彼女イナイ歴20年、婚活もダメだった40代の「こどおじ」を一念発起させた劇的な出会い
Finasee / 2024年2月7日 17時0分
Finasee(フィナシー)
長いあいだ独身を貫いていた芸能人が結婚したというニュースがテレビで流れている。そのニュースを見た瞬間にいやな予感がしてリビングから出ようとしたのだが、少し遅かった。
「辰巳はいつになったら結婚できるのかねえ」
「本人にその気がないようじゃ、いつまでたっても独身だろう」
当の息子が同じリビングにいるというのに、両親は遠慮なく愚痴を言い合う。
「うるさいなあ。俺だっていろいろあるんだよ」
この両親になにを言っても無駄だということは分かっている。しかし、両親が結婚についてうるさく言いたがる気持ちも分かる。
大原は県内の中堅大学を卒業し、そこからはずっと地元の食品メーカーで経理の仕事をしていて昔からあまり女性に縁がなかった。
はじめて彼女ができたのは大学を卒業した次の年だった。
しかし、3カ月もしないうちに振られてしまった。それ以降、ずっと彼女がいない。
人生トータルで付き合った女性の数はひとり、交際期間はたったの3カ月だ。
大学生のころは『働いてお金を稼げばモテるようになる』と考えていた。しかし、大原が働いている食品メーカーは薄給で、モテるどころかいまだに一人暮らしもできない。
親と同居を続ける「子ども部屋おじさん」になっていた。
『そのうち良い相手が見つかるだろう』とのんきに構えていたが、それが良くなかったようだ。
人生初の彼女と別れてからずっと新しい彼女ができておらず、大原はもう40歳になっていた。いわゆる婚活というものもやってみたが、なかなかうまくいかなかった。
結婚しない息子にたいする両親の愚痴を聞きたくなくて、大原は自分の部屋に戻った。
SNSでは“友人”だけど…自分の部屋のベッドに寝転がり、SNSを開く。高校時代の同級生である若宮智子の投稿が目に入った。
『東京から地元に帰ってきています! やっぱり地元の海は最高!』
文章と一緒に自撮りの写真も添えられていた。
地元の海岸をバックに、笑顔を浮かべている智子。今の大原にとって、その笑顔はあまりにもまぶしかった。
高校時代、智子はクラスのアイドルのような存在だった。
同じクラスの男子だけではなく、学校中の男子生徒が智子を狙っていたといっても過言ではない。もちろん、その男子生徒の中には大原も含まれていた。同じクラスということで何度か話したりしたことはあったが、それ以上の関係にはならなかった。
数年前にたまたまSNSで智子のアカウントを見つけ、コンタクト申請をしたところ承認してもらった。
そのとき、智子はすでに結婚していた。そもそも自分にチャンスがあるわけがないのに、智子が既婚だということを知り、なぜかがっかりしてしまったことを覚えている。
今回の帰省には、智子の夫も一緒について来ているのだろうか。
まあ、大原にとっては関係のない話だが。
大原はよどんだため息とともにスマホを置いた。
運命の再会仕事を終えた大原は「ナチュラルウインド」というバーに向かう。
雰囲気はなかなか良いし、なによりも同い年のマスターと話すのが面白く、週に一度は店へ足を運び、酒を飲みながらマスターや常連客との会話を楽しんでいる。
「いらっしゃい」
マスターが笑顔であいさつしてくれる。
まだ時間が早いせいか、店内にはほとんど客がおらず、ひとりの女性客がカウンターに座ってウイスキーを飲んでいるのが目についた。
大原は思わず息をのむ。
カウンターに座っている女性客は、智子だった。
なぜ、この店に智子がいるのだろう。大原はわけが分からなかった。
最初は別人かと思ったが、間違いなく智子だ。たしかにSNSで帰省していると投稿していたが、とっくに東京に帰っていると思っていた。
「あれ? もしかして大原くん?」
大原を見つけた智子は、人懐っこい笑顔でそう言った。白くて小さな可愛らしい歯が唇のあいだから見えた。
「そうだよ。若宮さんだよね? いつもSNSで見てるけど、会うのは高校以来だよね」
「やっぱり大原君だ! ねえ、隣に座りなよ」
大原の鼓動は一気に速くなった。
高校時代に憧れていた智子の隣に座れるなんて。緊張を悟られないように、ゆっくりと智子の隣に座った。
「けっこうお酒好きなの?」
「うん! お酒大好きだよ!」
酒の力もあって、大原と智子の話は大いに盛り上がった。
そして、智子が離婚したということを知った。夫の仕事が非常に忙しく、なかなか2人の時間が取れなかったのが原因だという。
「楽しい! こんなにたくさん話すの久しぶりだよ」
智子はそう言って甘えるような表情を浮かべた。
その姿を見た大原は、智子を自分のものにしたいと強く思った。
●その時の大原には智子の「正体」が見抜けていなかった。 後編【半年で消えた「なけなしの貯金」300万… 憧れの同級生の“ヤバすぎた”正体】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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