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タワマン住み“キラキラ夫婦”が入居直後に家賃滞納…「主人が払っている」と主張する妻への違和感

Finasee / 2024年3月26日 11時0分

タワマン住み“キラキラ夫婦”が入居直後に家賃滞納…「主人が払っている」と主張する妻への違和感

Finasee(フィナシー)

債権者代理人の仕事

私は都内の不動産管理会社の管理部門に勤務しています。いわゆる「債権者代理人」と呼ばれる仕事で、不動産会社の代わりに家賃の滞納がある居住者への対応を行います。

例えば内容証明郵便で賃貸借契約の解除通知をする、物件の明け渡しを求めて裁判を起こすなど……。裁判所から退去を命じられても物件にとどまる居住者には、強制執行といって建物から強制的に退去してもらうこともあります。

今回は名古屋からの転勤で都内のタワーマンション(以下、タワマン)に転居した後、東京地方裁判所の判決に基づき強制執行に至ってしまった「横井夫妻」のケースをご紹介します。

入居直後から家賃滞納を始めた夫婦

梅雨に入った東京のとあるタワマンでの出来事です。名古屋からの転勤で横井夫妻が転居してきました。ご主人は貿易会社に勤めるエリートサラリーマン、奥様は青山の有名なネイルサロンに勤務するネイリストでした。

<債務者プロフィール>

・夫:横井拓也さん(仮名)、32歳、貿易会社勤務
・妻:横井優香さん(仮名)、31歳、ネイリスト
・都内タワーマンション居住
・家賃等:月額26万円
・入居から5カ月

***
 

華やかに見えた横井夫妻ですが、意外なことに入居後すぐに家賃滞納が始まりました。ご主人は出張が多く奥様も忙しいのか、電話で連絡をとっても留守電になってしまいます。しばらく全く連絡のつかない状況が続きました。

仕方がないので緊急連絡先に記載のあるご主人の両親に連絡を入れますが、こちらも応答がありません。そうしているうちに3カ月の家賃滞納となり、裁判所に対して建物明渡の訴訟(※)を行うことになりました。
※長期の家賃滞納など、契約違反をしている入居者を物件から退去させるための訴訟。勝訴判決を得られれば強制執行も可能となる

そこでひとまず居住中かどうかの確認も含め、私は直接タワマンに足を運ぶことにしたのです。

現地調査

現地に着くとまず華やかな装飾のゲートが目に入ります。このまま早速エントランスへ向かいたいところですが、タワマンは特にセキュリティが強固。簡単には入ることができません。詳しい事情は伏せつつ管理人に「調査」の名目で同意を得て、建物内に入りました。

集合郵便受けには、1枚のチラシとご主人宛ての光熱費の請求書。どうやら電気、水道、ガスのライフラインは稼働しているようです。続いてエレベーターで20階の居室の前に移動。玄関周りは綺麗に整頓され、ドアには「WELCOME」と歓迎の文字。木製の表札に「YOKOI」の名前を確認し「これは確実に居住中だ」と確信を得て会社に戻りました。

明渡判決の確定

数日後、「裁判所より明渡判決が確定した」という報告を得て判決書(※)を受け取りました。ここから建物明渡に向けて本格的に法的手続きを始めます。
※部屋の明け渡しと、未払いの家賃の支払いに関する債務名義

まずは、必要資料を収集して裁判所での手続きを済ませ、裁判所の執行官と1回目の「催告」(※)に関する日程調整です。日程が決まると、技術者(鍵解錠専門者)と補助者(明渡に関する業務補助)にも連絡を入れました。
※不動産会社側から居住者に、期間内に滞納分の家賃の支払いを促す通知のこと。実際に居住者の居室に入り、家具や備品を確認して強制執行に必要な作業員の人数などを見積もる

次に債務者である横井夫妻にも知らせなければなりません。書面で「●月●日 強制執行」の通知(催告書)を作成し、書面を投函しました。

催告の日

「強制執行の通知」を投函後も、横井夫妻とは連絡がとれず状況が分からないままです。そのまま、とうとう催告の当日を迎えました。

技術者、補助者、立会人と合流すると、建物の片隅で概要の説明を済ませます。技術者いわく「このマンションの玄関ドアの解錠は、かなり難しいですよ」とのこと。最新式のセキュリティであり、普段通りのピッキングでは解錠は困難。もし横井夫妻が不在の場合、玄関先で鍵穴を調査して新たに鍵を製作する必要があるということでした。

しばらくすると執行官が到着し、関係者で20階の居室に向かいます。フロアへ出ると突然強烈な風が吹きつけ、これから起こる何かを予感させるようでした。

執行官がインターフォンを押しドアをノックすると、しばらくしてインターフォン越しに「どなたですか?」と女性の声。

「裁判所の執行官です。玄関ドアを開けてください。詳しい内容は玄関内でお話します」

執行官が指示すると、そこでようやくドアが開きました。

綺麗な部屋に潜む違和感

「横井優香さんですね?」

執行官が質問すると、優香さんは「はい」とうなずきます。

「この住居は債権者より建物明渡強制執行の申立があり、本日、訪問しました。裁判所の判決により、建物を明け渡してください」

執行官が告げた訪問理由に対して、「何故ですか?」と優香さんは目を見開いて聞き返します。続いて債権者代理である私も説明を加えます。

「横井さんは、入居後、家賃等を全くお支払いになっていませんね。3カ月以上の滞納があり、裁判で判決が出ました。建物を明渡してください」

優香さんは「主人が払っていると思いますけど……」と答えますが、私は印刷した滞納状況を見せて家賃滞納の事実を説明しました。

「これから室内の荷物の量を確認します。執行官と債権者代理と補助者が入室するので、ご了解ください」

執行官から説明があり、いざ入室。室内はとても綺麗に整理整頓されて、まるでモデルルームのようでした。転勤が多いのか私物が少ないようです。

「本日の催告では、金品等の差押えはしません。ただし、●月●日●時より強制執行、つまり“断行”をおこないます。前日の●日までに、全ての私物を搬出し部屋の鍵を債権者に返してください」

執行官が説明した後、指定の日に断行を行うことを示した「催告書」が優香さんに手渡され、公示書を玄関の壁(カレンダーの下)に貼り付けました。優香さんの署名・捺印をもらって催告は完了しました。

ただ、私はこの時ある違和感に気付きました。ご主人は出張中のようでしたが、リビングには5台のスマートフォンが充電され、玄関には男物のスポーツシューズと革靴。そして何より債務者である優香さんは綺麗なワンピースにオレンジ色のネイル。まるで今の今まで人と会っていたかのような姿だったことです。

●いよいよ断行(強制執行)の日を迎える横井夫妻。ところが当日在宅していたのは何も事情を知らない様子の拓也さん1人だけ……。後編【タワマンから不幸の底へ急転直下…家賃滞納5カ月で強制退去、判明した妻の「二重の裏切り」】で詳説します。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。

中標津 勇次/ライター

大学卒業後、証券会社に入社。株式、債券などの市場業務を経験。その後、金融関係会社を経て現在は不動産管理業務に従事。民法他、法律関係業務を得意としている。管理物件で強制退去の執行に関わるうちに、日本の金融教育が不足していることを痛感し、現代人のマネーリテラシーを高めるべく文筆業を開始した。座右の銘は「朝に道を聞かば、夕べに死すも可なり」。

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