日東電工が6年ぶり高値 シリコン半導体を超える二次元材料向けのテープ開発に成功
Finasee / 2024年3月12日 17時0分
Finasee(フィナシー)
日東電工の株価が急伸しています。今期(2024年3月期)は減収減益の予想ながら投資家の評価は高く、株価は上昇傾向にあります。2024年1月に発行済株式の2.1%に相当する上限300万株(300億円)の自社株買いを発表すると、過去の高値(2017年11月:1万1750円)を突破し上場来高値を更新しました。
【日東電工の業績】
売上高 純利益 2022年3月期 8534億円 971億円 2023年3月期 9290億円 1092億円 2024年3月期(予想) 9200億円 1000億円※2023年3月期(予想)は同第3四半期時点における同社の予想
出所:日東電工 決算短信(外部リンク)
出所:Investing.com(外部リンク)より著者作成日東電工は市場評価性(PBR基準)から「JPXプライム150指数」に採用されています。
日東電工とはどのような企業なのでしょうか。概要と事業内容を押さえましょう。また日東電工が世界で初めて開発した二次元材料向けテープも紹介します。
光学フィルムや産業用テープが主軸 薄い材料で厚い利益日東電工は大手化学メーカーです。PCやスマートフォンなどの電子製品、また自動車や医薬品といった幅広い業界向けに材料を製造し販売しています。1918年に設立された100年企業で、2003年までは日立製作所グループに属していました。また粘着クリーナーの「コロコロ」は日東電工のヒット商品の一つです。
日東電工は薄型の製品で高いシェアを持つ企業です。モバイル機器や自動車のディスプレイに用いられる偏光板や光学フィルム、電子部品の製造工程で用いられる粘着シート、プリント回路などが収益を支えています。
【セグメント売上高(2023年3月期)】
・インダストリアルテープ:3429億円
・オプトロニクス:4824億円
・ヒューマンライフ:1286億円
※インダストリアルテープ:基盤機能材料(接合材料、保護材料、プロセス材料、自動車材料)
※オプトロニクス:情報機能材料(光学フィルムなど)、プリント回路
※ヒューマンライフ:ライフサイエンス(核酸医薬)、メンブレン(高分子分離膜)、パーソナルケア材(衛生材料等機能性フィルム)
出所:日東電工 セグメント別の状況(外部リンク)
製品とは対照的に利益には厚みがあります。売り上げから原価を除いた売上総利益率は30%台後半、さらに販管費を除いた営業利益率は10%台半ばと高水準です。同業(化学)に分類される東証プライム上場企業と比較すると、日東電工の利益率の高さがうかがえます。
【利益率の比較(2023年3月期)】
日東電工 東証プライム化学(98社) 売上総利益率 36.3% ― 営業利益率 15.8% 8.7% 純利益率 11.8% 5.8% 株主資本利益率(ROE) 12.7% 8.6%
出所:日東電工 決算短信(外部リンク)、日本取引所グループ 決算短信集計結果(外部リンク)
次の成長領域は医薬品 商用薬で拡大目指す日東電工は2023年に中期経営計画を発表しました。事業ポートフォリオを変革し、営業利益を2025年度に1700億円、2030年度に2400億円へ引き上げる計画です(中期経営計画の最終年度は2025年度)。
中期経営計画では重点分野として3つの領域が示されました。自動車や車載電池向けの「パワー&モビリティ」、半導体やエレクトロニクス向けの「デジタルインターフェース」、そして医薬品と高分子分離膜、おむつといったパーソナルケア材料向けの「ヒューマンライフ」です。
3領域で最も高い成長を見込むのがヒューマンライフ事業です。日東電工は核酸医薬の原薬では、臨床試験向けで世界トップクラスのシェアを握っています。今後はより規模の大きい商業薬の生産に向け、日米で大型の新工場を順次稼働させる計画です。
現在は商用薬の準備期間にあり、ヒューマンライフ事業の利益は大きくありません。また2023年度は営業赤字を見込んでいます。しかし生産プロセスの改善や使用材料の削減といった合理化に取り組み、収益性の改善を図ります。
【中期経営計画の財務目標(営業利益)】
実績(2022年度) 2025年度 2030年度 全体 1472億円 1700億円 2400億円 インダストリアルテープ 272億円 340億円 480億円 オプトロニクス 1274億円 1275億円 1560億円 ヒューマンライフ 5億円 85億円 360億円
※中期経営計画の財務目標は目標の営業利益と構成比から算出
出所:日東電工 セグメント別の状況(外部リンク)、会社説明会資料(外部リンク)
シリコン半導体の限界を超える?二次元材料のテープ開発に成功日東電工の製品は半導体向けでも活用されています。シリコンウエハを薄く削るバックグラインド工程やチップ状に切り出すダイシング工程など、半導体の製造工程で用いられるテープ材や貼り合わせ装置を手掛けています。
2024年2月にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)や九州大学と共同で、世界初となる二次元材料向けテープの開発に成功しました(出典:NEDO 世界初、グラフェンなどの二次元材料テープを開発(外部リンク))。二次元材料とは、結晶が二次元で深さ方向に構造を持たない物質を指します。
現在の電子デバイスには主にシリコンが用いられていますが、シリコンの結晶は三次元で立体的です。パッケージに収納するには薄い方が有利なため薄く削りますが、シリコンは深さ方向に構造を持つため限界があります。そこでシリコンを二次元材料に置き換える研究が進められています。
日東電工らが開発に成功したテープは、二次元材料の転写に用います。二次元材料は原子の厚みしかないため破れやすいといった理由から、別の基盤上に移す転写というプロセスが必要です。新しいテープは従来の方法より正確かつ簡単に転写でき、また積層も可能です。さらに紙やプラスチックなどの素材にも転写できます。
NEDOによると、現在、二次元材料であるグラフェンへの転写は最大で4インチ(直径10ミリメートル)となっています。今後はより大きなウエハレベルの転写を目指し、二次元材料の実用化を推進するとしています。
シリコンウエハで世界首位の信越化学工業も二次元材料を研究しています。日東電工の新しいテープは未来の電子デバイスに大きく貢献しそうです。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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