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日本株高騰でさらに注目の新NISA。「中間層と低所得層の間の不公平につながる」批判は妥当なのか

Finasee / 2024年3月18日 11時0分

日本株高騰でさらに注目の新NISA。「中間層と低所得層の間の不公平につながる」批判は妥当なのか

Finasee(フィナシー)

日経平均株価が34年ぶりに最高値を更新しましたね。いわゆる“バブル”の頃はまだ学生だった私は、証券会社に長年勤めているとはいえ、こんな相場水準を経験したことはありません(苦笑)。ですから、上がったら下がるのが日本の株式相場という平成時代の相場観は脱ぎ捨てて、令和の時代にマッチした、マインドチェンジを心掛けている毎日です。

この最高値更新で新NISAにもますます注目が集まるかもしれません。新NISAは非課税投資枠が大幅に拡大されたことに加え、成長投資枠とつみたて投資枠の併用も可能になりました。合わせると、年間360万円もの非課税投資ができるようになり、日本株のみならず、世界的な株高基調も相まって、日本でも「貯蓄から投資へ」の裾野が一気に拡大する、そんな期待の声も聞こえてきます。

一方で、私のもとには、こんな取材依頼もありました。

「新NISAは金持ち優遇制度なのではないか。あるいは、新NISAは中間層の資産形成の促進策であって、投資に回せる余裕のない低所得層には恩恵がないことを考えれば、中間層と低所得層の間の不公平につながらないか。これらの批判についてコメントを頂戴したい」とのこと。

ちょうど昨年末ですかね、この取材を受けたのは。もちろん、私なりの考えをお話しさせていただきました。でも、残念ながら(?)、今に至るまで、取材元の媒体で私のコメントを目にしたことはありません。ニュースバリューがないと判断されたのか、それとも、私の話にご納得されたのか、その点は定かではありませんが(苦笑)、この場をお借りして、新NISA批判に対する私の回答を披露いたします。

「新NISAは金持ち優遇制度ではないか?」という批判の根拠は…

2024年からの新NISA、2023年までの旧NISAと比較すると、年間投資枠については、つみたてNISAの年40万円が、つみたて投資枠では年120万円になり、一般NISAの年120万円が、成長投資枠では年240万円になりました。また、先ほども申し上げたとおり、つみたて投資枠と成長投資枠は両方利用できますので、合計で年360万円の非課税投資ができることになります。さらには、非課税保有期間は無期限化され、制度自体も恒久化されましたので、お金を持っていれば持っているほど有利になる、新NISAは一見すると、そんな制度にも思えるのです。

ただ、こうした富裕層優遇批判は、制度設計時から想定されていたことですね。例えば、令和5年度税制改正大綱※1には、以下の記載があります。

一方、投資余力が大きい高所得者層に対する際限ない優遇とならないよう、年間投資上限額とは別に、一生涯にわたる非課税限度額を設定することとする。その総額については、老後等に備えた十分な資産形成を可能とする観点から、現行のつみたてNISAの水準(800万円)から倍増以上となる1,800万円とする。また、「成長投資枠」については、その内数として現行の一般NISAの水準(600万円)の2倍となる1,200万円とする。

※1 出所:自由民主党・公明党「令和5年度税制改正大綱(令和4年12月16日)」

そうです、新NISAで新たに導入されたルール、「非課税保有限度額」のことですね。年間投資枠の大幅拡大も、非課税保有期間の無期限化も、この新ルールとセットで考えれば、新NISAは金持ち優遇制度だとは言えない、そういうことだと思います。

この「非課税保有限度額」という新しいルール、政策的に意図していたのかどうかは分かりませんが、富裕層優遇批判を回避するためだけに導入されたわけではない、そんなふうにも思います。どういうことなのか、おいおいご説明しましょう。

新NISAは中間所得層の資産形成の促進策なのか?

さて、そもそも新NISAとは中間層の資産形成の促進策なのでしょうか? NISAの利用状況を踏まえると、その答えは「Yes」。昨年12月に開催された日本証券業協会の証券戦略会議の資料※2から、いくつかのデータを紹介しましょう。

●NISA口座の所得区分別利用状況
一般NISA利用者のうち、約7割は年収500万円未満
つみたてNISA利用者のうち、約7割は年収500万円未満
一般NISA、つみたてNISAともに中間層を中心に利用されている(日本の平均給与は433万円)


●NISA口座の保有金融資産別利用状況
一般NISA利用者のうち、約4割は金融資産1,000万円未満
つみたてNISA利用者のうち、約7割は金融資産1,000万円未満

一般NISAは中間層の高齢者(資産活用層)を含め幅広い世代で利用されているため、金融資産は高くなる傾向があり、つみたてNISAは中間層の資産形成層である若年層に多く利用されているため、金融資産が低くなる傾向がある(日本の家計の平均保有金融資産は単身世帯で1,062万円、2人以上世帯で1,563万円)
 

※2 出所:日本証券業協会、投資信託協会、全国証券取引所協議会「直近のNISAの利用状況と新しいNISAに向けた官民の取り組みについて(2023年12月)」

上記データに基づき、一般NISAとつみたてNISAを合わせて考えると、NISA利用者の約7割は年収500万円未満であり、過半数は金融資産1,000万円未満となるので、NISA制度は中間層の資産形成のために活用されていると言えるでしょう。

新NISAは中間層と低所得層の間の不公平につながらないか?

最後の論点ですが、これはちょっと“あら探し”感が否めないですね(苦笑)。とはいえ、投資に回せる余裕のない低所得層は新NISAを利用できないわけですから、利用できる人との間には不公平感がある、たしかにそうかもしれません。でも、この点については、旧NISAと新NISAを比較すると、違う景色が見えてくると思います。

例えば、旧NISAのつみたてNISAが今でも続いていたら、と考えてみましょうか。つみたてNISAは非課税保有期間が20年間ですが、新たな投資ができるのは2042年まで、でしたよね。

例えば、2023年からつみたてNISAを始めた人は、年間投資枠40万円を2042年まで20年分利用できますので、非課税で投資できる総枠は800万円(=40万円×20)になります。一方、10年後の2033年からつみたてNISAを始めた人は、2042年まで10年分しか利用できないので、非課税で投資できる総枠は400万円(=40万円×10)にしかなりません。

実は、早く始めた人ほど、非課税で投資できる総枠が多くなる、これが旧NISAだったのです。逆に言えば、投資に回せる余裕のない低所得層にとっては、今、NISAを利用できないことは非課税で投資できる総枠が減ってしまうという意味で、NISAを利用できる人と比較すると、取り返しのつかない差が生まれていたと言えるでしょう。こんなふうに考えると、旧NISAは中間層と低所得層の間の不公平につながる、そういう制度だったのかもしれません。

これが新NISAになって、どのように変わったのか。低所得層にとって一番意義深いと思うのは、NISA制度自体が恒久化されたことだと思います。つまり、新NISAの利用を開始するタイミングはいつでもいい、とても自由な制度だということ。今、投資に回せるお金のない低所得層も、将来懐に余裕ができた暁には、新NISAを始められるのです。

そしてもう1つ、注目に値するのが「非課税保有限度額」という新しいルール、1,800万円という非課税で保有できる上限金額が定められたことだと思います。つまり、新NISAの利用を今、開始しても、例えば10年後にはじめても、非課税の投資機会という意味では同じ、とても平等な制度だということ。今、投資に回せるお金のない低所得層も、将来、懐に余裕ができた後でも、新NISAで同じだけ非課税投資できる機会があるのです。

こんなふうに旧NISAと比べることで、新NISAがより自由で、かつ、より平等な制度であるとご理解いただければ、今、利用できるか否かという観点だけで、新NISAが中間層と低所得層の間の不公平につながるとは言えない、そんなふうに思います。また、先ほど、「非課税保有限度額」が富裕層優遇批判を回避するためだけに導入されたわけではないと申し上げたのは、この新しいルールが、新NISAの使い勝手の良さの中でも特に、非課税投資の機会均等を担保しているものだと思うからです。

***
 

昨年末の新NISAの取材では、以上のような内容をお話しさせていただきました。そして、新しい年になり、好調な株式相場が続く中で、ネットでも新聞でも雑誌でも、毎日のように新NISA関連の記事や特集を目にします。もしかしたら、まだ新NISAの始めていない人の中には、「私は乗り遅れているのでは……」と焦っている方もいるかもしれませんね。

でも、安心してください。新NISAという制度自体は、今、始めないからと言って、あなたを仲間外れにはしません。つまり、非課税で投資する機会は減らないのです。

なぜなら、いずれ懐に余裕ができた時に始めても、非課税で投資できる機会はちゃんと担保されているわけですから。「新NISAはとても使い勝手の良い制度、だからこそ、人それぞれの活用法がある」そんなふうに考えて、少しでも心持ちが軽くなった方がいらっしゃれば幸いです。

小出 昌平/大和証券 ライフプランビジネス部 担当部長

1993年4月大和証券入社。投資信託の開発や富裕層ビジネスの企画・運営業務などを経て、2015年より確定拠出年金業務に従事。現在は、iDeCoと呼ばれる個人型確定拠出年金の周知・普及活動に携わりながら、自治体や事業会社の職場における金融・投資教育、ライフプラン教育の支援活動に取り組み中。

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