投資家が「eMAXIS Slim全世界株式」(オルカン)に“絶大な安心感”を抱く理由
Finasee / 2024年2月9日 17時0分
Finasee(フィナシー)
ニッセイ基礎研究所の「年金ストラテジー(Vol.332)」によると、2023年はETFを除く追加型株式投資信託に6兆7000億円の資金流入があったということです。レポートの結果から、「eMAXIS Slim全世界株式」(オルカン)の安心感の理由と、外国債券投信の資金流入額が倍増した背景を考えます。
外国株式型のインデックスファンドが人気同レポートに記載されているグラフを見ていただければ一目瞭然ですが、追加型株式投資信託を国内株式型、国内債券型、外国株式型、外国債券型、国内REIT型、外国REIT型、バランス型、その他という8つのタイプに分けて、資金の流出入を比較すると、圧倒的に資金流入額が大きかったのは、外国株式型でした。
これは2023年だけでなく、その前年である2022年も同様であり、ここ数年間で外国株式型が個人の間で人気化していることが分かります。
ただ、同じ外国株式型でも、運用スタイルによって明暗が分かれたようです。アクティブ型は4000億円の流入となりましたが、2022年は1兆5000億円の流入だったので、明らかにブレーキがかかっています。
対して、同じ外国株式型でもインデックス型は、3兆5000億円の資金流入があり、2022年の3兆2000億円を超えて過去最大になったということです。
この数字からも、株式型投資信託の売れ筋は、外国株式型のインデックスファンドであることが分かります。
「eMAXIS Slim全世界株式」(オルカン)の安心感のワケすでにさまざまなところで報じられていますが、三菱UFJアセットマネジメントが設定・運用する「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」が目下、個人の人気を集めていて、2月5日時点の純資産総額は2兆3632億円に達しました。
極めて低い信託報酬率と、このファンド1本で世界中の株式市場に分散投資できる手軽さが人気の秘訣ともいえるでしょう。
もちろんアクティブ型でも、世界中の株式市場に分散投資するタイプのファンドは運用されていますが、運用者の運用能力の優劣によって、運用成績に差が生じる傾向があります。
一方、インデックス型は、運用成績を株価インデックスという平均値に連動させる前提でポートフォリオを組んでいますから、たとえば「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」への連動を目標にしてポートフォリオを構築するインデックス型ファンドが複数あったとしても、その運用成績に、目くじらを立てるほどの差は生じないはずです。
「どれを選んでも、運用成績はほぼ同じ」という特性は、特にこれから投資信託で資産形成をしていこうと考えている人にとっては、絶大な安心感につながります。
今年に入って新NISAがスタートした時点で、前出の「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」に多額の資金流入が生じたのは、まさにこの安心感があったからと考えられます。
とはいえ、この安心感をうのみにしてはいけません。確かに、全世界に平均的に分散投資しているイメージのある、全世界投資のインデックスファンドですが、前出の「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」は、約60%が米国株式で占められています。
これは、世界の株式市場の時価総額における、米国株式市場の時価総額比率に合わせたポートフォリオ比率なのですが、その分だけ米国株式市場の動向に、運用成績が左右されることに留意する必要はあるでしょう。
外国債券投信の人気も加速。考えられる2つの理由同レポートに書かれている内容で、もう1つ注目したいのが、外国債券投信の動向です。
2022年比で見た場合、外国株式型や国内REIT型、バランス型は、2023年に入って明らかに資金流入額が鈍化していますが、外国債券型は1兆1000億円の資金流入額になり、2022年の5000億円に比べて倍増したことを指摘しています。
とはいえ、資金流入の絶対額は圧倒的に外国株式型が多いので、お金の流れは外国株式型に向かっていると考えられるのですが、それでも外国債券投信への資金流入額が倍増したのには、何か理由があるのでしょう。
理由①:円安の影響市場環境から考えれば、2023年は1月16日の1米ドル=127円23銭から、11月13日の151円91銭まで、急激な円安に見舞われた年でもあります。加えて、米国や英国、ユーロ圏の金利は、相対的に日本よりも高く、外国債券に投資する魅力が高まりました。
理由②:ラップ口座の残高増もう1つ要因があるとしたら、ラップ口座の残高増でしょうか。残高は右肩上がりを続けていて、2023年9月末時点の残高は15兆9232億円に達しました。ラップ口座には投資信託を用いて分散運用を行うファンドラップがあり、これを通じて外国債券投信に資金が流入した可能性もあります。
なぜなら、ファンドラップを用いて資産を運用する個人は、一定の金融資産を保有しているけれども、投資経験が少なく、自分から投資信託を選び、ポートフォリオを組むのが難しい人が多いと考えられるからです。
ラップ口座を始めるにあたっては、個々人のリスク許容度を指定してもらい、それに基づいたポートフォリオを、複数の投資信託を用いて組んでいくわけですが、投資経験の少ない人は、いきなりリスク度の高い運用は選ばないでしょう。この手の資金が、外国債券投信に向かった可能性は高いと考えられます。
外国債券投信をポートフォリオに組み入れる必要性とはとはいえ、ポートフォリオに外国債券投信を組み入れる意味は何か、という点を改めて考える必要はありそうです。
そもそも株式と債券を組み合わせるのは、株価と債券価格の相関度が低い場合があるからです。相関度とは、お互いに違う値動きをする度合いを示したものです。
これを見る際には「相関係数」という数字があり、これが1に近づくほど似た値動きを、-1に近づくほど違う値動きをすると考えられます。
少し古い数字で恐縮ですが、三井住友DSアセットマネジメントの資料(「なるほど!ザ・ファンド 【Vol.150】相関係数って何?」)によると、2006年4月末から2022年4月末までの16年間における資産クラス別の相関係数を見ると、国内株式と国内債券の相関係数は-0.3ですから、ある程度異なる値動きをすると考えられます。
しかし、国内株式と海外債券の相関係数は0.6もあります。また海外株式と海外債券の相関係数は0.7です。つまり国内株式や海外株式を持っている場合、それに海外債券を加えたとしても、あまりリスクヘッジにはならないと考えられるのです。
外国債券投信というと、何となく安全性が高く、かつリターンもそこそこ得られるのではないか、というイメージが先行しますが、国内外の株式ポートフォリオを保有したうえで、その価格変動リスクをヘッジするために外国債券投信を組み入れるのは、あまり意味がない、という結論になるのです。
参考
・ニッセイ基礎研究所「2023年、投信市場で外国債券投資が復活?」
・三菱UFJ銀行「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」
・三菱UFJアセットマネジメント「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)交付目論見書 2024.1.19」
・三井住友DSアセットマネジメント「なるほど!ザ・ファンド 【Vol.150】相関係数って何?」
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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