アラフォー男の転職、“早期リタイア”を目指して働くのにおすすめの企業とは?
Finasee / 2024年3月5日 18時0分
Finasee(フィナシー)
小笠原大地(36歳)が会社を辞めた。その会社「アザミスーパーマート」でパートタイマーとして働く宮崎明日香(39歳)は、パートタイマーの管理責任者である小笠原とは何かと関わりがあり、また、小笠原の資産運用の件で、かつて証券会社に務めていた母親の玉枝(74歳)とも個人的に接点があったため、小笠原の転身の事情も知っていた。ただ、同社の社内では、小笠原が退職理由の1つにあげた「未上場企業では働くモチベーションがない」という言葉が非難の的となっていた。「スーパーは日々の生活に欠かせない存在だ」と小笠原の辞表を受け取った上司は一喝したらしいが、小笠原が言いたかったのは、そのような企業価値とは異なることだった。小笠原が退職を決めた理由とは……。
資産運用の頭でっかちに訪れた転機小笠原が辞表を提出する3カ月ほど前、明日香は玉枝と小笠原が話し合う場に立ち会っていた。寝食を忘れて資産運用にのめり込んだために、会社にも出社できないほど衰弱してしまった小笠原に対して、玉枝は「いっそのこと、資産運用を職業にしたらいい」と言っていた。小笠原が望むのであれば、運用会社との間を取り持ってくれるエージェントを紹介すると言った。小笠原は、その場では、少し考えさせてほしいと言っていたが、翌日には玉枝に詳しい話を聞かせてほしいと言ってきた。
玉枝が小笠原に話したのは、「四六時中、相場のことを考えられるのは1つの才能。運用会社のファンドマネージャーの中には、ニューヨーク市場の動向が気がかりで会社に寝袋を持ち込んで泊まり込んでしまうような人がいる。日本の株式市場の動向に米国の影響は無視できないから当然と言えば当然なのだけど、誰に言われるまでもなく、自然とプロのファンドマネージャーと同じような行動ができている。あなたから預かった運用参考資料を見させてもらったけど、運用方針の構築がユニークで、それに必要なデータもよく整理されていると思う」という評価だった。小笠原が前向きに転職を考えるのであれば、預かった資料一式をエージェントに提供し、具体的な転職候補先の選定を行ってもらうという。
小笠原は、転職については前向きに考えたいということだったが、自分自身がずっとこだわってきた「FIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的自立、早期リタイア)」を自分自身の力で実現するということについて諦めきれないと言った。玉枝は「諦めずに自分の力で資産を増やせばいい。欧米のファンドマネージャーは、自分が運用しているファンドに自身の財産を投資して運用の仕事を通じて自身の資産を増やすことを当然のように行っている。あなた自身の運用方針で運用するファンドが実現できるかどうかは、今後の努力次第だけど、優れた運用戦略と認められる運用戦略を作ってみたらいい。その戦略に自分の資産も投入することを目標にすれば今までの努力の延長として頑張れるのでは」と言った。
安定した地位を30歳代でも捨てられるか?小笠原は、最初は「おまかせ投資」という話を信じて資産運用を始めたものの、玉枝のアドバイスもあって、自己責任で運用することの重要性に気が付いた。その後、自分自身で調べて、納得のいく運用商品を選んで投資するようになったが、その運用にのめり込み過ぎて会社員としての仕事が手につかなくなってしまった。難関大学を優れた成績で卒業するほど勉強はよくできる人物なのだろうが、その行動は極端なところがある。それでも、その極端さが探究熱心という側面で発揮されれば、運用担当者として秀でた存在になれるかもしれない。エージェントとは、その点で玉枝の考えと一致していた。後は、小笠原の意志と、それを受けて運用会社の採用担当が、どのような判断を下すかということにかかっている。
明日香は、小笠原が現在の安定した地位を捨てて新しい職場に移ろうとしていることが現実とは思えなかった。今のまま勤め続ければ、今の会社で幹部として地位を高めていくことができるはずなのだ。30代の半ばで、これまでと畑違いの職場を求めることに不安はないのだろうか? 小笠原は、「独身なので、もし失敗するようなことがあっても自分自身が受け入れればよいだけのこと。それに、FIREをめざしてお金のことだけを考えていては、自分の人生を生きているような気がしない。資産運用を職業にするという考えにはワクワクする気持ちしかない」と答えた。その場で、エージェントとの面談の日程が決まった。
その後は、とんとん拍子に話が進んだようだった。エージェントが小笠原に紹介したのは、英国ロンドンに本社を置くヘッジファンドだった。歴史こそ30年程度と比較的若い会社だったが、ロンドン証券取引所に株式を上場し、今後の成長が期待されている会社だということだった。小笠原の英語は申し分なく、流ちょうな英語で語られた小笠原の投資哲学や小笠原が提出した運用リポートは、面接したヘッジファンドの担当者を大いに刺激したという。そのヘッジファンドは、将来は日本に拠点を置くことを計画しており、小笠原は日本拠点設立準備のためのスタッフの一員としても期待されていた。
働くのなら株式上場企業?小笠原の就職が決定し、その報告に小笠原が玉枝を訪ねてきた時に、玉枝が小笠原に語ったのが、玉枝自身の証券会社勤務当時の体験談だった。明日香は玉枝の体験談について、明日香が証券会社に入社した当時に一度聞いていた。それは、玉枝が証券会社に勤めていたことで、その後の人生を豊かにする資産を蓄えることができたという成功体験だった。その玉枝の体験こそが、新しい人生にこぎ出そうという小笠原に向けての玉枝の手向けの言葉でもあった。小笠原が、勤めていたスーバーに辞表を出した時に話したのも、玉枝の話がベースになった話だったはずなのだが、小笠原の上司には、その話がうまくは伝わらなかったようだった。その玉枝の話とは……。
●小笠原の異変の理由とは? 後編【毎月5000円で資産が6000万に? これからの資産形成に必要なこと】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
風間 浩/ライター/記者
かつて、兜倶楽部等の金融記者クラブに所属し、日本のバブルとバブルの崩壊、銀行窓販の開始(日本版金融ビッグバン)など金融市場と金融機関を取材してきた一介の記者。1980年代から現在に至るまで約40年にわたって金融市場の変化とともに国内金融機関や金融サービスの変化を取材し続けている。
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