半年で消えた「なけなしの貯金」300万…憧れの同級生の“ヤバすぎた”正体
Finasee / 2024年2月7日 17時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
昔からあまり女性に縁がなかった大原(40歳)は、地元の大学から地元の食品メーカーへ就職したが薄給のため一人暮らしもできず、いわゆる「子ども部屋おじさん」になっていた。そんな折、高校時代の同級生でアイドル的な人気があり、大原の憧れの人でもあった智子と偶然バーで再会を果たした。
●前編:彼女イナイ歴20年、婚活もダメだった40代の「こどおじ」を一念発起させた劇的な出会い
智子の正体大原が智子と付き合うようになったのは「ナチュラルウインド」で高校以来の再会を果たしてから、1カ月後のことだった。
智子は毎週水曜日に必ず「ナチュラルウインド」に来ているということだったので、大原もそれに合わせて店に行くようになった。店に行くたび、大原は智子に酒をおごり、会話を楽しんだ。
そんなことを何回か繰り返しているうちに、大原は勇気を出して智子に告白することを決めた。
「あのさ、俺と付き合ってくれないかな」
大原のストレートな告白を智子は笑顔で受け入れてくれた。
そこからは夢のような日々が始まった。
大原と智子は、まるで青春時代に戻ったかのようなデートを楽しんだ。映画を見に行ったり、買い物をしたり、地元の海岸で一緒に夕日を見たりした。
そして、デートのたびに身体を重ねた。
智子はコミュニケーション能力にもたけており、会話をリードしてくれることも少なくなかった。
しかし、困ったことがあった。
智子はとにかく高いものを欲しがるのだった。食事をするなら高級レストランに行きたがるので、デートをするたびに数万円の出費になった。
「付き合ってから1カ月の記念日だよ」
と言って智子が大原にネクタイピンをプレゼントしてくれたことがあった。
智子からのプレゼントに感激した大原が「智子さんにも何かプレゼントするよ」と言った途端に目の色が変わった。
そして、20万円近くするアウターをねだられた。
さすがに高過ぎるだろうと思ったが、智子に嫌われたくなかった大原は貯金を切り崩してそのアウターをプレゼントした。智子と付き合ってから半年もたっていなかったが、大原は智子のために300万円以上使ってしまった。
薄給からコツコツとためていた貯金はどんどんなくなっていった。激減した預金残高を目にして、さすがに智子への愛も冷めてしまった。
そして、大原は智子に別れを切り出した。
告白を受け入れてくれたときと同じような優しい笑顔を浮かべながら「そっか、悲しいけど仕方ないよね」と智子は別れることに同意してくれた。
悲しいのは大原も同じだった。
まさか智子がここまで金遣いの荒い人間だとは思わなかったし、智子にねだられるままにお金を出してしまうほど自分は女性に飢えていたというのが恥ずかしかった。
なにか言われるのが嫌で、智子と付き合っていることを両親に伝えていないことだけが救いだった。
久しぶりにできた彼女に夢中になり、半年で300万円も使ってしまった挙げ句に別れたなんて親が知ったら、なにを言われるか分からない。
バースデーパーティー「ナチュラルウインド」のマスターだけには、智子と別れたことを伝えた。
「いやあ、大変でしたね」
「まさか、あんなに金遣いが荒い人だなんて思わなかったよ」
「でも、そんなに金遣いが荒いなんてちょっと信じられないなあ」
「どうして?」
「だって、前に店に来たとき『前の旦那から慰謝料たくさんもらってるからお金には困ってない』って言ってたんですよ」
その話は初耳だった。
トラウマ(心的外傷)をえぐるようなことはしないでおこうと、離婚についてはあまり詳しく聞かないようにしていた。
しかし、とにかく高いものを欲しがる智子の姿はとてもお金に余裕のある人間のものだとは思えなかった。
「そういえば、智子さんこんど『フェール・ア・ムーラン』で誕生日パーティーをするらしいですよ」
「え?そうなの?」
大原は耳を疑った。
「フェール・ア・ムーラン」はこの町でいちばんの高級店だった。
フランスで修行してきたというシェフの作る料理は非常に評判が高く、遠方から訪れる客もいるという。そんな店で誕生日パーティーを開くということは、やはりお金には困っていないのだろうか。
もちろん、大原が誕生日パーティーに呼ばれるはずもなく、大原はSNSを通じて智子が本当に「フェール・ア・ムーラン」で盛大なパーティーを開催したことを知った。
『私の誕生日をたくさんのお友達がお祝いしてくれました! みんな、これからもよろしくね!』
投稿に添えられた写真には、大勢の人に囲まれて幸せそうな笑顔を浮かべている智子の姿があった。
仕事をしていない智子がこんなに盛大なパーティーを開けるということは、やはりたくさくんの慰謝料をもらってお金に困っていないからだろう。
それでは、どうしてあんなにも自分に高級レストランや高いアウターをねだったのか。
いくら考えても答えは出なかった。
智子の真実ある日、母親の口から突然智子の名前が出た。朝食を済ませた大原が仕事に向かおうとしているときのことだった。
「あなたの同級生に若宮智子って女の人がいたでしょ。あの人、昨日から家に戻ってないんだって」
「へ? なんだって?」
「だから、あなたの同級生だった智子さんって人が失踪しちゃったんだって」
あまりにも突然のことだった。
いったいなにが起きているのか、大原にはさっぱり理解できなかった。智子になにが起きたのだろうか?
なにかトラブルに巻き込まれてしまった可能性もある。その日は気になって仕事が全く手につかなかった。
昼休みに智子のスマートフォンに電話をかけてみたがつながらなかった。
母親によると、智子の両親はすでに警察に相談しており、懸命に智子の行方を捜しているという。
大原のところにも地元の警察署から電話があり、大原はいろいろと話を聞かれた。もしかしたら自分が疑われているのかと構えたが、警察官の態度は実に紳士的なものだった。
しばらくすると、智子に関するよからぬうわさが流れ始めた。
前の夫と離婚した原因は智子の金遣いの荒さが原因で、智子が内緒で貯金を使い込んでしまったことに激怒した夫から離婚を切り出された。離婚の理由が理由なので、慰謝料は1円ももらっていないという。
離婚してからも智子の金遣いの荒さは変わらず、消費者金融にかなりの額を借り入れていたらしい。
そのうわさを聞いても、驚きはまったくなかった。いろいろなこととつじつまが合う。
「金遣いが荒い」というのは大原の見方とも一致するし、そのような状況なら高級レストランや高額なアウターをねだる気持ちも分かる。豪華な誕生日パーティーの費用についても、消費者金融に借りたというなら納得できる。
智子というのは、悪い意味で大原の想像を超える人間だったようだ。
智子が失踪してから1カ月ほどが経過した。
突然、大原のスマートフォンに知らない番号から電話がかかってきた。それは、智子からの電話だった。
「久しぶり。大原君だよね」
「智子、さん?」
「うん、智子です」
「いったい、どうしたの?」
「ちょっと、いろいろあって」
智子の声は今にも消え入りそうだった。
消費者金融の借金を抱え、どうしようもなくなり、姿を消したのだろう。智子の声からは、疲れと絶望がにじみ出ていた。
「本当にごめんなんだけど、助けてほしいんだ」
「助けて、欲しいの?」
「うん。助けてくれたら、なんでもするから」
その言葉を聞いた瞬間、大原は無言で電話を切った。
このまま智子の話を聞いていたら、きっと自分は手を差し出してしまう。そして、智子と一緒に地獄に沈んでいくだろう。
自分はそういう人間だということを大原はよく分かっていた。
電話を切った大原は、ベッドにごろりと横になった。
圧倒的な孤独を感じていた。
しかし、孤独を感じると同時に自らが自由だという感覚があった。
『孤独を恐れることはない』
大原は境地に達していた。
もしかしたらまた出会いがあるかもしれないし、出会いがなければ孤独を楽しめばいいだけだ。孤独の裏には自由がある。大原は孤独だったが、同時に圧倒的に自由でもあった。
窓の外から、強い風の吹く音が聞こえた。
自分の人生にも追い風が吹いてくれたらいいなと大原は思った。
追い風を受け、自由な人生を突き進んでいこう。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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