新NISAを始めた女性が“月1万円”の積立投資に託した「社会への望み」
Finasee / 2024年2月9日 11時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
元カレの諒太は投資系YouTuberでした。以前はチャラい遊び人風だったのに、コロナ禍で投資にのめり込んでから別人のようになりました。
生活費を切り詰め、終業後や週末にバイトをしてまで毎月10万円を投資していたのです。それ自体は悪いことではないのかもしれませんが、嫌だったのは、自分と同じように投資することを私にも強制したことです。
諒太との交際期間は7年になり結婚も視野に入れていました。けれど、すっかり変わってしまった諒太とは会うたびにけんかが絶えなくなり、私の方から別れを告げました。
それ以来、私はすっかり投資嫌いになりました。諒太に無理強いされて積み立て購入していた投資信託は全て解約し、昨年の秋ごろから盛り上がる新NISA(少額投資非課税制度)のニュースやイベントなどからも極力距離を置いてきました。
●前編:【結婚目前で対立…「何が楽しいの?」女性が呆れた交際相手の「過剰な自己投資」】
FP久保田さんとの出会いそんな時、会社の同僚の理名からファイナンシャルプランナー(FP)の久保田さんのオフ会に誘われたのです。
証券会社の営業職出身の久保田さんは、20~30代のビジネスウーマンを対象に「女子力&投資力アップ」を目指すオンライン勉強会を開催していました。広報部の理名は確定拠出年金(DC)をテーマにした社内報の取材で久保田さんと知り合い、1年ほど前からオンライン勉強会に出席していたようです。
オフ会は久保田さんの証券会社時代の後輩だった女性がオープンしたばかりのビーガン(動物性や動物由来の食品を排除した完全菜食)レストランでした。
参加者は20名ほど。私や理名を含めて本格的なビーガンメニューは初めてという人が多かったのですが、本物の肉としか思えない大豆ミートのミートローフや、雑穀と野菜のパエリアなど出てくる料理一つひとつが本当においしくて、皆で盛り上がりました。
その日、久保田さんは企業の成長ストーリーという観点から株式の発行、株価対策、株主対策などの話をしてくれました。EV(電気自動車)や半導体など今まさに世界を動かしているテーマとそれに関連する国内外の企業の話はなかなか興味深く、投資の話を避けてきた私にも理解しやすいものでした。
個人面談をお願いすることに久保田さんへの心の垣根が一気に下がったのは、久保田さんが「株を買って企業を応援するのは大切なこと」としながらも、「株は短期的には上がったり下がったりするもの。背伸びをせず、万一損をしても『今回は仕方ないか』と思えるくらいの余裕資金で投資してくださいね」と釘を刺すのを忘れなかったからです。
聞けば、久保田さんが支店の営業担当だった時にリーマンショックが勃発し、担当していたお客さまのフォローに奔走した記憶が今でもくっきり頭に残っているのだとか。
「行く先々でお客さまの怒りを買い、ひたすら頭を下げ続ける毎日でした。中には生活資金に窮して夜逃げしたりするお客さまもいらして、私たちも本当に苦しかった」
会社の同僚だったご主人は心を病み、2年後に離婚。以降、久保田さんは当時就学前だったお嬢さんを女手一つで育ててきたそうです。そんな過去もあけすけに話してくれる久保田さんにはもう好感しかない感じで、それを機に久保田さんのオンライン勉強会に顔を出すようになりました。
そして年明け、久保田さんに初めて個別面談をお願いしました。諒太との別れで生じたトラウマを解消したい、そのためには信頼できる人に話を聞いてもらいたいと強く思ったからです。
「そうだったの。瀬戸さんは金融リテラシーが高いのに投資には消極的な様子だったから、どうしてだろうと思ってた」
面談の当日、私の長い打ち明け話を聞いた久保田さんは納得したようにうなずくと、こんな話をしてくれました。
背中を押した的確なアドバイス「瀬戸さんの元カレを否定するつもりはないけれど、私は、お金はやみくもにためるものではなく、使うためのものだと思っています。瀬戸さんくらいの年齢なら、資格を取りたい、大学院で学び直したいといった目標があるでしょう? プライベートで旅行をたくさんしたいとか、女子力を上げる投資をしたいという人もいるかもしれない。もう少し年上の家庭を持つ人なら、マイホームや子供の教育にお金がかかる。だからこそお金をためたいわけだけれど、今の日本は低金利で思うようにお金が増やせないから一部を投資に回して運用効率を高めていこうということよね」
久保田さんの指摘は砂漠を潤す水のように心にしみて、ああ、私はこういうアドバイスを求めていたんだと改めて思いました。
「新しいNISAは、生涯にわたって非課税で効率的に資産が運用できる、これまでになかった画期的な制度です。個々人の資金計画に合わせてうまく活用していくことが大事になります。値動きが怖いから投資したくないという人には勧めないけれど、瀬戸さんはそんな風に見えないし、自分のライフプランについてもしっかり考えようとしている。だから今日、ここにいるのよね」
***久保田さんの提案を受けて、私は新NISAスタートからひと月遅れで積み立てを始めることにしました。
購入するのはオルカンなど人気の全世界株式型でもS&P500でもなく、SDGs活動に熱心な企業に投資するファンドにしました。5年後、10年後はそういう企業がリードする社会になってほしいと思ったからです。
毎月の積立額は1万円ですが、今後は久保田さんの意見を聞きながら、気になる企業の株を適宜、成長投資枠で買っていきたいと考えています。
最近は時折、諒太のYouTubeを見ることもあります。相変わらずの投資オタぶりに苦笑しつつ、「諒太は諒太で頑張ってね」と割り切れる自分がいることに驚いています。久保田さん、そして私を久保田さんと出会わせてくれた理名には感謝しかありません!
※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。
森田 聡子/金融ライター/編集者
日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。
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