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外貨建て金融商品での資産運用は「為替ヘッジありを選べば安心」とも言えない理由

Finasee / 2024年2月26日 17時0分

外貨建て金融商品での資産運用は「為替ヘッジありを選べば安心」とも言えない理由

Finasee(フィナシー)

一時期に比べると落ち着いてきた感じはしますが、高いインフレ率によって米国の金利がどんどん引き上げられていた時期、米ドル建て金融商品に対する関心が高まりました。言うまでもなく、円建ての預貯金で運用するのに比べて、表面上は高い利率が提示されているからです。

円建て定期預金にはない、米ドル建て定期預金のリスク

たとえばソニー銀行が扱っている、米ドル建て定期預金の利率は、外貨普通預金からの預け入れで、満期が来た時には自動継続してくれるタイプを選ぶと、6カ月物で年5.1%という高利回りで運用できます。

ちなみに円建ての定期預金利率は年0.002%程度なので、米ドル建て定期預金の利率の高さが際立っていることがお分かりいただけるかと思います。

しかし、だからといって皆が皆、米ドル建て定期預金に預け替えるようなことはしません。なぜなら多くの人が、米ドル建て定期預金には、円建て定期預金にはないリスクがあることを知っているからです。そのリスクとは「為替リスク」です。

たとえば1ドル=150円で1万ドルの米ドル定期預金に預けるとします。必要な資金は円建てで150万円です。その後、満期にかけて円高が進み、1ドル=120円になったら、満期時に受け取れる円建ての元本はいくらになるでしょうか。1ドル=120円で1万ドルだから、120万円です。

30万円もの損失が生じています。このように、米ドルなど外貨で運用している最中、円高によって外貨建ての価値が毀損(きそん)することを、為替リスクと言います。

外貨建て金融商品での運用を敬遠する人の大半は、この為替リスクを警戒するからです。そしてこう思うはずです。「為替リスクを回避する方法があれば高い金利を取ることができるのに……」

為替リスクを回避する方法はあるのか?

果たして、そのようなことができるものでしょうか。

残念ながら、リスクを全く取らずに高いリターンを得ることはできません。「為替ヘッジ」もそうです。

「ヘッジ」とは、回避を意味する言葉です。そのため為替ヘッジというと、前出のような為替リスクを回避できる、とても良い方法と思う人もいるのではないでしょうか。

簡単に為替ヘッジの方法を説明しておきましょう。一般的に為替ヘッジで用いられるのは、「先物予約」という取引です。これは現時点で、一定期間後の為替レートを取り決めておく取引です。

たとえば1ドル=150円でドルを買った時、あらかじめ3カ月後、あるいは6カ月後など満期に合わせて、ドルを売るレートを確定させてしまうのです。ドルを売るレートを確定させてしまうので、さらに円高が進んだとしても、確約したレート以上の損失を被ることにはなりません。これが先物予約を用いた為替ヘッジです。

「為替ヘッジコスト」という落とし穴

しかし、この取引にも落とし穴があります。それは、為替ヘッジコストの存在です。大和アセットマネジメントが定期的に出している「Market Letter」では、主要通貨の為替ヘッジコスト状況が公表されています。

為替ヘッジコストは、「外貨の短期金利と円の短期金利の差」と考えておけば良いでしょう。現在、日本の短期金利はゼロ近辺ですから、米国やユーロ圏など短期金利の水準が高い国・地域の通貨を、一定期間後に売るという先物予約を行うためには、その金利差分がコストとして差し引かれます。

ちなみに、3カ月後に米ドルを売るレートを、現時点で確定させた場合、年率にして6%近いコストがかかります。

ということは、仮に年6%の外貨定期預金で運用できたとしても、1年後にドルを売る時に適用されるレートは、現時点のレートに比べて6%相当、円高水準に決められてしまうため、結局のところ日本円で1年間運用したのと、ほぼ変わらない収益しか得られなくなるのです。

でも、考えてみたら当然です。もし為替ヘッジコストが全くかからず、しかも高金利がそのまま得られるとしたら、今の低金利に我慢している日本人のお金が、大挙して米ドルに流れてしまうでしょう。

それは国内から資本が流出してしまう日本にとっても、また急激に海外からお金が集まって金余り状態になってしまう米国にとっても、決して良いことではありません。急激な資本の流出入は、実体経済にも少なからぬインパクトを及ぼします。

資本流出に見舞われた国では、金融危機や深刻な景気低迷に見舞われる恐れが生じますし、逆に諸外国から多額の資本が集まった国では、それらが国内のさまざまな投資に回っているうちは良いのですが、投資先がなくなると、今度は不動産、美術品などのモノに資金が流れるようになり、それがインフレやバブルを加速させる恐れを生じさせます。

その意味では、為替ヘッジコストがあるから、世界中のお金は合理的に動いているとも言えるのかもしれません。

投資信託の為替ヘッジあり・なしを比較すると……

もう1つ、為替ヘッジの注意点について触れておきましょう。投資信託のなかには、同一ファンドで「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」を選択できるものがあります。

この手の投資信託を購入する際、皆さんはどちらを選びますか。

円高で為替差損が生じ、リターンが低下するのを避けたいという人は、為替ヘッジありを選ぶのかもしれません。ところが、最近の傾向として為替ヘッジありの運用成績が、為替ヘッジなしのそれに比べて低迷するケースが生じています。

おもに米国債券を組み入れて運用する投資信託で、為替ヘッジありと為替ヘッジなしの運用成績を比べると、昨年12月末時点の過去1年間の運用成績は、為替ヘッジなしが10%前後のプラスであるのに対し、為替ヘッジありはマイナスになっているものが多く見られます。「為替ヘッジありの方が安全なんじゃないの?」と思った人もいるでしょう。

「為替ヘッジされているから安心」とは言えない

昨年1年間の金融環境を振り返ると、米国では金利が上昇し、円安が進みました。

金利上昇は債券価格の下落につながるため、ファンドに組み入れられている債券の評価額は下がるのですが、為替ヘッジなしのタイプは円安に救われました。為替差益を存分に獲得できたため、運用成績が10%程度のプラスになったのです。

一方、為替ヘッジありの成績が振るわなかったのは、まさに為替ヘッジをかけていたからです。為替先物予約を行うと、前述した為替ヘッジコストがかかるのに加え、あらかじめ一定期間後の為替レートを予約してしまうため、円安が進んでも為替差益が得られないというデメリットがあります。

加えてファンドに組み入れている米国債券の評価額が、金利上昇によって下落したため、運用成績が落ち込んでしまったのです。

外貨建て金融商品で資産運用をする際には、「為替ヘッジされているから安心」などとは思わないようにしてください。

参考:大和アセットマネジメント「マーケットレター 為替ヘッジコストについて(2024年2月)」

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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