「長男だから」と兄に遺産のすべてを遺した両親…納得できない妹が主張した「当然の権利」
Finasee / 2024年2月28日 11時0分
![「長男だから」と兄に遺産のすべてを遺した両親…納得できない妹が主張した「当然の権利」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/finasee/finasee_13183_0-small.jpg)
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
高木孝さんと友里さんはきょうだいで、相続争いに陥っていた。母の広子さんが「遺産はすべて息子へ相続する」という内容の遺言書を残して亡くなったからだ。長男の孝さんも遺言書通り、当然自分が遺産をすべて受け継ぐものだと思っていたが、妹の友里さんは納得できず遺留分を請求するに至った。
●前編:【親の遺産を「すべて手に入れたい兄」vs「一部でも分けてほしい妹」古い価値観が招いた悲劇】
友里さんの心境が変化した理由広子さんが亡くなった頃は司さんが亡くなった頃と比べて社会の状況や人々の考え方が大きく異なっていた。近年、感染症が大はやりしたことで社会が大きく混乱をしたことは記憶にも新しいだろう。ちょうど社会がその不安から日常を取り戻しつつあった頃に広子さんは亡くなり、相続が起こった。
この時、一連の社会の流れの中で友里さんの気持ちが変わっていったのだ。以前は「財産は家を継ぐ長男が継ぐもの」と感情面で納得できていたものが、感染症の影響で職を失った経験から不安が大きくなり「もらえるものはもらっておかなければ後で困るのは自分だ」という考えにシフトしていた。
友里さんはもともと法学部出身である。多少は民法の知識に覚えがあるようで、学生時代の知識を引っ張り出してきて遺留分が自分にはあるということを思い出したとのこと。
そうしていくうちに、だんだんと「なんで自分だけ我慢しなければならないのだろう。法で保障された権利を行使して何が悪い」という気持ちになっていたようで、遺留分を主張するに至った。
相続争いときょうだい仲の行方孝さんと友里さんの相続争いは結局のところ相続財産の4分の1を友里さんが相続することで決着がついた。
「いまさら何を言うんだ? おやじの時もそうだっただろうが!」と孝さんの強い発言に対しても友里さんは毅然(きぜん)と対応していた。最終的には家庭裁判所に話を持ち込もうとしたところ、世間体を気にした孝さんが折れたという具合だ。
孝さんはいまだに友里さんの遺留分の主張について納得がいっていないようで、2人の間には溝が生じてしまっている。
一度相続争いで生じた溝は簡単には埋まらない。一生不仲のまま時が過ぎてしまう家族もザラにいる。もしかすると、孝さんと友里さんの溝も一生埋まらないままなのかもしれない。
遺言書で絶対に考慮すべき「遺留分」遺言書を作るのであれば必ず遺留分についても考慮すべきだ。遺留分を侵害する内容での遺言書も一応は有効ではある。だが、ひとたび遺留分について権利を主張されてしまうと、遺言書の内容を完全には実現できなくなる。
それどころか、遺留分によって権利を失う側と得る側で争いが生じ、家族の間に溝が生まれてしまうこともあり得る。
遺言書は基本的に死後に争いが生じないように死者が思いを込めて作るものだ。だが、内容次第ではかえって相続人たちの間に争いを招くことになりかねない。
特に遺留分には注意されたい。世の常識や個人の価値観は常に変わりゆくものだ。昔は当たり前だったことも今では当たり前でないことも往々にしてある。
もう「長男だから」という理由で家を継いだり財産を多めに相続させたりする時代ではない。相続人にはきょうだいを除き、最低限の相続分たる遺留分が存在する。その権利を行使することは誰にも止められない。
繰り返しになるが、遺言書を作る際は必ず遺留分を考慮しておきたい。遺留分を侵害する遺言書は相続争いの原因でしかない。「財産はすべて長男が相続するもの」。その常識や伝統はもはや過去のものであるのだから。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
※人物の名前はすべて仮名です。
柘植 輝/行政書士・FP
行政書士とFPをメインに企業の経営改善など幅広く活動を行う。得意分野は相続や契約といった民亊法務関連。20歳で行政書士に合格し、若干30代の若さながら10年以上のキャリアがあり、若い感性と十分な経験からくるアドバイスは多方面から支持を集めている。
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