世界に名だたる“山崎” サントリーの1.6兆円買収は大成功、ビールじゃなくウイスキーを選んだ理由
Finasee / 2024年2月28日 18時0分
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Finasee(フィナシー)
日本のウイスキーが世界で売れています。日本産酒類の輸出額は2020年に清酒を上回り、ウイスキーが最大となりました。2022年は560億円が輸出され、ウイスキーだけで酒類全体(1392億円)の4割を占めています。
【日本産酒類の輸出額の推移(2013年~2022年)】
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国産ウイスキーの代表的なメーカーがサントリーホールディングスです。「響(ひびき)」や「山崎」など人気の銘柄を多数手がけています。
他のビール大手と同様、サントリーもM&Aを通じ世界進出を強めています。2014年に取得したビーム社(現・ビームサントリー)は高額な買収費用も話題でした。
今回は非上場企業の巨人、サントリーのビーム買収を振り返りましょう。
バーボン大手を1兆6500億円で取得 借り入れで財務は悪化サントリーがビームを買収したのは2014年5月のことです。
ビームはアメリカの蒸留酒メーカーで、「ジムビーム」や「メーカーズマーク」といった人気のバーボンブランドを持っています。また「ティーチャーズ」というスコッチウイスキーも生産しています。特に「ジムビーム」は愛好家が多く、販売数量は現在でもバーボンで世界トップクラスです。
なお、サントリーはビールにも力を入れています。買収先にビールではなくウイスキーを選んだ理由について、当時の記者会見で「競争が激しいビールはすでに大企業がシェアを有しており、これから戦っていくのは難しいということもあり、蒸留酒市場を選んだ」と説明しました(出所:日本経済新聞 2014年5月15日)。
サントリーはビーム全株式を1兆6000億円で取得します。この買収でサントリーは英ディアジオ、仏ペルノ・リカールに次ぐ世界3位の蒸留酒メーカーとなりました。
ビーム買収の資金は主に借入金で調達します。このため負債が増加し、サントリーの財務は大きく悪化しました。株主資本割合は30%から16.3%へと低下します。
【財務状況の推移(2013年12月期~2014年12月期)】
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財務の大幅な悪化を伴いましたが、ビーム買収は英断でした。ビームは急成長し、サントリーの酒類事業の中核的な存在となります。
ビーム快走で大黒柱に 財務も急回復ビームは統合直後から順調に成長します。買収後で最初の通期決算となった2015年12月期は23%の増収となり、その後も人気ブランドを中心に現在まで販売を伸ばしています。新型コロナウイルスの影響を受けた2020年度も、業務用は減収となったものの家庭用は増収となり、より悪影響を受けたビールを補う形となりました。
成長はコロナ後にさらに加速します。スピリッツ(蒸留酒)部門は2021年度に1割程度、2022年度は2割強の増収となり、2023年度も酒税控除後で2ケタ%台の増収を果たしました。これはビームが持っていたブランドだけでなく、買収後に投入した「ROKU<六>」といった付加価値の高い商品群が好調だったことも寄与しています。
好調な販売は利益も押し上げています。酒類事業の2015年12月期からの増益率は200%を突破しており、利益額は飲料・食品事業を上回っています。
【セグメント営業利益の推移(2015年12月期~2023年12月期)】
2015年12月期 2023年12月期 増益率 飲料・食品 1110億円 1659億円 +49.4% 酒類 784億円 1756億円 +224.0% その他 303億円 341億円 +12.5%※2013年12月期は日本基準、2023年12月期は国際会計基準
出所:サントリーホールディングス 決算概況
財務の改善も進んでいます。好調な業績が利益剰余金を積み上げていること、また有利子負債を順調に消化していることから、株主資本割合は買収前を超え40%に達しました。サントリーは一時的な悪化を乗り越え、より強固な財務基盤を手にすることができています。
【財務状況の推移(2013年12月期~2023年12月期)】
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サントリーはスコッチの強化に乗り出しています。
サントリーは2020年1月、「ザ・マッカラン」や「ハイランドパーク」を所有するイギリスのエドリントンに10%出資すると発表しました。サントリーは「ザ・マッカラン」を輸入販売するほか、マッカラン社の一部株式を保有しています。親会社へ出資することで、より強固な関係を構築するとしています(出所:サントリーホールディングス エドリントン社への出資について)。
一方でブランドの整理も進めています。ビームサントリーは2023年12月、コニャックの「クルボアジェ」ブランドをイタリアのカンパリグループへ売却すると発表しました(出所:ビームサントリー リリース(2023年12月14日))。
ビームサントリーは「ラフロイグ」や「ボウモア」といったスコッチを所有しています。これらの取引から、サントリーはコニャックよりもスコッチに注力したいという狙いがうかがえます。
またジンへの期待も高そうです。サントリーは2024年2月、大阪工場に55億円を投じジンの生産能力を2.6倍に増強する方針を示しました。2017年と2020年にそれぞれ投入した「ROKU<六>」と「翠(SUI)」の好調を受け、供給体制を強化して需要の喚起を狙います(出所:サントリーホールディングス 2024年「サントリージン」戦略について)。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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