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新入社員にどう伝える? NISAにはない確定拠出年金のメリット

Finasee / 2024年3月29日 11時0分

新入社員にどう伝える?  NISAにはない確定拠出年金のメリット

Finasee(フィナシー)

4月、新入社員を迎える季節となりました。確定拠出年金(DC)を実施されている企業では、社員研修の一環としてDCの説明を組み込まれていると思います。今回は、DCに初めて出会う人への情報提供について、考えてみましょう。

加入時の意思決定が老後資産形成に大きく影響

企業型DCの加入者は、2023年3月末で805万人を超えました(※1)。DC制度は自身のリスク許容度や目標金額などに応じて、運用商品を選び、適宜変更できる仕組みになっています。

では、運用商品を変更したことのある人は、どれぐらいいるかご存じでしょうか?
離転職の際には運用商品が現金化され、新たなDC口座で運用商品を選び直しますが、そうした人の統計がないため、離転職者は抜かして考えてみます。

入社時からDC口座が変わらない人の中でみると、運用商品の変更を経験した人は3割程度です(野村證券受託の企業型DC実績)。掛金部分の配分変更を1回でも実施したことのある人は33.5%、スイッチングをしたことのある人は29.3%となっています(※2)。この数値には運用商品の除外を機に強制的に運用商品を変更することになった人も含まれるため、自らの意思で運用商品変更をした人はさらに少ないと思われます。

こうした状況を逆に考えると、企業型DCの開始時や新規加入時に運用商品を決定した後、運用商品の見直しをせずに受け取り時期を迎える人が相当数に上る、と考えられます。

加入時の一時点での判断が、その後の資産形成に直結する人もいるわけですから、新規加入対象者への情報提供は、非常に重要なものといえます。

(※1)運営管理機関連絡協議会「確定拠出年金統計資料」2023年3月末
(※2)2023年12月末の数値。加入期間は対象者によって異なる。

「自分のこと」として認識してもらうことが大事

新規加入対象者の「意思決定」が必要なのは、下記の2点です。

まず一つは、掛金の配分指定です。さらに規約によっては、自ら掛金拠出をするかどうか(マッチング拠出を活用する、もしくは選択制DCへの加入)を決める必要があります。

掛金の配分指定に際しては、運用シミュレーションの提示が、判断材料として有力です。例えば、説明をする時までに、加入対象者個々人の情報を反映したWEBサイトを準備しておくと、「自分のこと」としてDC制度を意識してもらうことにもつながります。

特に新卒社員の場合、60歳まで長い時間をかけて積立投資ができます。毎月2万円ずつ38年間、3%で運用できたとすると1710万円になります。元金は912万円なので、およそ2倍です。結果が想像できれば、考えることを放棄するリスクを減らすこともできます。

シミュレーションが準備できないケースでは、過去の積立投資のグラフを表示します。ここで重要なのは、資産分散しているバランス型投資信託についても説明し、分散投資が重要であることを実感してもらうことです。

日経平均が史上最高値を更新した現在、リスクを過度にとることにもつながりかねないからです。

「活用することが基本」というスタンスで説明する

米国では、401(k)への掛金拠出をデフォルト(初期設定)とし、拠出をしたくない人のみ申し出る「オプトアウト」方式を採用できます。英国でも、NEST:国家雇用貯蓄信託: National Employment Savings Trustという名称の確定拠出年金制度では、米国401(k)同様の施策が実施されています。その結果、米英両国では確定拠出年金制度を活用する人が飛躍的に増加しました。

米英両国の施策は行動経済学の知見を生かしたもので、現状維持バイアス(制度を利用するためには新たな行動を起こす必要があり、現状維持を保とうとする状態)や、双曲割引(遠い将来の年金受取の価値を非常に低く評価するバイアス)を回避することに役立っています。

日本では「オプトアウト」方式を使うことができないため、あくまで本人の選択になります。そこで大切になるのが、伝える側の意識です。

制度を説明する事業主が「あくまで任意の制度」というスタンスでいる場合、現状維持バイアスなどにより「利用しない」という判断になりがちです。これまでの経験上、「利用することが基本」という姿勢で説明した場合には、制度の利用率が上がる傾向があります。

NISAとの違いを説明する

つみたてNISA(少額投資非課税制度)との違いを説明することで、DCの利用促進につながる可能性もあります。

例えば、次のような違いです。
①DCは拠出時の所得税・住民税の軽減効果がある ⇔ NISAは課税後所得からの投資
②DCは原則60歳まで活用できない資産 ⇔ NISAはいつでも換金できる
③DCは拠出限度額があまり大きくない ⇔ NISAは年間360万円(つみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円)で非課税保有限度額は1800万円
④DCはスイッチングがいつでもできる ⇔ NISA口座の商品を売却しても非課税枠が復活するのは翌年

②③は一見、NISAに軍配が上がるように思えますが、③の60歳まで活用できない資産というのは、逆にいえば60歳まで取り崩すことなく確実に積み上げられる資産ともいえますし、③の拠出限度額が大きくない点はリスク抑制の役目を果たすともいえます。

また、④の制度内でいつでもスイッチングできる(売却して利益確定した後も直ちにほかの商品を購入できる)点は、NISAにはない大きなメリットといえるでしょう。

つみたてNISAの認知度は高く、利用者数も増えていることが判明しました。「投資に関する1万人アンケート調査」によると、積立投資を行っている人の割合は推計 1903 万人で、その53.2%はつみたてNISAで実施となっています。一方で、DC制度の認知度は低いと指摘されています(※3)

この2~3年で、新入社員のなかでも「NISAをやっている」という人が増えつつあることとも符合します。

年末に金融庁から公表された資産運用立国実現プランが実現されることで、10年後、20年後には積立投資のメリットを説明する必要さえない状況に変わっているかもしれません。
(※3)一般社団法人投資信託協会「投資に関する1万人アンケート調査」2022年3月29日公表

 

津田 弘美/野村證券株式会社 確定拠出年金部

社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。

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