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親の遺産を「すべて手に入れたい兄」vs「一部でも分けてほしい妹」時代遅れな価値観が招いた悲劇

Finasee / 2024年2月28日 11時0分

親の遺産を「すべて手に入れたい兄」vs「一部でも分けてほしい妹」時代遅れな価値観が招いた悲劇

Finasee(フィナシー)

遺言書を作る際には絶対に考慮しておかなければならない事項がいくつかある。その1つが「遺留分」だ。この遺留分という制度は十分に理解していない人が多く、それゆえせっかく作った遺言書が壮絶な相続トラブルを招くことも度々ある。

今回は、遺留分を考慮せずに作った遺言書がきょうだいの相続トラブルを招いた高木さん一家の話をしよう。

対立のきっかけ

「長男の俺が遺言書通りに全額受け取って何が悪い!」

最初に熱くなったのは兄の孝さんだという。それに異を唱えるのは妹の友里さんだ。おとなしい性格であり、声を荒らげることこそなかったものの「私だって生活がある。そもそも法律上、私にも一定の権利はあるんだから」と強く反論する。

事の発端は2人の母である広子さんが残した遺言書だ。その遺言書の内容を簡潔に記せば「全財産は生前の夫の意向に従い、長男の孝に相続させる」というものだ。既に孝さんらの父であり、広子さんの夫であった司さんは亡くなっている。

司さんは生前「うちにある財産は長男である孝に全部継がせるように」と広子さんへ言っていた。広子さんはその意思を覚えており、実現させたかったようだ。

なぜ私がこのような背景を知っているかと言えば、もともと私が司さんの遺言書を作っていただからだ。その流れで広子さんの遺言書も作成していた。ある意味では私も騒動の一環を担っている。それゆえ、孝さんと広子さんから話をされ、事の次第を知ったという流れになる。

「法律上の権利」と「親の遺言書」、優先順位は?

友里さんが主張する「法律上の権利」とはいわゆる「遺留分」と呼ばれるものだ。遺留分とは、亡くなった方のきょうだい以外の相続人に認められた遺産における最低限の取り分のこと。

今回のように子どものみが相続人となる場合、遺留分は相続財産全体に対して2分の1の割合となる。そこに各相続人の法定相続分をかけて具体的な遺留分が確定する。今回は子ども2人が相続人となるため2分の1ずつでの相続となる。つまり、友里さんの遺留分は4分の1となるわけだ。

ここで問題となるのは遺言書との優先順位だ。遺言書というものは亡くなった方の最終意思が示されたものであり、基本的に遺産分割はこちらの記載内容に沿って行われることになる。

だが、今回のように遺留分を侵害する遺言書が存在する場合はどちらが優先されるのだろうか? この場合、遺留分が優先されることとなる。ただし、遺留分を侵す遺言書も一旦は有効である。遺留分は“主張することで初めてその効果を発揮する”からだ。当事者が遺留分を主張しなければ遺言書通りの遺産分割が可能になる。

原因は両親の時代錯誤な価値観

遺留分を侵害する遺言書が作られた背景には、2人の父親である司さんが亡くなった当時の遺言書も関係している。今回同様、「長男の孝に全額相続させる」という内容だったのだ。その当時、誰もが長男の孝さんが遺産を継ぐものだと思い込んでいた。

広子さんとしても、遺言書をきちんと残しておけば、友里さんも「家のことだから」と理解してくれると考えていたようだ。

遺言書を作る際、私は広子さんに「友里さんが遺留分を主張すれば相続争いが起きる可能性がありますよ」と事前に伝えていた。しかし、広子さんは「夫の時はきちんと理解をしてくれていました。あの子は私の時もしっかり理解してくれるはずです」と、娘の友里さんが家の伝統を、そして自分たちの気持ちを分かってくれるものだと信じ切っていたのだ。

この点について友里さん本人に対して事前に相談をしたわけでもなければ、意思確認をしたわけでもない。トラブルが起こり得ることを認識しつつも「大丈夫だろう」という甘い考えで遺言書を作ったのだ。

私は何度も「人の気持ちは常に変わりゆくものだ」「相続争いは想定外の出来事からいとも簡単に起こり得る」「極力トラブルが起こらないようにあらゆることを想定しておくべき」と、伝えた。だが、広子さんの意志は固い。

亡き夫である司さんの意思を守り継ぎたいという点や、過去友里さんが相続について理解をしてくれていたという事実から、私の声が最後まで届くことはなかった。結局は「長男の孝にすべての財産を相続させる」という遺言書を作ることになった。

●相続と2人のきょうだい仲はどうなったのか? 後編【「長男だから」と兄に遺産のすべてを遺した両親…納得できない妹が主張した「当然の権利」】で詳説します。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
※人物の名前はすべて仮名です。

柘植 輝/行政書士・FP

行政書士とFPをメインに企業の経営改善など幅広く活動を行う。得意分野は相続や契約といった民亊法務関連。20歳で行政書士に合格し、若干30代の若さながら10年以上のキャリアがあり、若い感性と十分な経験からくるアドバイスは多方面から支持を集めている。

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