子供たちが山で行方不明に…親族一同あ然となった義母の“無慈悲すぎる”決断
Finasee / 2024年2月22日 17時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
夏子(40歳)は夫の徹(41歳)の実家へ向かっていた。実家は古くから続く名家で、年末年始は多くの親族が集まり夫の実家で過ごすことが習わしとなっているが、憂鬱で仕方なかった。子供を持たないと決めた夏子たち夫妻は、毎年義母や義兄妹たちからデリカシーのない質問を受けていたのだ。
●前編:「まだあなたは子供を産んでないようだね?」義実家で地獄の年末年始…義母の“嫁ハラ”から逃げる方法
消えた子供たち元日は、豪華なおせちに全員で舌鼓を打つ。そしてダラダラと1日を過ごす予定になっていた。大人たちはお酒が進み、それぞれが話し込んでいる。
子供たちはすぐに退屈になったのか全員が庭に遊びに向かった。そのまま時が過ぎていき、夏子は徹と家に帰ってからのことを相談していた。
毎年2日に帰り、それから旅行に行くことになっていた。その行程について話をしていたのだ。
「あれ、子供たちは?」
きっかけは宮子の言葉だった。宮子が廊下をパタパタと歩きながらそう聞いてきた。
「庭で遊んでいるんだろ?」
義兄がそう答える。しかし宮子は首を横に振る。
「もう庭は見たわ。でも誰も居ないのよ」
宮子の顔には不安な感情が出ている。
「あの、莉奈ちゃんは?」
「ううん、莉奈もいないの」
莉奈は賢い子だ。勝手にどこかに行ってしまうような子ではない。
夏子は背中に薄ら寒いものを感じた。何か、事件に巻き込まれたのでは。
それから大人たちが総出で家の敷地内を捜索する。しかし子供たちの影も形も見つけられなかった。
そして客間に戻り、全員で話し合いをする。
「この場にいないとしたら、裏の山か? しかし裏の山に行ったんだとしたら、あそこは熊が出るぞ……!」
義叔父が独り言のように恐ろしいことをつぶやいた。そして重苦しい雰囲気が家中を包み込む。
そこで夏子が声を上げた。
「警察に相談しましょう。もう私たちの力だけではどうにもなりませんよ」
夏子の提案に宮子はぱっと顔を上げる。他の親族たちもそれに同調しそうな空気だった。
しかしハツはそれを許さなかった。
「ダメだ。それだけは絶対にダメだ」
「ど、どうしてですか?」
「こんな正月に、子供を見失ったなんてことで、警察を呼べるわけがないだろ。そんなことが知れ渡ったら私は良い恥さらしだ」
ハツの言葉に夏子は耳を疑った。こんなときにハツは世間体を気にしているのだ。
子供たちがいなくなったというこの非常事態に、だ。
そこから夏子は何度もハツを説得した。しかしハツは首を縦に振らない。
いつまでたっても話が先に進まないのだ。
このままでは日が落ちてしまう。
「分かりました。勝手にしてください」
夏子はあきれた口調で吐き捨てるように言った。
怒りの矛先はハツだけに向けているのではない。他の親族たちにもだ。なぜ間違っていると分かっているのに誰もハツに歯向かおうとしないのか。
そして夏子は1人で靴を履いて、裏の山に向かう。この辺りでないのであれば、もう山に行くしかない。
そう思って、夏子は山に向かって走った。
熊が出ると誰かが言っていた。しかし恐怖はなかった。それよりも子供たちへの心配の気持ちが強かった。
かくれんぼそして夏子は山を登り、大声で子供たちを呼んだ。
「莉奈ちゃーん、どこー⁉」
大声を張り上げるが、返事はない。
そこから夏子は大きな声を出しながら、山を登っていった。
次第に日が落ちていく。そして山の空気は恐ろしく冷たい。しっかりと防寒をする時間がなかった。子供たちがこんなところで一夜を過ごせるわけがない。
夏子は必死で子供たちを探した。
次第に山の傾斜は厳しくなり、息が荒くなった。足腰がキツい。しかし足を止めるわけにはいかなかった。
山は深くなるほどに光が閉ざされる。まだ日没までは時間があるはずなのに、周りがとても暗い。
夏子は携帯のライトを照らしながら、捜索を続ける。バッテリー残量を気にしながら歩いていると、隣の茂みがいきなりガサガサと揺れ出した。
クマか、と思った。しかし逃げる気力がもう残っていなかった。
最悪の事態が脳裏をよぎる。
だが固まる夏子の前に現れたのは半べそをかいた莉奈と子供たちだった。
「……へ?」
思わず夏子はその場にへたり込みそうになる。
すると夏子を見た瞬間、莉奈たちが大声で泣き出した。夏子はそれを見て、必死に堪え、子供たちを抱き寄せる。
温かい、本物だ。
「良かった。皆、いるわね」
泣きながら莉奈の話を聞くと、かくれんぼをしていて、莉奈が鬼の時に子供たちが山に隠れたそうだ。莉奈は1人1人を見つけるのに苦労して、ここまで時間がかかったとのこと。
夏子は大きく息を吐き出す。これで終わりじゃないと自分に言い聞かせる。
辺りは暗くなっていて、子供たち全員を連れて下山することは大変だと分かっていた。
そのためにもう一度気を引き締める。
「あっ!」
そのとき莉奈が声を上げた。振り返ると、大きな光がこちらに近づいてくる。
「みんな、大丈夫か!?」
声を聞いただけで涙がこぼれそうになった。夫が追ってきてくれたのだ。
夫は夏子を見て、安堵を見せる。
「まったくむちゃして……」
「ご、ごめんなさい」
夏子は素直に謝罪をした。
宮子の怒り夫は暗くなることを見越して懐中電灯を取って、追ってきてくれたらしい。そして夏子たちはそのまま下山。そうして無事に家にたどり着くことができた。
帰ってきた子供たちを見て、大人たちは狂喜乱舞。
全員が子供たちを抱き寄せていた。その光景は見ていて心が温まるものだった。
そこで宮子が莉奈を引いて近づいて来た。目には大粒の涙が見える。
「お義姉(ねえ)さん、ほ、本当にありがとう……!」
「ああ、いえ、いいんですよ……」
さらにハツも近づいてくる。
「ほら、警察なんて呼ぶ必要なかったじゃないか」
ハツとしては精いっぱいの強がりだったのだろう。しかしそれは地雷だった。
「ふざけないで! お義姉(ねえ)さんがこれだけやってくれたから見つかっただけよ! 警察に通報していたら、お義姉(ねえ)さんまでこんな危ない目に遭わなくて良かったのよ!」
ハツに激怒する宮子に夏子は驚いた。
「そうだ。だいたい母さんは世間体ばかりを気にして、全然俺たちのことを考えてくれてないだろ! 子供のことだって、全然心配してなかったしな! そんなヤツが子供を産めだなんて二度と言うな! 少なくとも子供のことはアンタよりも夏子さんのほうがしっかり考えているよ!」
義兄が先日とは正反対の意見をハツにぶつけている。
あまりにきれいな手のひら返しに夏子は思わず笑いそうになる。
それからハツは親族たちにこっぴどくしかられ、それから夏子が帰るまでの間、ずっとおとなしくなっていた。
夏子としてはそれくらいが良い環境なので、何も援護したりしなかった。
それから夏子は初めてと言っていいほど、過ごしやすい夜を送る。
莉奈や子供たちはあれから懐(なつ)いてくれて、ずっと一緒に遊んでいた。宮子たちもそんな夏子を温かい目で見てくれていた。
そして2日になり、夏子たちは実家を後にする。そのときも多くの親族たちが見送ってくれた。
車を出してしばらくした頃、夏子はぽつりとつぶやいた。
「……子供って、いいもんだね」
「子供のこと、後悔してる?」
「ううん。だって今、とっても幸せだから」
夫がいるからというのは、気恥ずかしくて言葉にできなかった。
徹は笑顔でうなずいた。
「俺も同じだよ。だって、夏子がいるからね」
夫の言葉に夏子は思わず視線を窓の外に向ける。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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