米国を中心にスローダウン…? 2024年後半、世界のマーケットはどう動くか
Finasee / 2024年3月14日 7時0分
Finasee(フィナシー)
ピムコジャパンリミテッド
エグゼクティブ・バイス・プレジデント
覚知 禎 氏
――2023年度のグローバルな経済・マーケットについて振り返ってください。
欧州諸国やカナダ、オーストラリアなど経済活動がスローダウンした国もありますが、グローバル経済としては市場の想定よりもかなり堅調だったと思います。かつて低位にとどまっていた各国の政策金利が2022年度に急上昇したことを受け、23年度からは少しずつ景気後退へと向かうとの見通しが大多数だったと思いますが、一定の経済活動がキープされた印象です。
背景としては、グローバル全体で需要の根強い状況が続いていた点が挙げられるかと思います。例えば米国では、新型コロナ対策の現金給付により家計に蓄えられていた「強制貯蓄」が、消費を下支えしました。また米国経済のストラクチャーの特徴として、金利上昇の影響が家計や企業に及ぶまで時間がかかるようになっているため、政策金利の引き上げが企業や家計の経済活動に直撃しなかったのもプラス要因となりました。
さらに、インフレ率の上昇が鈍化して金利引き下げへと意識が向かう中、投資マネーがリスク資産に集まり、米国を中心に株高となったことも家計の消費を促しました。欧米諸国、とりわけ米国は家計の保有しているリスク資産が日本に比べて圧倒的に多いので、株式市場の高騰が消費を刺激して経済が回る「資産効果」が引き起こされたと推察できます。
――堅調な経済は今後も続くのでしょうか。2024年度の経済・マーケット展望をお聞かせください。
2023年の堅調度合いが24年も続くとは考えにくいでしょう。米国を中心に、リセッションとは言わないまでも、スローダウンしていくことをメインシナリオと考えています。
スローダウンを予測する理由としては、堅調なグローバル経済を支えてきた追い風要因が徐々に失われつつあることが挙げられます。例えば米国の強制貯蓄はすでに枯渇間近の状況ですし、資産効果の要因となっていたインフレの鈍化もこれ以上は見込みづらくなってきました。FRBが利下げ開始の目標としているインフレ率2%への低下にもしばらく時間かかりそうです。
ただ当然ながら、メインシナリオのみならずリスクシナリオをしっかり考えておくのも大切です。実際、23年を振り返っても当初の市場予想とは乖離した結果でした。
――リスクシナリオについては具体的にどのような想定をしていますか。
景気停滞を予測するメインシナリオとは反対に、アップサイドのリスクも相応にあると考えています。例えば米国経済でインフレが高止まりしているのは、労働市場における需給が非常にタイトな状況が続いており賃金の伸び率が大きいためと考えられるので、しばらく現状の堅調な景気が続く可能性があります。
また欧州経済に目を移すと、経済活動自体はまだ低調であるもののボトムアウトし始めている状況です。
さらにグローバル全体の製造業の動向を示す購買担当者景気指数(PMI)などの先行指標にも底入れした状況がうかがえます。
以上の点を踏まえると、想定よりも全体的に景気が強いという可能性も少なくありません。そもそもメインシナリオとしているソフトランディングは、歴史的に見てかなりレアケースであることも付言しておきます。
――国内外の経済・マーケットを左右するとして注目されている利下げのタイミングやペースについては。
利下げ開始のタイミングは2024年半ばから後半になるのではないかと思います。ペースとしては、米国でも欧州でも足元のマーケットで24年末までに75~100bpsの利下げを織り込んでいると思いますが、われわれの見通しでは、利下げ幅はそれよりも限定的にとどまると予測しています。前述の通り米国の経済活動が相応に強いため、FRBが利下げに踏み切る水準までインフレ率が下がるのが遅れる可能性があるためです。
欧州についても、現在の金利水準を踏まえると、少なくとも24年は米国と同様の利下げペースになると予想しています。
リスクシナリオとしては、当然ながら上にも下にも振れるリスクがあると思います。仮に結局インフレが落ち着いていかないのであれば、利下げ開始がより遅れる可能性がありますし、逆に景気後退が早まれば200~300bpsくらいの利下げも想定できるでしょう。
――中国市場のセンチメントはかなり弱気になっている印象ですが、同国経済の先行きや、日本や世界の経済にもたらす影響をどう見ていますか。
中国の成長自体は鈍化していますが、日本や世界の経済に及ぼす影響はさほど大きくないと考えています。中国のGDP成長率を見てみると2023年が5.2%で、24年も4.5~5%と若干下がる程度に落ち着くというのが当社の見通しです。
ただ、成長の構成要素は様変わりすると思います。2023年はコロナ禍からの回復により消費がそれなりに旺盛にはなりましたが、すでにスローダウンしてきていますので、今後はインフラ投資などの政策の強化によって成長率を下支えすることになるでしょう。成長率が維持できれば日本を含め世界経済への影響は警戒するほどではないと思いますが、かつて中国が果たしてきたグローバル市場における「成長のエンジン」のような役割はもはや期待できないかもしれません。
オルイン編集部
「オルイン」は、株式・債券といった伝統資産はもちろん、ヘッジファンドやプライベートエクイティ、不動産といったオルタナティブもカバーする、国内随一の機関投資家向け「運用情報誌」。2006年の創刊以来、日本の年金基金や金融法人、公益法人といった機関投資家の運用プロフェッショナルに対し、その時々のタイムリーな話題を客観的かつ独自の視点でわかりやすくお伝えしています。
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