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新NISAで吹く「オルカン・ブーム」日経平均やTOPIXには何が足りない?「ミスター指数」がズバリ解説!(後編)

Finasee / 2024年2月8日 18時0分

新NISAで吹く「オルカン・ブーム」日経平均やTOPIXには何が足りない?「ミスター指数」がズバリ解説!(後編)

Finasee(フィナシー)

Q4 日経平均株価やTOPIXなど日本株インデックス連動商品に対する個人投資家の関心が高まらない背景にある、国内産業や労働市場の構造問題は?

牧野氏
振り返ってみると、日本がバブル期に向かう過程でエズラ・ヴォーゲル氏の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が出版され、世界において日本のビジネスモデルが一世を風靡しました。そんな時に私は証券ビジネスに関わり始めたわけですけれども、それから30数年経っていま現在、日本の置かれている立場は何なんだと考えると、本当にジャパン・アズ・ナンバーワンの時代の日本人の自信といったものが一切消えてしまった感すら伺えるというのが率直な感想です。

問題は、なぜそのような状況に陥っているのかです。日本の強みとされていた伝統的な年功序列による雇用体系とは、家族的な意識のうちに雇用がしっかり確保された中でそれぞれの企業が困難を乗り越えて成長していくことでした。その後、さまざまな転換期を迎えますが、一番の変革ということでいえば、やはり2000年代初頭から非正規雇用の雇用が拡大され、上場企業ではこの2~30年の中で、人的資源における世代・年代間、それから専門性といった部分でギャップ(格差)が生まれてしまったと思います。

こうした「人的資本の欠如」によって、日本企業のビジネスの競争力、特にビジネスを行う上での創造力が十分に発揮できる状況になっていないのかもしれません。逆に言うと、いま株価が上昇している企業は、そういった困難の中で経営資源を集中し、とりわけ人的資本の育成に資源を蓄積しながら今日に至っている可能性があります。

この数年、日本政府が賃上げを唱えています。日本の賃金は国際水準で比較すると安くなってしまいましたが、30数年前のジャパン・アズ・ナンバーワンの時の日本の賃金は世界に比べて超割高だったんですね。先ほどの前編でも述べましたが、そのころ私は海外に駐在しており、海外の製造業の経営者から「日本の労働者の賃金は極めて割高じゃないか」とよく言われたものです。そこには労働生産性という要素が十分含まれていたのかなと思います。

日本の企業経営の現状を見ていますと、労働者のみならず経営者も含めてもう一度改めて人的資本の在り方を見直したり、雇用を含めた改革を通じて労働生産性を高めることにおいて価値を創造したりして、それがひいては賃金上昇を含めてプラスの回転に移っていくといったところがなされれば、最終的に指数構成銘柄して加わっている企業群の価値も高まり、インデックスに対する認知度も高まっていく可能性があるでしょう。

ただしその中で日本固有の課題は当然あると思いますので、米国や欧州のコピーでは問題解決には至らないと思います。ここにはジャパン・ウェイと言いますか、日本流の考え方を十二分に踏まえ、しっかりとした中長期的な視野に立った企業経営の上に成り立つ企業群が増えれば、おのずと日本株のインデックスも高いクオリティを備えたものになるのではないかと思います。

Q5  日経平均やTOPIXの指数上の弱点は。「最良の日本株インデックス」を構想するとして、その場合にはどのような特長が必要ですか?

牧野氏
指数の算出メソドロジー(方法)や算出要項の内容をしっかり理解していくことによって、各々の指数がどのような投資目的に即しているのかを十分に理解すべきだと思います。日経平均とTOPIXの大きな違いで言いますと、日経平均は株価加重のインデックスであり、トピックスは時価加重のインデックスです。株価加重のインデックスということでは日経平均はダウ平均と同じで、当然(個別の)株価に大きく影響される指数であるという特徴は十分理解しなければなりません。TOPIXは現在、見直しの過程にありますので、現時点でお話することは適切でないかと思いますが、過去においては東証一部上場全銘柄を含む非常に網羅的な指数であったという特徴は十分に理解する必要があります。

日本でどのような指数が必要なのか、もし分かるのであれば苦労はないと思います。ひとつの事例として、米国においてS&P500がなぜこれだけ支持されているのかをもう一度確認しておく必要があると思います。まず、S&P500には絶大なブランドというものがあり、指数に連動する金融商品や市場における評価が非常に高いということです。インデックスファンドをはじめとしてETFがありますし、デリバティブ市場においては先物があり、オプションがあり、さらには恐怖指数(VIX)の先物取引もあります。このような形でさまざまな投資機会があるインデックスというのは強いですよね。

裏を返せば、日本株のインデックスは多種多様な金融商品の創造に対して十二分に威力を発揮しきれていないのかもしれません。しかし今後は、おのずと金融市場における取り組みや投資家ニーズの拡大においてどんどん変革していくと思いますので、日本でご活躍のインデックス算出会社、いわゆる指数プロバイダーの皆さんが創意工夫をしながら新しいインデックスをあみだしたり、従来からのインデックスをブラッシュアップしていくでしょう。メソドロジーの見直しを通じて、いまの時代に即したインデックスとして対応していく努力が進められていく必要があるのではないかと思います。

Q6 1月24日に「JPXプライム150指数」に連動するETFが上場しました。JPXプライム150指数の潜在力は?

牧野氏
個別の指数を私自身が評価するのは控えたいと思いますが、事実で述べますと、今回のJPXプライム150指数というのはきちっとしたメソドロジー算出要領に基づき、流動性の高い大型株を中心に150銘柄を抽出する「選んだインデックス」です。その中で2つの要素、PBRとエクイティスプレッドという要因を分析して銘柄を組み入れていることに特長があるかと思います。これまでの日本株の中における2つの代表的な指数(日経平均とTOPIX)とは少し特色が異なります。日本取引所グループさんが一貫して進めてきた市場構造改革に応えるべく、今後の日本を代表する企業群で構築を目指したインデックスであると思います。

さらに1月24日、プライム150に連動するETFが市場に投入されました。実際にこのインデックスをベースとしたポートフォリオに投資家がアクセスすることが可能になったことは非常に大きな意義があります。このインデックスが中長期的にしっかりとした運営がなされ、指数の透明性と流動性が十分担保され、内外の投資家から十二分に認知されたインデックスに成長していくためにインデックスを算出する指数プロバイダーが果たす役割も大きくなると思います。さらに、これを使う側の運用会社や最終投資家がこの指数に対してどのような考え方や意見を持っているかということもオープンにしながらインデックスが育っていくというのが一番好ましいでしょう。

今後はこういった指数のみならず、さまざまなところで新しい指数の創出機会が出てくると思います。米国においてはS&P500が非常に大きなウエイトを占めていますけれども、さまざまな投資戦略を作っていく上でインデックスは欠かせないものになっています。

日本においても、何らかの投資テーマに即した「テーマ型投資」であったり、また運用戦略上、何らかのファクター要因を用いた戦略型の投資が十分に出てくる可能性があります。直近の分かりやすいところでは、機関投資家も個人投資家も選好している指数だと思いますが、「配当戦略」というのが一つの事例かと思います。

今後、こういう形で投資家が自身のポートフォリオをどう運用していくかという中で、インデックスが果たしていく役割は大きくなると思います。同時に、それを見越しながらアクティブ運用との兼ね合いも含めて、より一層株式への注目度も高まっていくということが期待できれば、まさしくプラスの回転に入ってくるでしょう。

ただし改めて述べますが、継続して上がるインデックスはないですし、必ず儲かる指数もありません。これは各投資家の皆さん、これは個人も機関投資家も、ご自身のリスクの許容度や投資の目的を十分に認識した上で、それにフィットした指数を選び、分散投資を行うというのが基本です。

 

牧野義之氏
2008年5月、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス 日本オフィスに入社。2009年より同社の営業を主管。2010年8月、同社日本オフィス統括となり、日本におけるインデックスビジネスの拡大やETF市場の拡大等に尽力した。2021年9月末同社を定年退職。2022年4月1日より、株式会社JPX総研 エグゼクティブアドバイザー就任。内外のインデックスビジネスやパッシブ運用に関する動向についての情報収集を担当。
2022年10月より、株式会社想研の次世代アセット・インサイト2030の創設に際して、同企画のアンバサダーに就任した。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス入社前は、ソシエテ・ジェネラル傘下のリクソー・アセット、アクサ・ローゼンバーグ(現アクサ・インベストメント・マネージャーズ)、フランクリン・テンプルトン等の日本法人で年金基金など機関投資家を主とした営業の責任者等を務める。さらに、山一證券勤務時代は、支店法人営業、香港現地法人、インドネシア合弁会社、本社国際企画部にて営業並びに企画業務を担当。

finasee Pro 編集部

金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。

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