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世の中“善人”だけではない…遊休資産を貸し出す「シェアリングビジネス」の落とし穴

Finasee / 2024年3月7日 11時0分

世の中“善人”だけではない…遊休資産を貸し出す「シェアリングビジネス」の落とし穴

Finasee(フィナシー)

高級ブランド時計のシェアリングサービスが突然終了

いささか旧聞に属する話で恐縮ですが、高級ブランド時計を貸したい人と、借りたい人をマッチングさせるシェアリングサービスが、1月31日に突如、サービスを終了しました。

当然、自分が持っている高級時計を貸している人たちは大騒ぎです。

このサービスは「トケマッチ」といって、合同会社ネオリバースが運営していましたが、サービス終了の事前告知は一切なく、1月31日に突如、同社のホームページに、サービス終了のお知らせが表示されました。

時計を貸し出していた人たちは大慌てで、同社に連絡を取ろうとしたものの、すでに経営者はどこかに雲隠れしてしまい、連絡が付かなくなっています。

同社のサイトに書かれている文面を紹介しましょう。

借りている人たちには「弊社よりレンタル中のユーザーへ書面及びメールにて返却要請をします。その際にレンタル商品の返却先住所等を指定いたしますため、ご協力いただけますと幸いです。また、月額レンタル決済は前回の更新を最終とし、2024年2月1日以降は発生しませんのでご了承下さい」と書かれています。

また、今回の一件で最も心配している、時計を貸している人たちに対しては、「預託商品は順次、ご登録住所にご返却させていただく流れとなります。現時点において弊社の解散手続き及びレンタル中等の事情により、明確なご返却日につきましてはご回答できかねますことをご了承ください。ご返却につきましては本日より6ヶ月を目安として発送手配いたしますが、万一ユーザー側の帰責事由等によりご返却が難しい場合、弊社サービス規約第9条及び所有時計の預託に関する同意書に基づき、損害賠償の金額をお支払いさせていただきます。損害賠償の金額のお支払い先はご登録の銀行口座と同一となり、変更は不可となりますためご理解の程よろしくお願いいたします。また、預託使用料は2024年1月末(2023年12月分)のお支払いより送金停止とさせていただきます」とあります。

代表者は雲隠れ、貸し出した時計は流通市場に!?

極めて無責任な文面としか言いようがありません。

なぜ解散するに至ったのか、貸し出している時計をどのように回収するのか、回収し切れない場合はどのような対処をするのか、といった肝心の点が全く書かれていません。

自分の時計をレンタルに出していた人たちに対する文面を読むと、「いつ返却できるか分からない。もし時計を貸している人たちから戻ってこなかった場合は、損害賠償するのでそれで許してください」と言っているようなものですが、そもそも本当に保険を掛けていたのか分かりませんし、購入した時の金額を満たせるだけの保険金を受け取ることもできないと思います。

そのうえ、前述したようにネオリバースの代表者の行方すら把握できていないのですから、貸し出した人たちは不安で仕方がないでしょう。しかも新聞報道などによれば、預けられた高級時計の一部が、流通市場で取引されていたという話もあります。

これが本当だとしたら、すでに貸し出した高級時計が、他の人の手に渡ってしまった恐れもあります。

シェアリングサービスの内容と問題点

シェアリングサービスとは、インターネットを介して、個々人が持っているモノやスキルなどをシェアするサービスです。自分が持っている空き家、空き部屋、駐車スペースなどの遊休資産を、それを使いたい人に貸し出すことによって利用料金の一部を受け取ります。最近は、さまざまな分野において、シェアリングサービスが増えてきました。

ただ、それにともなって貸し手と借り手の間でトラブルも増えています。

自分が持っている自動車を、マッチング会社を通じて借りたいという人に貸したところ、非常に乱暴な使われ方をしたとか、室内を汚された、車体に傷をつけられたといった話を、方々で耳にします。

トケマッチの場合、貸したモノが戻って来ないという、最悪の状態も想定されますが、なぜこのような事態が生じてしまったのでしょうか。

そもそもシェアリングエコノミーは、性善説にのっとったビジネスモデルです。

「貸した部屋はきれいに使ってもらえるはず」、「貸した自動車は丁寧に扱ってもらえるはず」、「貸した時計はちゃんと戻ってくるはず」という前提があるから、一定数の貸し手がいるわけですが、世の中、善人だけではありません。最初から悪意を持った人物なら、借りた車を貨物船に運び込み、そのまま他の国に売り飛ばすことを真っ先に考えるでしょう。

トケマッチも同じで、最初から盗むことを前提にするならば、借りた時計を中古市場に流してしまうことなど、容易に想像できます。

しかも、空き家、空き部屋、駐車場などの不動産をシェアするのであれば、そこを荒らされたとしても最悪、モノが持っていかれることはあり得ません。そもそも「不動産」ですから。

しかし、自動車や時計のような「動産」の場合、最悪の場合、盗まれることは十分に起こり得ます。しかも時計の場合、モノ自体が小さいので、悪意を持った人物なら、それを持って、容易に逃げられます。

シェアリングサービスにはこんな問題も

加えてもうひとつ問題点を挙げるとすれば、業界団体である一般社団法人シェアリングエコノミー協会が、体よく利用されたという点でしょう。

協会のホームページによると、ネオリバースは2023年6月1日に、「事業者間の交流、情報収集」、「最新のシェアリングエコノミー動向」を加入希望理由として入会したそうです。

いつの時点でこのような犯罪行為を思いついたのかは知りませんが、詐欺師が自分に対する信用を得るために、この手の協会に加盟していることをアピールするのは、よくあるケースです。「協会の認証を取っていますから大丈夫です。信用してください」というように、悪用されてしまう恐れがあるのです。

だからこそ、同協会としては認証マークを出すに際して、申請してきた企業などを慎重に見極める必要があると思うのですが、そもそも同協会は「性善説」にのっとったビジネスの業界団体ですから、加盟希望者をはなから疑っていなかったのかも知れません。

何しろ、協会の認証マークを付与するに際して、「当該企業の事業の継続性などの財務的審査は行っておらず、協会としては、個社のサービスの事業継続を担保すること等は難しいと考えておりました」というくらいなのですから。

「事業の継続性などの財務的審査は行っておらず」では、倒産寸前なのに、適当に数字をいじって、よく見せかけたような事業者にも、簡単に認証マークを渡してしまう恐れがあります。

トケマッチは表向き、シェアリングサービスの形を取っていますが、高級時計を保有している人が、トケマッチというマーケットを介して時計を貸し出し、利回り換算すると決して低くないリターンを受け取るというスキームは、見方によっては時計を媒介させた資産運用のようなものです。

証券会社だって、有価証券の売り手と買い手をつなぐだけですが、実際に証券会社を設立するためには、非常に高いハードルを乗り越えてライセンスを取得しなければなりません。

トケマッチは許認可事業ではありませんが、人の大切な財産を他人に貸し出すための仲介を行っています。そうである以上、途中で事業が中止されれば、今回のようなトラブルが起こることは十分に想像できるでしょう。その点でも、やはり財務内容くらいは、協会としてしっかりチェックするべきでしたし、それをしなかったのは、協会の怠慢以外のなにものでもないと言えます。

参考:一般社団法人シェアリングエコノミー協会「【FAQ】合同会社ネオリバース(サービス名:トケマッチ)への協会の関わり及びこれまでの対応について」

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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