは母親の妹の家に預けられた。
やがて母親は親戚や近所の人から、「献身的な妻」と称賛され始めると、自分でもあちこちで看病の大変さを話して回る。
「母は、私の存在など忘れたかのように、仕事と看病だけしていました。まるで悲劇のヒロインです。完全にかわいそうな自分に酔っていました……」
しかし父親が亡くなると、母親の関心はたちまち山口さんに向けられた。
母親は短大を卒業した山口さんを、自分の口利きで金融系の会社に入社させ、今まで定められたことがない門限を20時と定める。1分でも遅れれば内鍵をかけられるため、会社の飲み会も途中で帰らなければならなかった。
夫の豹変山口さんは23歳になる頃、高校2年生の頃から交際していた1つ先輩と結婚。
同じ年に第1子を妊娠すると、喜んだのもつかの間、直後からひどいつわりが始まる。食べられない、水分もとれないで脱水症状を起こし、入院。3カ月で退院するも、つわりで動くことができず、1日中寝たきりの生活が続いた。
ところが、帰宅してもつらそうな様子の山口さんをいたわるでもなく、ただ退屈に感じていた夫は、次第に仕事から帰宅する時間が遅くなっていく。会社の後輩に誘われたのがきっかけでパチンコやビリヤードなどに行き始めると、そこからさまざまな遊びにのめり込んでいった。
●長男を出産後、夫は山口さんに対して「衝撃的な言葉」を投げかけます。詳細は後編【夜遊びばかりの上に義母ファーストな夫…我慢を続けた女性が離婚を決意した「決定的な理由」】で詳説します。
旦木 瑞穂/ジャーナリスト・グラフィックデザイナー
愛知県出身。アートディレクターなどを経て2015年に独立。グラフィックデザイン、イラスト制作のほか、終活・介護など、家庭問題に関する記事執筆を行う。主な執筆媒体は、プレジデントオンライン『誰も知らない、シングル介護・ダブルケアの世界』『家庭のタブー』、現代ビジネスオンライン『子どもは親の所有物じゃない』、東洋経済オンライン『子育てと介護 ダブルケアの現実』、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、日経ARIA「今から始める『親』のこと」など。著書に『毒母は連鎖する〜子どもを「所有物扱い」する母親たち〜』(光文社)がある。
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