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しつけの大変さに後悔…“熟年離婚”危機の夫婦のもとへ来た犬がもたらした「思いもよらないこと」

Finasee / 2024年3月21日 17時0分

しつけの大変さに後悔…“熟年離婚”危機の夫婦のもとへ来た犬がもたらした「思いもよらないこと」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

恵美(55歳)は、次男が就職して家を出たことで、夫の和幸(59歳)と夫婦2人きりの生活になった。話しかけるのは恵美ばかりで、会話はなく無気力な和幸にいらだちはつのるばかり……。「熟年離婚」を考えるようになった恵美は、友人との会話の流れて急にポメラニアンを飼うことになったが……。

●前編:このままでは熟年離婚…息子が巣立ち夫と2人きりになった妻が言った「自分でも信じられない言葉」

 

あたらしい家族を迎える喜び

それから恵美は仁美のアドバイスを聞きながら、犬を受け入れるために必要なものをそろえる。そこで驚いたのは必要なものごとが多いということだった。

室内犬なのでケージを買えば終わりと思っていたが、もっと多くのものが必要だと知った。それでも恵美は大変だと思う気持ちよりも、圧倒的に「楽しみ」という気持ちのほうが勝っていた。

恵美は仁美と引き取りの話を終えた後、すぐに和幸にそのことを報告した。反対されるかと思ったが、和幸は思ったよりもあっさり認めてくれた。

そして恵美は犬を引き取るための準備を早速始める。

犬を飼うときには必ず病院に行き、ワクチンを注射しないといけない決まりになっている。1回の接種で1万円ほどなのだが、今回は仁美がやってくれるということになった。

そしてペットショップへ犬を迎えるためのケージや食器を買いに行った。店員のアドバイスを聞きながら、グッズをどんどん買い込んでいく。仁美から送ってもらった画像を見ながら、似合う首輪などを探しているのはとても楽しかった。

恵美は長男が生まれたばかりの時にベビー用品を選んでいた、あのときの気持ちを思いだしていた。

またこんな幸せを感じられるなんて、と感激をしながらグッズを選び続けた。すべて満足にそろえ終えると、出費は8万円とかさんだが、恵美は満足していた。

いきものを飼うことの大変さ

それから2週間後、仁美が家まで犬を連れてやってきてくれた。

玄関先で仁美は犬を見せてくれる。手持ちのケージからよたよたと出てきたのは真っ白い毛に覆われた小さな犬だった。

恵美はその瞬間に、名前を「ユキ」にしようと決めた。

「かわいい~。写真で見るより、実物のほうがいいわ~」

「うん。けっこう人懐っこい子だから。すぐに仲良くなれるわ」

仁美が言い終わる前に、ユキは恵美の膝に近づいて来た。そして恵美はユキを抱き寄せる。

小さくて温かい。思わず笑顔がこぼれた。

するとリビングにいた和幸もひょっこりと顔を出す。

恵美は思わず笑ってユキの顔を見せた。

「ねえ、あなた、みて。とってもかわいいわよ」

その瞬間、和幸はふっと笑った。

「ああ、本当だな」

仁美は和幸にあいさつをする。

そして仁美から飼う上での注意を幾つも教えてもらった。恵美と和幸は並んでその話を真剣に聞いた。

そこからユキとの幸せな生活が始まるものと思っていたが、犬との暮らしは恵美が思っている以上に大変なものだった。

「ああ、また……」

リビングの床に小さな水たまりができている。恵美はそれをティッシュで拭き取る。そして離れた所でその光景を見ているユキに声をかける。

「おしっこはシートの上でしなさいっていつも言ってるでしょ」

そう言って恵美はユキをシートの上にのせる。

「おしっこはここ。分かった?」

しかしユキはただこちらを見ているだけで反応はしてくれない。ユキにトイレを覚えさせるのはとても骨だった。仁美に相談をしたのだが、辛抱強く教え続けるしかないと言われてしまった。

ユキはかわいいのだが、しつけがこんなに大変だとは思わなかった。さらに大きくなると、外での散歩も必要になってくる。

そして恵美は少しずつ安請け合いをしてしまったことを後悔するようになっていく。

ユキの異変

そんなある日、事件が起こる。

シートの上でしっかりとユキが便をするようになり、恵美はそれを片付けようとした。そこで異変に気付く。

「きゃあ!」

恵美は思わず声を上げていた。それを聞いた和幸が走ってくる。

「ど、どうした?」

「あ、あなた、どうしよう! ユキがち、血のついたうんちを……!」

ユキの出した便に血がついていたのだ。恵美は気が動転する。

「ひ、仁美に取りあえず聞いてみて……!」

「いや、まずは病院に連れて行こう。この近くに動物病院があるから、そこに連絡をする。恵美はすぐにユキをキャリーに入れなさい」

「え、う、うん」

それから和幸は病院に連絡を入れて、すぐに病院へと向かってくれた。

恵美はただ心配するしかなかったが、和幸はしっかりと医者にユキの状況を伝えてくれて、さらに便のついたシートを持ってきたことですぐに検査も受けることができた。

結果的にはストレス性のものであると判明。新しい場所で生活をする子犬にはよくあることだと医者は説明してくれた。

それを聞き、恵美は一安心をする。

ユキのおかげで気づいたこと

家に帰り、恵美は和幸に気になったことを聞いた。

「何で、あんなに慣れてたの?」

「だって昔、うちで犬を飼ってたから」

「え、そうだっけ⁉」

「そうだよ。だから昔は2人でペットショップ巡りとかしてただろ」

和幸に言われて、恵美はそのときのことを思い出した。

「ごめんなさい、忘れてたわ……」

「そら、もう20年以上前の話だからな」

そこで恵美は記憶のすりあわせをするように昔話をする。和幸は恵美が驚くほど、昔のことを覚えていた。

そして恵美はあることに気付く。

「なんかさ、昔ってあなた、魚ばっかり食べてた記憶があるんだけど。好みは変わったの?」

「いいや、今でも魚が好きだよ。刺し身が1番好きだから」

「あれ、じゃあなんでお肉ばっかり食べてるんだっけ?」

「それは透や良介に合わせてたからだよ。俺は別に要望してない」

それを聞き、恵美は驚いた。そして笑ってしまった。

「もう、それなら先に言ってよね! あなたが好きだと思ってた!」

「いや、別に、嫌いってわけでもないし。あいつらもうまそうに食べたからな」

和幸は照れくさそうにそう話した。

そうだ、この人は自分よりも周りのことを考えてしまう人だった。そんな優しい人だから、恵美は結婚をしようと思ったのだ。

「ねえ、あなた。ありがとうね」

「何が?」

「ユキのこと、私1人だったら、焦っちゃってダメだった」

「2人で育てるって決めた犬だろう」

和幸は事もなげにそう言ってくれた。

この人は何も変わってない。変わっていたのは自分だったんだと恵美が気付いた。

家族旅行

それからも2人は協力しながらユキの面倒を見た。

動物病院での定期検診や散歩などは和幸が行い、しつけや餌やり、ブラッシングなどのケアを恵美が担当した。

こうして負担がなくなったことで、恵美は余裕を持ってユキと接することができるようになった。

さらに思いもよらなかったのが夫婦の会話が増えたことだ。

ユキに関することの会話が増え、今では何てことない世間話までできるようになった。

だから自然と、リビングでユキをなでている和幸に向けて恵美は提案することができた。

「ねえ、ここの温泉旅館って、ペットも同伴可能なんだって。今度の休みに行ってみない?」

それに対して和幸は笑って答えた。

「いいね。楽しそうだ」

きっと和幸はこの提案の裏に隠された気持ちを知らない。

その日は2人の結婚記念日であり、久方ぶりの旅行になるのだ。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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