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進まない野村HDのグローバル化 リーマン買収後の海外事業停滞は国内の株高で取り返せるか

Finasee / 2024年3月13日 18時0分

進まない野村HDのグローバル化 リーマン買収後の海外事業停滞は国内の株高で取り返せるか

Finasee(フィナシー)

国内証券で圧倒的な収益力を持つのが野村ホールディングスです。強固な顧客基盤と営業力に強みがあり、売上高に相当する収益は競合を大きく引き離します。

【主要証券の収益または営業収益(2023年3月期、連結)】
・野村ホールディングス:2兆4867億円
・SBIホールディングス:9986億円
・大和証券グループ本社:8661億円
・三菱UFJ証券ホールディングス:4928億円
・みずほ証券:4250億円
・SMBC日興証券:2495億円
※野村ホールディングスは米国会計基準、SBIホールディングスは国際会計基準、その他は日本基準

出所:各社の決算短信(野村ホールディングス(外部リンク)、SBIホールディングス(外部リンク)、大和証券グループ本社(外部リンク)、みずほ証券(外部リンク)、SMBC日興証券(外部リンク)、三菱UFJ証券ホールディングス(外部リンク)

国内を制する野村ホールディングスはグローバル化に取り組んでいます。海外進出は2008年に破綻したリーマン・ブラザーズの事業買収で大きく進展するはずでした。しかし成長は芳しくなく、現在も利益の大半を日本で生じています。

リーマンの基盤を手にした野村ホールディングスは、なぜ海外事業の拡大に苦戦しているのでしょうか。

今回は野村ホールディングスのリーマン買収と、現在までの海外事業の概況を振り返りましょう。

破綻直後に交渉 リーマンのアジア太平洋・欧州部門を承継

リーマン・ブラザーズは2008年9月、サブプライムローン関連商品で多額の損失を計上し倒産しました。破綻時の負債総額は6000億ドルにもおよび、世界的に信用不安や景気低迷を引き起こします。

これらリーマンの破綻に端を発した一連の経済危機をリーマン・ショックと呼びます。野村ホールディングスもショックのあおりを受け、2009年3月期は7000億円の純損失となりました。

巨額の損失を計上しながらも、海外の強化を目指す野村ホールディングスの行動は迅速でした。破綻直後に管財人と交渉し、リーマンの各部門の確保に動いたのです。

交渉は成功し、野村ホールディングスは破綻からわずか1ヵ月でリーマンのグローバルクラスの人材およそ8000人とITインフラを承継しました。

【野村HDのリーマン買収の経緯】
9月14日:リーマン・ブラザーズ破綻
・9月22日:アジア・太平洋地域の雇用の承継を発表
・9月23日:欧州・中東地域の株式および投資銀行部門の雇用の承継を発表
・10月7日:欧州のフィクストインカム(債券)部門の雇用を承継
・10月14日:インドIT関連会社3社を買収

出所:野村ホールディングス リーマン・ブラザーズの部門継承について(外部リンク)

野村ホールディングスはリーマンからの承継費用を20億ドル、野村ホールディングスとリーマンから承継した部門の単純合計した税引き前利益は50億ドルと見積もっていました(破綻に関連する一時的な損失を除く)。事業領域の重複も少なくシナジーが期待できたことから、翌期には収益化を見込みます。

しかし野村ホールディングスの目算は崩れます。

のれんを全額取り崩し 損失800億円で10期ぶり最終赤字

野村ホールディングスの海外部門は、リーマンからの承継で大きく拡大します。しかし収益は停滞し、利益面も経費が先行し赤字が常態化します。2011年3月期から6期連続で純損失となり、特に欧州地域はその全ての期で損失でした。2016年には欧州ビジネスの一部閉鎖を含む海外戦略の見直しを強いられます(出所:野村ホールディングス 欧州地域および米州地域におけるビジネス戦略について(外部リンク)

出所:野村ホールディングス 有価証券報告書(外部リンク)より著者作成

野村ホールディングスは海外の赤字を日本で補てんする状況が続きます。しかし2019年3月期は連結でも最終赤字に陥りました。リーマン承継などで計上していたのれん810億円について、収益性を見直し全額の減損を認識したためです。グループ全体での赤字はリーマン・ショック以来10期ぶりでした。

出所:野村ホールディングス 有価証券報告書(外部リンク)より著者作成

海外地域は2020年3月期にはいったん黒字化したものの、翌期から3期連続で赤字となっています。利益の大半を日本で稼ぐ構造はしばらく続きそうです。

【地域別の業績(2023年3月期)】

  日本 海外  収益(金融費用控除後) 8127億円 5228億円  純利益  1610億円  -115億円

※収益は外部顧客取引、純利益は地域間の内部取引を含む

出所:野村ホールディングス 有価証券報告書(外部リンク)より著者作成

株高で収益倍増 新NISAの積み上げ期待も

海外で苦戦が続いた野村ホールディングスですが、今期(2023年度)は追い風が吹いています。売り上げに相当する収益が前期比で大きく拡大しているのです。第2四半期まで前期比2倍以上で推移し、第3四半期までに前期の1年分の収益を稼ぎました。

【野村HDの四半期収益(累積)】

  2022年度 2023年度 増収率  第1四半期 4100億円 8934億円 +117.9%  第2四半期 9438億円 1兆9061億円 +102.0%  第3四半期  1兆7161億円  2兆9865億円  +74.0%  通期 2兆4867億円 ― ―

出所:野村ホールディングス 決算短信(外部リンク)

背景にあるのが好調な国内の株式市場です。日経平均株価は年度後半にかけて上昇傾向が強まり、2024年3月には史上初めて4万円台に到達しました。2023年度の総募集買付額は、2024年1月までの全ての月で前年度を上回っています。

出所:Investin.com(外部リンク)より著者作成出所:野村ホールディングス 営業活動実績(月次/四半期)(外部リンク)より著者作成

2024年から始まった新NISAも収益を後押しすると考えられます。1月の投資信託の募集買付額は前月比で550億円増加しました。残あり顧客口座も前年同期比で約10万口座を積み上げています。

海外の停滞は続いていますが、国内が好調な今期は業績の拡大に期待できそうです。利益は1~3月でどれくらい伸びるのでしょうか。通期決算が注目されます。

文/若山卓也(わかやまFPサービス) 

若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。

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